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28.太陽の匂い
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病院。
西日が差している。
クリーム色の天井にシミが所々ある。
「係長あざっす」
聞き憶えのある懐かしい声がした。
「藤間君…」
「良かったす」
土の匂いがした。
それから太陽の匂いと。
「イタ…」
「無理したらダメす。結構ヤバかったんすから」
目の前に翔太が立っていた。あのいつもの抜けたような朗らかな瞳で。
三角巾で腕を吊っていた。よく見ると顔のあちこちに切り傷や青あざがあった。
「どうしたの?」
「バイクでコケたす。なはは…」
「そう」園子はクスッと笑った。
「レントゲンとCTを撮りに来たらちょうど係長を見つけたす!」
「同じ病院だったのね」
それから色んな事が突然思い起こされた。
ブランケットの中に手を入れて下腹に触れた。
「赤ちゃん。大丈夫すよ」
翔太の言葉を聞いたとたん涙が溢れてきた。
「私の赤ちゃん…」
「そうす。赤ちゃんがきっと係長を助けたっす」
「誰がここに?」
「通りがかりの人っす」
「赤ちゃんのこと…」
「看護師さん、俺の事、係長の彼氏か何かと早合点したみたいで」
「そうなのね」
扉が開いて看護師が声をかけた。
「あら、お目覚め?先生呼んでこなくちゃね!」
「あざっす」
看護師はベッドのそばに来て園子の手を取り脈をとった。血圧を測りながら「どう?気持ち悪いとかない?」と尋ねた。
「はい」
「良かったわ。彼氏ちゃんがいて。ずっと側に居てくれたのよ。感謝しなくちゃね」
翔太はモジモジと頭を掻いたり顔の絆創膏を突いたりしていた。
白衣の天使が出ていくと、園子は天井を見つめたまま枕の上で髪を掻き上げた。
「今日は何日?」
「一週間経ったす。係長が階段から落ちてから」
翔太は暗い目をした。
「あの… 実は、尾形所長が逮捕されたっす。あの事務員も」
「美佐夫と早苗が?」園子は思わず体を起こそうとして苦痛に顔をしかめた。
「ほら、無茶したらダメっす」
翔太が手を貸した。
「話して」
「違うっす。あんまよくわかんないすけど、工事部の常務も逮捕されたす。横領とか工事業者への架空請求とかそんなので引っ張られたす。支社は営業停止。会社も臨時休業す… 大丈夫すか?泣いてる…すか?」
「うん、ちょっとね」
園子は複雑な面持ちだった。
西日が差している。
クリーム色の天井にシミが所々ある。
「係長あざっす」
聞き憶えのある懐かしい声がした。
「藤間君…」
「良かったす」
土の匂いがした。
それから太陽の匂いと。
「イタ…」
「無理したらダメす。結構ヤバかったんすから」
目の前に翔太が立っていた。あのいつもの抜けたような朗らかな瞳で。
三角巾で腕を吊っていた。よく見ると顔のあちこちに切り傷や青あざがあった。
「どうしたの?」
「バイクでコケたす。なはは…」
「そう」園子はクスッと笑った。
「レントゲンとCTを撮りに来たらちょうど係長を見つけたす!」
「同じ病院だったのね」
それから色んな事が突然思い起こされた。
ブランケットの中に手を入れて下腹に触れた。
「赤ちゃん。大丈夫すよ」
翔太の言葉を聞いたとたん涙が溢れてきた。
「私の赤ちゃん…」
「そうす。赤ちゃんがきっと係長を助けたっす」
「誰がここに?」
「通りがかりの人っす」
「赤ちゃんのこと…」
「看護師さん、俺の事、係長の彼氏か何かと早合点したみたいで」
「そうなのね」
扉が開いて看護師が声をかけた。
「あら、お目覚め?先生呼んでこなくちゃね!」
「あざっす」
看護師はベッドのそばに来て園子の手を取り脈をとった。血圧を測りながら「どう?気持ち悪いとかない?」と尋ねた。
「はい」
「良かったわ。彼氏ちゃんがいて。ずっと側に居てくれたのよ。感謝しなくちゃね」
翔太はモジモジと頭を掻いたり顔の絆創膏を突いたりしていた。
白衣の天使が出ていくと、園子は天井を見つめたまま枕の上で髪を掻き上げた。
「今日は何日?」
「一週間経ったす。係長が階段から落ちてから」
翔太は暗い目をした。
「あの… 実は、尾形所長が逮捕されたっす。あの事務員も」
「美佐夫と早苗が?」園子は思わず体を起こそうとして苦痛に顔をしかめた。
「ほら、無茶したらダメっす」
翔太が手を貸した。
「話して」
「違うっす。あんまよくわかんないすけど、工事部の常務も逮捕されたす。横領とか工事業者への架空請求とかそんなので引っ張られたす。支社は営業停止。会社も臨時休業す… 大丈夫すか?泣いてる…すか?」
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園子は複雑な面持ちだった。
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