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第22話 ゲームセット!

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第  小春日和のグランド

どこからともなく
キンモクセイの匂いがした


校内球技大会のその日
僕が犯した痛恨のミステークは
高校生としては可愛いものだったが

人生のステップを踏み違えたという点において
記憶に値するものだった


付ける必要もないゼッケンを付け
朝から大はしゃぎなのが
体育担任、陸上部顧問の佐土原だ

マイクのハウリングをものともせず
朝礼台の上から
競技中の注意事項を長々と述べた

せっかくの甘い香りに
不釣り合いなダミ声

「…私からは以上じゃ!先生方、他に何か?」

すると
化学の猪熊が佐土原からマイク受け取り
一歩前に出た

全校生徒を舐め回すように見る

「わかっとろ思うが、学校の外には絶対出んようにー!ええな!わしら、見張っとるけんな?…生徒指導部からは以上じゃ」

毎回毎回ほざいてろ‥


佐土原の
気合いの入ったラジオ体操第2が始まった

今日は彼の晴れ舞台なのだ


そして僕たちは
僕たちなりに
この日を楽しむつもりでいた

校内のイベントのすべては教師と不良達の“知恵比べ”なのだから


ブルマ姿の女子達が駆け抜ける

一陣の風が吹いて
石灰が舞い上がった


1,000人近い生徒が
バレーボール、ソフトボール、ハンドボールに分かれて
リーグ戦を行う

けれど1、2年はともかく3年生のほとんどは
今秋から始まったこの新企画には閉口していた

大学入試まで
残り数ヶ月

受験組にとっては
例え1分たりとも無駄にはできない!
…はず?

「目の保養になるのお~」
「ほうか?」

「おー!あいつ見てみいやー!すんげえカラダ!」

うーむ、たしかに
松本ちえこみたいだ‥

「100点とる人~大キライい~、知って~いるのに~わざとお~間違えるう~」

「25点のお~人があ~スキいい~」

「それ、65点じゃろ?25点はお前じゃろが」

ダアーハッハッハッ!


「久坂あー!はよせえー!」
「おおー!あとで行くけえー!」

久坂はハンドだ

僕はソフトボールを選んだ

うちの組なら
1回戦で敗退だろう
遅くとも10時には終わる計算
あとはフリータイムだ

久坂のクラスは強豪揃いなので
いい線まで勝ち残るだろう


久坂は本来スポーツ好きだから
今日は燃えている

女子にモテるには
まず運動で目立つことだ

バストやヒップラインに惑わされてる暇はないぞ!


「お前、中沢んち行ったんじゃて?」

「あー」
「どうじゃった?」

「これ」

僕は短パンのポッケから
異常なまでに細かく折り込まれた紙きれを出して
久坂に手渡した

入念に折られた三角の紙

久坂は器用にそれを開いて目を丸くした

「別れたんか」

「たぶんそうだと思う」


小さく畳まれた可愛い便せんには
グリーンのボールペン(とても見にくい)で
こう書かれていた


“高杉君、今までありがとう”
“わたし忘れないヨ!貴方のこと”

“ロング・グッドバイ!”

     “Y.N”


便せんの余白のあちこちでトゥイーティーが泣いたり怒ったり
笑ったりしていた

キッスやランナウェイズのファンだった彼女と
ルーニー・テューンズのキャラクターは
どう考えたって結びつかない

ひょっとすると僕は
彼女のシルベスターだったのかも知れない

実は猫は僕の方だったのだ

ニャンてことだ‥


「ニャンちゃって」

「お前のう~」
「ニャンだよ」

「お前を紹介したのは、わいやぞ?わいの立場はよ?」

「あの子はそんなことで苦情を言ってきたりはせんよ」
「わからんやろ」

「気にするニャよ」

「よお~アホコンビ~!」

特大リーゼントの上に
ちょこんと紅白帽を載せた甲斐が
尻まで短パンを下げて現れた

「オス」
「メ~~ス!」

「………」

「なんで裸足なんじゃ?」
と久坂

「はよ走るために決まっとろーが」

ドガッ!
久坂へ真空飛び膝蹴り

「うっ…」

なんか間違えてるな
この男は‥


「高杉は痩せっぽちじゃのう~、女の脚みたいじゃ」

そう言うなり後ろに回り込み
僕の尻に腰を押し当てて来た
「やめんか、コラ!」

「かはは~!」

「久坂君もやってあげようか?」
カクカク…

「バカ、ふざけんな」

「甲斐、何に出るんじゃ?」
「ウフン、女子バレ~」

「………」

「アタック~アタックう~!ホレホレ~~」
カクカク…

「甲斐ってさあ、嗚呼!花の応援団みたいだよねー」

「なんじゃそれ?」
「知らんのか」

「知らんわい、チョンワ、チョンワ~!」
「知っとるじゃなーか!」


「お!佐土原じゃ!あのクソボケ、ほじゃまたのお~~」


「なんなんだよ、アイツは?」
「ハンドで桑名にヤキ入れるらしい」

「バレー部の?」
「甲斐の指令じゃ」

「役者やのおー」


ハンドボールの審判は
佐土原だ

ファウルが続出するのもハンドボールだ

言うなればこれは
佐土原の“土俵”なのだ


「久坂あー」
「なんじゃ?」

「ファイトおー!」

「いっぱあーつッ!」

勝野洋と宮内淳のように


友情、努力、勝利がテーマのこのCMは
この2人が最初である

よくよく日本人は
友情、努力、勝利の3点セットが好きらしい


久坂はハンドボールコートへ
僕はソフトボールのグランドへ向かった

運動オンチの僕は足取りが重い


ソフトのフィールドは2つあって
双方のライトとレフトはカブッている

センターはどっちのチームのセンターだか判らない

野球部がないのは
校庭が狭いせいなのだ


「高杉いー、はよ並べえー!」

はいはい‥


今頃バレーボールコートでは
女子達が第1セットを始める頃

まさに時間差攻撃


「プレイボールッ!」

黄色い歓声が上がる

これがイヤなんだ
これが‥

まあいいや
補欠だし‥


試合は順調に運び
予定より早く終わりそうな流れだ

0対0であることを除けば


両者とも互角の争い
とゆーか、単に同じくらい下手くそなのだった 


うちのチームのキャプテンは
因島中出身で卓球部の主将古場

当然4番でピッチャーだ

プレイボール直後
豪快なウインドミルで打者をア然とさせたが

腕を振り回し過ぎて
イリーガルピッチと見なされた

卓球はともかく
ソフトボールでの推薦は諦めた方がいい


卓球をピンポンと呼ぶ奴がいると
ラケットで追いかけて来る

しかしその後好投を続け
自分以外誰もヒットを打たない現実に
八つ当たりのスマッシュを放っていた

そして迎えた6回の裏
(超法規的措置で本来の7イニンゲが1回繰り上がる、つまり最終回)

我がチームの8番打者がデッドボールで出塁

何もわかっちゃない女子達から
ビーンボールだと野次が上がったが

古場は
「よっしゃ!よっしゃあー!」
と古いネタ?を臆面もなく披露した


「バッター交代~~!」

交代しまくったのに
まだ在庫があったとは‥

僕はブルマのヒップ達を見上げながら
呑気に失笑した

でっけえケツ‥

「ピンチヒッター!高杉いー!」

何言ってんだ
ずっーとピンチじゃろが‥

「おい!高杉!お前じゃろ!」

幻聴が聞こえた
おかしいな
なんも妄想してないんじゃけど‥


「高杉ー!はよせえやー!」

古場が茹で上がったタコみたいに真っ赤な顔で
3塁側から怒鳴る

なんでそっちにいるんだ?

「おい、高杉!お前アッチじゃろーが」

ウヒャヒャヒャ!
敵陣にいたのは僕の方だった

周囲を爆笑で盛り上げておいて
僕はさっそうと古場の前へ

「試合見とったんか?え?」

「あー」

「とにかく塁に出ろ、頼む!」
「いいけど~」

僕は差し出されたバットを受け取った

「ネクスト・バッターズなんちゃらつーのは?」

「いいからはよ立て!」

はいはい‥


飛び交う歓声と怒号
それに笑い

こんなことに夢中になる連中の気が知れない


キャッチャーが呟く
「お前左か?」

「いや右ききだけど?」

「じゃあこっち!」
「あ、そっ」

また受けた
箸が転んでも可笑しい奴らだ


さあ来い!
星くんッ!

緊張の一瞬


第1球う!
投げましたあー!

僕は試合を投げたい‥


クソボールを大きく空振り

「見てけ、見てけえ!ピッチャーノーコーン!」

はあーい‥


星くん!
悪いが打たせてもらいますバッテン!

「ストラああーイク!」

うるっさいわ‥
ドあほ!

「なんか言うたか?」
と数学の山根

「いえ別に」


フレ!フレッ!タカスギイー!

カッセ!カッセ!タカスギイイー!

カッセって‥
活性化のこと?


さあ来なさい!
星くーん!

シュパ!


ギュギュギュイーン!
(嘘ばっか)

あ!広美!

(チュ…)

あ、バカ!チカラが抜け‥


パコーン!

あれ?当たったあ?


「走れえーっ!走れえーっ!」

キャアー!キャアー!


ボールはセカンドの頭を越え
センター前に強烈なポテンヒット!

ライトとレフトは激突し
何故かセンターは
茫然としていた

となりの奴が手を挙げたから
打球を譲ったのが運の尽き


反対側でプレイしてる奴がふざけて手を挙げたのだ

「アホウー!センターが2人いるわけねーだろ!」


ボールはコロコロと
ハンドボールコートへ


1塁走者が戻って
サヨナラ勝ちとなった

勝負は時の運だ


古場が満面の笑み

「ようやったあ!なんの役にも立たん奴がー!」

やかましい!
ピンポン野郎ッ!


キャアー!キャアー!
タカスギいいぞおー!
きゃはははー!


あれ?
広美‥

もっと見たかった
ブルマ姿‥

とまあ
セオリー(お約束)通りの展開の後は
中学生レベルの駄ゲームとなり
あっけなくコールド負け

古場いわく
「球がデカすぎる!」

じゃあラケットで打てば良かったのに


「参ったわ、勝ってもうて」
「災難じゃったな」
と久坂

「そっちは?」
「もうすぐ桑名のチームと当たる」

「甲斐はバレーじゃったはずじゃが…」

「応援席から突っ込む気じゃ」

「奴ならやり兼ねんの」
僕は笑った


ハンドのコートでは
14人の選手達とレフェリーの佐土原が
センターラインに集まっている所だった


ハンドボールは
走り、跳び、投げるという基本的な運動能力が試される

スピーディーな展開と
格闘技のような迫力が人気だ

ルールはやや面倒だが
反則に対してはバスケほど厳格なペナルティーを課さないのが良い

この辺りは
審判の裁量任せであり
場合によっては
公平を欠くことも多く
従ってゲームも荒れる

欲求不満の男子高校生にはうってつけの競技と言える


佐土原の別名は
“えこひいき猿”

その猿の手から
外周約58センチ
重さ約425グラムのオレンジ色の凶器が
秋の天高く放り投げられた


「ウッキイー!」 


が、しかし
桑名のスタンドプレイが空回りし始め
ディフェンス陣に乱れが生じる

コートでは何やら険悪なムードだ

桑名と同じチームの
陸上部の剣持が腐っている

「お前よおー、桑名あー!パスせえやー、パスをー!」

「おう、陸上部!もっとはよ走れや、お前待っとったらバックパスになってまうじゃろがー」

桑名の言い回しが鼻についた


ピーッ!
ホイッスル!

その剣持がラインを踏んだ踏まないで
揉めてるうちに前半が終わった

「剣持、後半ディフェンスな?」
「なんでお前が決めるんじゃ?」

「お前ルール知っとんか?」
「知っとらあーの」

「ただ真っ直ぐ走っとりゃええゆーもんじゃないんで?」
「なんじゃと?」

仲間割れの兆し‥


「行ってくんどー!」
「おお、頑張ってな!」

久坂が気取って手を高く挙げた

桑名と並ぶと
脚の長さが桑名の半分しかない

ガンパレ久坂!


コートの周りに
見物人が増えて来た

いよいよ決戦だ

どちらのチームも
万全の布陣

良い子ちゃん達はベンチに引き上げ
久坂のチームは
柄の悪い尾道派のフルラインナップ


佐土原の動物的カンが何かを嗅ぎ付ける

「おい!フェアプレイ忘れんなよ!」

「押忍!」

後半戦スタート直後
剣持が猛ダッシュ!
桑名チームはコントロールを失くした

ディフェンスもへったくれもない
全員がオフェンスと化したのだ

「行けえーッ!」

ワアーっ!

もたつく尾道連合

久坂がバスケと勘違いしてピボットターン

ピッ!
「オーバーステップ!」

ブーッ!

ハンドボールは4歩だの4秒だの
紛らわしい制約が多い

その上
桑名率いる暴走チームの速攻の速さと来たら

刃が立たない

ピィーッ!
「プッシング!」
押してはいけない

ピィーッ!
「チャージング!」

突き飛ばすのもナシだ

ピッピイー!
「ハッキングー!」

ボールを持った相手の手をを叩くのもダメえー!


ピピイーッ!
「ホールディングじゃ!ホールディング!」

捕まえるのも当然ナシ

「鬼ごっこかよ!」


反則の嵐

ついに勢い余った1人の足が
ボールを蹴った

見事なシュート!

これがキーパーの顔面を直撃!
彼はその場にもんどりうって倒れた

ピッピッピイーッ!

キックボールと
トリッピングでイエローカードだ


えこひいきも絶頂を迎えた

当然の抗議!

「先生!足はかけてません!」
「かけたわい!」

「かけてませんよ!」
「引っ掛かったじゃろが!」

「わざとじゃないですよー!どこ見てんすかあー!」

「退場おおーっ!」

「ええーっ!?」

コートの周りからも一斉にブーイングが出た

突然の退場で
久坂のチームは2分間1人欠けた人数で戦わなくてはならない


シュートを顔に決められたキーパーの側に
剣持が駆け寄る

「大丈夫か?」
「うぅ…」

桑名がボールをつきながら悠然とゴールエリアに入って行く

「はよせえや、パッシブ取られんぞ?」
「桑名!お前…」

「おい、交代かー?」
と佐土原

「いいえ、このままで」
「桑名!」

「行くぞー!」
「チッ…」


試合再開

桑名のフリースロー!

「前じゃ!上がれえー!」

桑名が走り出したその時
尾道連合が今度こそ足をかけた

ボールはゴール手前6メートル

桑名の足がもつれた

殺到する尾道連合!
ボールにではない
桑名に、だ

もう1人が桑名の腕をひっ掴んで
後ろへ力いっぱい引く

「うわ…」

尻餅をつく桑名
その背中へ尾道連合のキックが炸裂した


「てんめえ…」

ノーマークだった剣持が異変に気付き
ゴール前から飛び出した

弾丸のような
剣持の猛スライディング!

「剣持…助かっ…」
ボコオーッ!

起き上がろうと懸命な桑名に
剣持のフリーキック!

や、やりやがった‥


えこひいき猿が
血相を変えた

「ゴルアー!やめんかー!」

尾道連合と剣持が倒れた桑名を取り囲んで
蹴りを浴びせる

見兼ねたバレーボール部の下級生達もなだれ込んだ

「オラ!オラーッ!」


すると何処から現れたのか甲斐が奇声を発しながら
渦中へジャーンプ!

「キエエーッ!」


組んずほぐれつの大乱闘となった

やっぱり
ハンドボールは
こうでなくちゃ!


もはや佐土原1人では制止しきれない

コートのあちこちで
取っ組み合いが勃発


混乱のさなか久坂がのこのこ出てきた

よせばいいのに
ニタニタ笑いながらこちらに向けて
ピースサイン!

「あ、バカ…」

下級生らしき男子の右ストレートが
久坂の頬に夜のヒットスタジオ!

「痛…こ、このヤローッ!」


「ぶわはははっ~!」

いつの間にか甲斐が隣にいた

忍者のような身のこなしである

「甲斐!来たぞ!」

やっと生徒指導部のお出ましだ

ご丁寧に生徒会の奴らを従えて
三方から押し寄せて来る


「高杉、行くど」
「え?あ、ああ…」

「走んなよ?」
「わ、わかった」

僕と甲斐はゆっくりその場を離れた

騒ぎを聞き付けて
集結して来る野次馬たちと逆方向へ
僕たちはフェイドアウト


「スゴかったの!」
「あのボケ、鼻をへし折ったったわい!」

「鼻をか!」

「苦しまぎれに、噛みつきよった!クソが」

なんとも凄まじい‥


中庭が見えてきた

水道で手を洗っていると
久坂が小躍りしながらやって来た

「どーなった?」
と同時に2人

「いやあー笑うたぞ!」

ゴクゴクと水を飲む


「下級生らあと剣持がテントに連れてかれた」

「わしらの仲間は?」

「みーんな逃げたわい!」

「ほいで?」
「女子らあが事情聴取されとる、しかし人数が多かったけんなー」

「桑名は?」
「佐土原が病院連れてったわい」

(;´艸`)ププッ‥


暴動は鎮圧されたようだ

生徒指導部は最悪の醜態を曝した
このまま黙ってはいまい

が、今は
勝利に酔っていたい


「エコ猿のツラ見たか!」

「ギャハハハハ~」 

「大成功じゃの、甲斐!」

「おう、ほじゃけどまだやることがあるんよ」

「なんじゃ?」
「一緒来るか?」

「おー、この際とことん付き合うわい」

「高杉は?」

「ああ、行くよ!」


3人は植え込みと壁の隙間を
渡り廊下に向かって歩いた

甲斐を先頭に新校舎へ侵入

教室は盗難防止のために
すべて施錠してあるはずだ

「おい…」
「しーっ!」


1階を突き進み
静かに部屋を開けた

しょ、職員室う?

「見いー、誰もおらんじゃろ」

甲斐は教員達のデスクの間を
ひょいひょいと跳びはねて行き
1つの机の前で止まった

「ここじゃな」

ガチャガチャと引き出しを片っ端から開ける

「な、ナニしとんじゃ?」

「クソ、ないのう…」

ガラッと
キャビネットを開いた

「ホッホ~~!」

両手にはハイライトのカートン

「ほれ、マイセンもあるぞ」

「パクるんか?」
「アホ~!戦利品じゃ、いるだけ取れ」

「どーやって持ってくんじゃ?」

「ほうじゃのう…とにかくシャツん中へ入れて出るんじゃ」

「わ、わかった」

「ライターもいいかなあ?」

「お、ええぞ!遠慮すな」

遠慮って‥

「甲斐よ、こりゃバレんか?」

「かまわん、かまわん」

「どこへ行く?」
「生徒会執行部」

「誰かおらんか?」
「アホじゃの、みんなグランドじゃ」

「おー、そうか!」

「持てるだけ持て、ズラかんぞ」

「おい」
「なんじゃ」

「誰の机じゃ、ここ?」

「佐土原じゃが」

プ‥(;´艸`)ププ~ッ


旧校舎の西のはずれ
柔道場に隣接した掘っ建て小屋の2階が生徒会執行部だ

鉄製の外階段を上って扉に手をかけると
あっけなく開いた

「ちょっと待っとれ」

部屋が無人だと確かめると甲斐は
カートンを抱えて出て行った


とりあえず一服だ
カチッ…

「ふうう~~」

「ふはああ~~」

「キクのう~」
「ああー」

部屋の中は雑然と散らかっていて
すえた厭な匂いがした

カビ臭いというか
埃っぽい匂いだ


「マズイのう、ハイライトは」

「ああ~」

「ただでは済まんじゃろの…」
「今さら仕方ないわい」

「まあの」

「なあ、園部や西郷見かけんけど?」

「あいつらズル休みじゃ」
「勉強しよるんかの」


僕はふと自分が1人ポツンと取り残されたような気がした

久坂が欠伸をした
「久坂」
「あ?」

「オモロかったな?」

「ああー、甲斐はサイコーオモロイやっちゃ」

「久坂?」
「お?」

「甲斐、遅うないか?」
「ほうか?」


タン、タン、タン…

誰かが鉄の階段を上がって来る

「甲斐じゃろ?」

「違う!隠れろ!」


僕たちは1番奥のデカイ机の下へ隠れた

ガラッ…


ゴクリ…

足音が近付いて来て
すぐそこで止まった

隙間から
テニスシューズの先が見える

誰だ‥


か、身体が痛い
背骨がああ‥

突然テニスシューズはUターンして
真っ直ぐ外へ出て行った


タン、タン、タン…

「ふうー!焦ったあ!」

誰なんだろ‥


5分ほどして
やっと甲斐が戻って来た

「何しとったんじゃ?」

「あ~、煙草隠してきたんじゃ、ええ場所があったわい!」

「さっき誰か来たぞ?」
「ほんまか?」

「ホンマじゃわ」
「見つかったんか?」

「いや大丈夫じゃったが…テニスシューズ履いとった」

「すぐ出た方がええな」
「誰じゃ思う?」

「ワカラン」
「何か感づいたかの?」
「とにかく出よう」

「おい、お前ら、窓開けたんか?」


「あ!開けた…」


戦いすんで日が暮れる…

まだ幾人かの生徒らが後片付けにいそしんでいた

夕映えがゆるやかな時間を紡ぐ

誰かに優しくされたいんじゃなく
誰かに優しくしたい
そんな晴れがましい気持ちだった


汗と土埃の匂いが
黄昏れのグランドにゆっくりと沈殿していく


重いコンクリートのローラーを
剣持が1人で引っ張っていた

「お、高杉か」

「それ、罰か?」
「ほうじゃ」

剣持はローラーの上にしゃがんだ

小さな砂粒や小石が
めりめりと砕けていくような音がやむ

「手伝おうか?」
「もう仕舞いじゃ」

「タフじゃな」
「くたくたじゃわ」

キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン…


「のう、高杉」
「なんじゃ」

「友達ってなんかのう」

「友達はいろいろじゃろ、遊び友達、勉強友達」

「ほじゃあ聞くが、親友とはなんじゃ」

「親友か」
「ああ」

「ほうじゃな、そのローラーより重いもんじゃなーかの」

「フン」

遠くで雷が鳴った


「わし中学まで桑名と親友じゃったんよ」

「そか」
知らなかった‥


2人は無言でローラーを引っ張った

遠雷が雨粒に変わった

「急ごうで」
「おう」



雨は翌日まで続いた
身体が痛くて本当は休みたかった

おまけに雨に濡れたせいか熱っぽい

HRが始まる直前
担任の芹沢に呼ばれた

「はい」

「ちょっと生徒指導部に行ってこい」
「は?」

「生徒指導部じゃ、はよ行け」

「はい…」


甲斐と目が合う

(どした?)

(さあ~?)


「起立~」

「礼!」


僕は廊下へ出た

なんだか
現実離れしていた


階段を降りる間も
どこをどう歩いたのか
覚えがない


考えがまとまる前に
生徒指導部へ着いた

待てよ‥

京都で何かあったのかも知れない

それとも‥


ドアが開いた

佐土原が立っていた

「お、入れ」

「はい、失礼します」


「座れ」
「はい」

ナンダ‥


「先生、高杉来ました」

「はいー」

鬼塚だった

「高杉」
「はい」

鬼塚は僕の前に座った


「なんでここに呼ばれたか、わかるか」

「いいえ」

「ほうか」
「はい」

「昨日のことは知っとるの」
「ええ」

「なんだ?」
「いえ、その…わかりません」


「今わかるゆーたじゃろ」
「いえ」


「煙草吸うとんの?」


ゲームセット‥

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