ハウスDr.園子

2.ハウスDr.園子

「こっちです！椎名係長！」
「バカ！危ないっ！！」

危うくセンターラインを越え対向車と接触するところだった。通り過ぎる相手の警笛が狂ったように鳴り響いた。
「バカじゃないの！なんで車道に飛び出してくんのよ！」
上下ベージュの作業衣に腰からヴィトン柄のウエストポーチを下げた女が降り立つ。ヴィトンはもちろんフェイクだ。

椎名園子 28才 ハウスドクター。
ドクターといっても住宅リフォームの訪問販売を生業としている営業女子。
毎日の営業は主に飛び込み。朝から晩まで玄関チャイムをピンポンと鳴らして、扉を叩き、住人が出てきたらリフォームの営業開始だ。
上手くいけば月に数百万稼ぐのも夢じゃない。中には一千万稼いだ強者もいる。
訪問販売。通称ホーハン。園子はそのスリルと興奮に魅せられた一人だ。

「すいません係長。俺あんまし目が悪くて」
「今度は轢くわよ。いい？」
「あざっす！」

顔はジャニーズ系のイケメンなのにやる事なす事ドジばかり。
この仕事の前はカラオケ店で働いていたらしい。そっちの方が向いていると園子は思った。
三月から新しく組む事になった相方は身体をくの字に曲げて謝った。 

「もういいわよ。それにしてもあなた、何て格好なの？」
園子は一回り近く年の離れた相方の外見に呆れた。
昨日までは普通の作業衣だったのに、今朝はニッカボッカをきっちり着込んでいる。
よりにもよって色はピンクだ。

「所長がお前はこっちが似合うからって」
「まあ、たしかに光GENJIみたいだわ」
「あざーっす！でも古いっすね」ケタケタと光GENJIは笑った。
「古いは余計よ。で、家はどれ？」
「こっちっす」