ハウスDr.園子

MIKAN🍊

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10.テッパン

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抜けるような青空に足場が立っていた。
何処からともなく天婦羅を揚げる匂いがする。昼時なのだ。

翔太は足場をよじ登り最上段にいる園子を見つけた。
「ここに居たんすか」
「ちょっと気持ち悪くて風に当たっていたの」
園子はポニーテールの髪をほどいていた。
「大丈夫っすか?」
「もう平気よ」
「なんか良い匂いするっす」
「もう今日は終わりにしようか。何かお昼を食べてさ。あとはダーツでもやって。どう?」
園子は目を細めて眼下に見渡せる梅の木を数えた。
「1、2、3… お花見も良いわね」

「いいんすか?」
「ここ、菊池邸もテッパンだったわね。昨日の所もそう。あなたが叩いた所はトントン拍子」
「そうすか。俺はただピンポンして挨拶しただけす」
「ここなんかさ。私、前に何度も叩いたのよ。まったく相手にされなかったのに、あなたがこんにちは!って言っただけで向こうは気を許した」
「俺は何も喋ってないす」
「そうね。私見てたから。向こうが勝手に話してきただけ。昨日の時もそう。あなたは庭の方へズカズカ歩いて行って、良い天気っすねえ!って言っただけ。あなたこの仕事才能あるわよ」

翔太は首をかしげた。
「俺は、んーと楽しかっただけっすよ」
「何が?」
今度は園子が小首を傾けた。
電線の上に並んだ二羽のスズメのようだ。
「そうすね。椎名係長の班に来れて、一緒に仕事が出来て。それだけす」
「ふーん」
「なんすかそれ」
「何でもないわ」

「俺は桜が好きっす」
思い出したように。
「綺麗だね桜は。私も大好きよ」
園子は目を閉じ懐かしさで胸が一杯になるのを感じた。

「梅も良いけどやっぱり桜すね!」
「本当ね。あのさ、明日のタマ上がったらあなたに全部あげるよ」
「え?いや、イイっす!イイっす!俺はピンポンしただけすから」
「じゃあ半分こでは?」
「うーん。それならオーケーす」
「そうしましょう。さてと、何か食べに行きましょう!何が良い?」
「天婦羅っす!」
「え… 天婦羅… いいわ。私はお蕎麦にする」
「奢りすか?」
「そうよ」
「あざーっす!」

またフッと何処かで嗅いだ良い匂いがしたけれど、園子にはうまく思い出せなかった。
パン屑に群がる鳩のように、そして再び舞い飛ぶ翼のように掴みかけた夢が四方へ散らばってゆくのを何度も見てきた。
今度の夢は叶うだろうか。
この子と居ると何だかすべて上手くいきそうだ。園子はそう思った。

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