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29.ケジメ
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園子は窓際の一輪挿しをぼんやり眺めた。
「これ?藤間君?」
翔太は片方の手だけを使ってコップに水を注いだ。
「そうす。係長どぞ」
「ありがとう」
喉を無味無臭の爽やかさが流れ落ちていった。
「菊池さんとこ行ってきたす」
園子はゴクンと飲み干してから尋ねた。
「菊池さんて、菊池邸?何しに?」
「金を返しに行ったす」
翔太は母親に叱られる前の子どものような顔をした。上目遣いに園子を伺いながら。
「インチキして契約した工事だから代金を返しに行ったす」
「ふーん。それで?」
「いらないって。どっちみち手直しする時期だったからって。壁の塗り替えはするつもりだったからちょうど良かったのよって」
「そう。そんなものよ。あそこはそんなズルい事してないわ」
窓の外を二羽のスズメがふざけ合いながら飛び回っていた。
ビルの隙間から真っ赤な太陽が沈み始めた。
「水漏れしてるって俺、嘘ついたっすから」
「まあそこはね。仕方ないわ。マニュアルだから。間違いもあるって事で」
「そういうわけにいかないから置いてきたす」
「何を?お金を?」
「全額は無理なんであるだけ。残りはあとで返すっす」
「菊池さん。受け取ったの?」
「玄関の外で一晩明かしたすから。菊池さん諦めて受け取ってくれたっす」
翔太はエヘヘと笑った。
「馬鹿ね。よくそんなお金あったわね」
「これでも多少は貯金してたすから!もう空っけつす」
園子はふと真顔になった。
「そんな事して何になるの?」
「ケジメす。俺なりの」
園子はしばらく考えて言った。
「それなら私も出すわ。今は私も空っけつなの。貸しておいて。あなたの上司だったから、これは私のケジメね」
「オーケーす」
翔太は嬉しそうにコップにもう一杯水を注いだ。
「乾杯す」
「うん。乾杯!…ん?まだ何かあるの?」
「もう一つケジメつけたい事があるす」
「なあに?」
「俺と結婚して下さい!」
ブッ!!
園子は口に運んだ水を吹き出した。
驚いたスズメ達が一瞬顔を見合わせて飛び去った。
「これ?藤間君?」
翔太は片方の手だけを使ってコップに水を注いだ。
「そうす。係長どぞ」
「ありがとう」
喉を無味無臭の爽やかさが流れ落ちていった。
「菊池さんとこ行ってきたす」
園子はゴクンと飲み干してから尋ねた。
「菊池さんて、菊池邸?何しに?」
「金を返しに行ったす」
翔太は母親に叱られる前の子どものような顔をした。上目遣いに園子を伺いながら。
「インチキして契約した工事だから代金を返しに行ったす」
「ふーん。それで?」
「いらないって。どっちみち手直しする時期だったからって。壁の塗り替えはするつもりだったからちょうど良かったのよって」
「そう。そんなものよ。あそこはそんなズルい事してないわ」
窓の外を二羽のスズメがふざけ合いながら飛び回っていた。
ビルの隙間から真っ赤な太陽が沈み始めた。
「水漏れしてるって俺、嘘ついたっすから」
「まあそこはね。仕方ないわ。マニュアルだから。間違いもあるって事で」
「そういうわけにいかないから置いてきたす」
「何を?お金を?」
「全額は無理なんであるだけ。残りはあとで返すっす」
「菊池さん。受け取ったの?」
「玄関の外で一晩明かしたすから。菊池さん諦めて受け取ってくれたっす」
翔太はエヘヘと笑った。
「馬鹿ね。よくそんなお金あったわね」
「これでも多少は貯金してたすから!もう空っけつす」
園子はふと真顔になった。
「そんな事して何になるの?」
「ケジメす。俺なりの」
園子はしばらく考えて言った。
「それなら私も出すわ。今は私も空っけつなの。貸しておいて。あなたの上司だったから、これは私のケジメね」
「オーケーす」
翔太は嬉しそうにコップにもう一杯水を注いだ。
「乾杯す」
「うん。乾杯!…ん?まだ何かあるの?」
「もう一つケジメつけたい事があるす」
「なあに?」
「俺と結婚して下さい!」
ブッ!!
園子は口に運んだ水を吹き出した。
驚いたスズメ達が一瞬顔を見合わせて飛び去った。
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