メモリーズ 〜遠い遠い昔、広島の遥か彼方で〜

MIKAN🍊

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第24話 リベンジ

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終業のチャイム~♪

「よーし!やめー!後ろから集めッ!」


緊張が一気にほぐれ
教室の中にざわめきが戻って来た

諦め混じりのため息をつく者

悔しまぎれにペンを噛む者

解放された喜びに打ち奮える者

さまざまだ

あと何回
こんな思いをしなければならないのだろう


「おい高杉、ちょっと!」

「おー、久坂」

「なんだよ!表にすんなよ!裏にしろ裏に!」

他人の回答なんか
なぜ気になるのか‥


「どした?0点か?」
「あんのぉ…」
小声になる

「わしらチクッた奴がわかったんじゃ」
「チクッた?」

「じゃから、コレじゃコレ!」
煙草を吸う真似をする

「あーアレか」

「アレかってお前、意味わかっとるか」
「わかるよ、誰なんだよ」

「堀江じゃ」
「生徒会長の?」

「ほうじゃ」

「誰から聞いたの」
「園部」

「当てにならん」

「間違いないらしい」
「なんで」

「あいつ、テニス部じゃろが」

ふむ‥

「どうする?」
「何を?」

「黙っとるんか?」

「確かめるのか?」


「ハイ、そーです、私がチクりました、とは言わんぞ?」

園部が現れた

「園部、ホンマなんか?」

「テニス部の奴が言うとったらしい」
「みてみい、どーするんな?」

「久坂はどうしたいんだよ」

「わしは…」

「やるしかなかろーが」
「あおるなよ」

「絶対なんか、堀江ちうのは?」

「絶対じゃ、お前がやらんのなら、わいがやってもエエぞ」

「お前に関係あんのか?」
「悔しいないんか、お前?」

「テストが終わったばかりじゃ、疲れとんよ」

「まあの」

「高杉…」
「ちょっと待て、一日考えさせろ」

「わかった」

園部はのろのろと教室を出て行った

久坂は
机の上の消しゴムのカスを集めていた

「高杉、わし…」
「ん?」

「今度なんか起こしたら、大学行けんようになるわい」
「親父さんに言われたんか?」

「お前にもよう言うとけってよ」

「わかった、聞いたよ、君はもう忘れろ」

「高杉」
「やる時は一応声かけるわ、やるやらんはその時決めれば?」

「お」

「親には勝てんからな」
「お前、平気なんか?」

「さあな」

うちの親父なら
やって来いと言うような気がした

「一人でやるんか」

「うんにゃ、園部もじゃ」


園部は何かイライラしているようだった

僕は彼を子供っぽいと感じたが
挑発に乗ることにした

イライラしてるのは
お前だけじゃない‥


僕は“タクシー・ドライバー”の
トラビスのような気分だった

マンホールから立ち上る蒸気

シリアルにウィスキーをかけた朝食


彼女と見るハードコア・ポルノ

爆発するテレビ


家出娘を食い物にするポン引き


クレイジーな客

イエローキャブ


僕はクールに気持ちの準備をした


次の日


「どこよ」

「売店じゃ」

「わかった、お前も来いよ」

「久坂は?」

「あいつはやらん」


「意気地がないのう」

「園部」

「あ?」

「お前は手を出すな」

「なんでじゃ」


「見届けてくれりゃええわ」

「お前がやられてもか」

「タイマンじゃ、お前はなんもするな、エエか見とれ」


今すぐ
こいつを殴りたい‥

僕は衝動を抑えた

「わかった、しっかり見とってやるわい」


階段を降りると
売店に人だかりができていた

居た

堀江だ


「ツレがおるの」

「行って呼んで来いよ」

「ぞろぞろついて来んか?」

「馬鹿、うまく言え」

パンを買う順番を待つ輪の中に園部が入って行き
堀江と二言三言話すのがわかった

堀江はチラッとこちらを見てから輪の外へ歩き始めた


周りのツレが
ついて来ようとするのを園部は制して
また何か話していた

やがて堀江がツレ達に手を振り
園部のあとをついて来る

うまくいった‥


「用ってなんじゃ?」

「ちょっと付き合うてくれよ」

僕は堀江の肩に腕を回した


「お前、オレらのことチクッたろ?」

僕は彼の耳に囁いた

僕より長い髪だ
生徒会長のくせに‥


「あ?何の話しじゃ?」

堀江の足が止まりかける

そうはさせない

僕は腕に力を入れた


「何の話しですか、じゃないんか?堀江?」

「ちょっと待って」

「悪いのう、待てんのよ」

園部が口を挟んだ


「だから話しを聞きたいだけなんだよ」

「話し?」

「そ、話しをするだけよ」

「わかったよ、わかった、ホンマ話しだけじゃな?」

ビンゴ!
やっぱりコイツだ‥

「話しだけよ、じゃけん嘘はつくなや?」

「あ、ああ…」


新校舎の裏に着いた

さらに回り込んで体育館の裏へ連れ出した


天気は快晴

堀江は完全にビビッてた

相手の気さえ削いでしまえば後は簡単だ

肝心なのは最初なのだ

「なんでここに来たか、わかるか」

僕はポケットから軍手を出した


「チクッたのはわいじゃない」

「じゃ誰だ」

「それは…」
堀江は言いよどんだ


「まあ、エエわ」

僕は軍手をした両手を軽く揉んだ

「眼鏡はずせよ」

「いやだよ」

「壊れるぞ?」


「外せや、堀江」


「なんでこんなことするんじゃ」

「なんでもクソもない」


ここにいるのは本当にあの生徒会長なのか?

僕は自信がなくなってきた

人違いしたのではないか‥


僕は間合いを詰めた

いきなり飛び掛かって来られたらコトだ

ゆっくりと

「なあ高杉君、やめようよ、頼むよ」


「行くぞ?だからお前も遠慮すんな、園部は手は出さない」

「何のためにこんな…」


ガッ!

眼鏡が飛んだ

「謝るよ、すいません、ゴメ…」

ガッ!


唇が切れた

「やれよ、ほら!早く!」

何かが“押して”来る‥


「すいません、だから許してください」

堀江はへたり込んでしまった


「何を許すんだ、立てよ!ホラ!」

腕を掴んで引っ張り上げる… 

堀江は僕より20キロはデカイ

持ち上がらないので
僕は尻を力一杯蹴った

「もうやめてください、もうやめてください」

なんとも歯がゆい奴だ‥


僕は髪を引っつかんだ

「立てったら!ホラ!」


腹を殴り、顔を殴った

膝を使おうとしてやめた
なんだか
ひどいことになりそうだったからだ


堀江は無抵抗だった

好きなだけ殴り
好きなだけ蹴った

僕は“押して”来るものの勢いに任せた


「やり返せよ、堀江!」


なぜ
やり返さない?

なぜ‥

「悔しくないんかよ!」

「だって、僕は…ヒク…人を叩いたり…ヒク…できない…」

堀江はしゃくりあげた

クソ!クソ!クソッ!


「あんたら!何しよるんッ!」

掃除のおばちゃんだった

手には抜いたばかりの雑草を握りしめていた


「あー、オバチャン、何でもないんじゃ」

園部が笑顔を作った

「何でもないことないでしょー!血が出とんじゃろよ!」


「こりゃ遊びじゃけん、のう!堀江?」

「そうです、遊びです…」


「高杉、もうエエじゃろ、いのうで?」

「あ、そうしよ」

「行くぞ、ほら堀江!」


「ちょっと待ちんさいや、あんたら!ちょっ…」


歩きながら軍手をゴミ箱に捨てた

「なんだアイツ、腑抜けじゃが」

右手の拳がジンジンしてきた

「テニス部のキャプテンゆーてもあんなもんとはのう」

園部は上機嫌だった

「楽勝じゃったな、なんも心配することなかったわい」


「園部」
「あ?」

「もう2度とせんからな、ああゆーのは」

「おう、ようやった、わいもやりたかったぞ、クククッ」


「あんまり面白くはないぞ、次はお前がやれよ」
「見とる方は面白かったがのう」

やられた方がましだったかも知れない‥

僕はそう思った


僕は途中から本気で頭に来ていた

やられたらやり返せ

それが僕のルールだったからだ


午後の授業はサボり
家へ帰った

カセットを取り出し
サージェント・ペパーズをかけた


ゲッティング・ベター

だんだん良くなってる

昨日よりも
少しましだ


学校は面白くないことだらけだ

教師達はくだらないことを押し付けてくる

頭にくる


でも前よりは
ちょっとましになってる


ポール:
「だんだん良くなってる」

ジョン:
「これ以上悪くなりようがない」


楽観と悲観
対称的な二人のハーモニー‥

父親の時もそうだったが
人に暴力を振るって得られたのは
果てしない自己嫌悪だけだった

それでも僕は
合理的に考えたつもりだったのだ


悪意があれば
まだ救われていただろう

悪意は人からにじみ出るものだと思う

ドバッと出てくるものとは種類が違う


僕は自分が好戦的だとは思っていない

けれど
好戦的な者に対して
応戦するのはやぶさかではなかった


けれどそれにしたって
相手は無抵抗だったのだから
後味の悪いことこの上ない


堀江は何らかの形で
僕と久坂の無期停に係わったのだから因果応報であると
考えることにした

今にして思えば
ただの意趣返し

逆恨みもいいところであった


下手をすりゃイジメだ


この話しは
あっという間に広まった

広めた奴は1人しかいない


今まで口をきいたことのない連中が
入れ代わり立ち代わり
僕を見学に来た

中には
これから喧嘩に行くので
「加勢してくれんか」
というのまであった

面白そうなのでついて行った


本屋やレコード屋に入っては
目標を探した

面倒だからしまいには
片っ端に肩を叩いて
「こういう奴を知らんか」と
聞いて回った


暴力でもぎ取ったものは
暴力で奪い返される

正直言って
僕は殴られたかったのだ


結局相手は見つからず
僕は余計なケガをせずに済んだ

そいつは
手伝ってくれた礼をしたいので
漢字で名前を書けと言ってメモ帳を出した

「名前?」

「ああ、占ってきちゃる」

「占いイー?」
大丈夫か、コイツ‥

「ものスゲーよう当たる占い師がおるじゃ、何を占って欲しい?」


僕は自分と
もう2人の名前を書いた

「この女とうまく行くんはどっちじゃ」

「そげなことでエエんか、まかしとけ!」

世の中には
いろんな奴がいるもんだ‥


翌日
再び彼がやって来た

「高杉!」

「おう、どじゃった?」
僕は笑った

「喜べ、高杉お前じゃ、結婚してもええくらいじゃと!」

ははははっ!
やっぱりな!


そいつは理数系の秀才だったから
なんとなく信用できたのだが‥

所詮は占い

それとも
もっと違うことを占ってもらうべきだったのだ



その日の午後
僕は生徒指導部から2度めの呼び出しを受けた


またか、やれやれ
今度は何だ‥

僕は何が来ても怖くない気がしていた


奴らは進歩がない

たかが告げ口に目くじらを立てては
成績の悪い奴だけを停学処分にしてるのだ

時間の無駄である

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