ハウスDr.園子

MIKAN🍊

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32.高級車

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園子は退院した。それきり翔太から連絡はなかった。
これで良かったのだ。そう思うように努めた。
部屋を片付け、余計な荷物を整理した。
役所からもらったカレンダーをめくってワレモノと粗大ゴミ回収の日に印を付ける。
この部屋は想い出が多すぎる。美佐夫の存在の大きさに園子は改めて気付かされた。
あんな男でも愛していたのだと思うと切なくなってくる。落ち着いたら面会に行っても構わないとさえ思えた。
女は男で変わるものなのだ。今の自分は何色にも染まっていない無色透明。
心の中には抜けるような青空が広がっている気がした。
得体の知れない重苦しさから解放されたような。それともこれが独りぼっちの気楽さだったろうか。それが不思議と心地良かった。

ハウスDr.のロゴマークが入った作業衣を名刺の束と一緒にビニール袋に詰めているとケータイが鳴った。
【藤 間】
翔太だ!園子は深呼吸をひとつして電話に出た。
「はい。園子です!」

「ああ良かった。椎名さんですね?」
声の主は翔太とは違う、もっと大人の中年の男性だった。何処か懐かしいような。そんな声質。
その声は「良かった」と喜んでいる割には落ち着き払っていた。
「あの、どちら様でしょうか」
園子はいかにも怪訝そうに尋ねた。この時になってやっと園子は違和感を覚えた。
「椎名園子さんですよね?」
確認するようにその声は言った。
「はい。そうですが」

「藤間と申します。翔太がいつもお世話になっています」
あっと園子は小さく声を漏らした。
「こちらこそ。いつもお世話になってます」
間抜けな受け応えになってしまった。
相手はいんぎんに、そして無造作といえるほど打ち解けた感じで話を続けた。
「お話ししたい事がありまして。今日お時間は宜しいですか」
「え、はい。今日ですか?どの様な?」
「それがちょっと電話では話しにくい事でして。直接お会いしたいのですが如何でしょうか」
「はい…まあその」園子は言葉を濁した。

「実はもうそばまで来ております」
「えっ?」
園子は反射的にインターホンのモニターを入れ、それからベランダに出て家の周囲を見渡した。
マンションの駐車場に見慣れない黒塗りの高級車が停まっている。
その傍らに男が二人。
濃いブルーのスーツを着た背の高い男が園子に向かって手を挙げた。
もう一人は車に寄り添うようにしてかしこまっていた。

 
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