ハウスDr.園子

MIKAN🍊

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15.気合い

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「さあ、いくわよ!」
園子は髪をキツく縛ってポニーテールに結んだ。

好きな仕事だから続けられた。雨の日も風の日も人の何倍も歩き続けた。
入社して三ヶ月目。
初めて契約が取れた日は忘れもしない。
壁一面に貼られた幾つもの「成約おめでとう!」のポスター。
色とりどりの画用紙が織りなすモザイクの中、飛び切り目立つ「園子アイラブユー!コングラチュレーション!」の文字を見た時。
全社員が立ち上がり拍手喝采を送ってくれたあの時。
悔しかった日々が胸の奥からせり上がってきて、涙のダムが決壊した。
止まらない嗚咽をなだめすかす様に汗にまみれた男達が代わるがわる小さな肩を叩いてくれた。
一人ぼっち閉じこもって来た長い時間が、スロモーションの様に通り過ぎてゆく。
その緩やかなスピードを惜しむように、それまで耐えてきた苦しみと寂しさが万感の祝福に彩られて虹の架け橋になった。
あの気持ちをもう一度取り戻したい。

そうすればそれまで何の取り柄もなかった薄汚れた女に、誰よりも誰よりも一番最高の笑顔を贈ってくれたあの人にもう一度会えるのではないか。
もしもそれが儚い夢だとしても構わない。今まで通りマボロシを訪ねて歩き続ける旅だとしても構わない。
あの笑顔にまた会いたいと思えるこの気持ちだけで、どんなに薄情で冷たい春の嵐さえも乗り越えてゆけるのだから。

「あざーっす!!」
園子はパイプ椅子をガッとつかんでバフン!と座った。
「ちょー気合入ってるすね!」
翔太が目を丸くした。
「わかる?」

幹部達が次々に入室して着席したあと、所長の美佐夫がいつになく大股でやってきた。その目は寝不足で真っ赤に充血している。
「あざっーす!!」
声のデカさに事務所の窓がビリビリと震えた。両隣りの部長と課長が耳を押さえてしかめっ面をした。

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