ハウスDr.園子

MIKAN🍊

文字の大きさ
上 下
22 / 41

22.アフリカ

しおりを挟む
「あなた恋人はいないの?」
「え、あ、俺すか?」
フレンチフライでケチャップをもてあそびながら園子はただ漠然と訊いた。別に翔太の返事に何かを期待したわけじゃなかった。
酔っているのかも知れなかった。
キャッスルに入店する前に産科に電話をして予約を取った。妊娠検査薬の反応は陽性だった。あまり先延ばしにも出来ない。

「傷つけ合わずに愛し合う方法ってないのかな?」
「どうしたんすか?」
「うん。ちょっとね」
「らしくないっすね」
「そう?あら、切ってるじゃない?手を貸してごらん」
「あ、いいすいいす!脚立積んでる時切ったす」
「ダメよ。ほら」
園子はウエストポーチから絆創膏を出して翔太の指に巻いた。
「あざっす」

「もう一杯おかわり!」
「俺なら係長を傷つける事はしないっす」
「へっ?今何か言った?」
「いや、いーす」

「気持ちを伝えるって難しいよね」
「そうすね」
「毎日顔を合わせていても本当に言いたい事、ちっとも言えやしない」
「そうなんすか?」
「そうよ」
「なんでっすか?」

「うーん。そうね。自分が傷つきたくないからかしら?傷つけるのもイヤだわ」
「好きだって事をすか?」翔太は思い切って訊いた。
「まあそんなところかしら。複雑なの。大人の世界は」
「それはおかしいす」
「どうして?」
「大人とか子どもとか関係なくねーですか?」
「何でも言えれば良いというものじゃないわ。仕事だってそうでしょ?思った事をそのまま言葉にしていたら… どうしたの藤間君。目が座ってるわよ?」
「大丈夫す」
「心が決まらなくていつも泣きたくなっちゃうわ」

翔太はスーッと息を吸い込んでいったん溜め込んで、それから言った。
「好きな人には好きって言わなきゃダメっす!絶対に!でないと、でないと…いつか必ず後悔するっす!」
園子はびっくりしてビールにむせた。
「藤間君…」

TOTOの『アフリカ』が流れていた。
キーボード奏者のデヴィッド・ペイチが『僕を君から引き離すのは無駄なこと』と歌っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...