上 下
22 / 30

第21話 壊れゆくもの

しおりを挟む
「それなあに?」

「それって?」

僕は道端に咲くコスモスから
中沢弥生に視線を戻した


まだ風が冷たかった頃
土手はつくしやクローバーで一杯だった

今は色とりどりのコスモスが群生して
はかなげにその首を振っている


「1羽が西で1羽が東って?」

「あー、映画だよ、映画の宣伝文句だよ」

「宣伝文句う?」
「決して一人では見ないでくださ~い、とかそうゆのだよ」

「オカルト映画なん?」
「い、いや違うけど…」

「なんで西と東なん?」

「うーん…、別々に、ってことだと思う」

今質問しておかないと
まるで損でもするかのようだ


「南と北でもかまわんじゃろに?」

「それじゃあペンギンが出て来そうだよ」

「ペンギン?どうして?北極にペンギンはおらんよ?」

言葉を覚えたての子供みたいに


「んー、つまり陽が昇る方向とー、陽が沈む方向って考えると何か意味ありげでしょ?」

「そうじゃろか?」

「あえて説明しちゃうとシラけちゃうから、匂わすわけだよ」

「ふうーん」

「中沢さんて、ホント音楽やってんの?」

「失礼じゃね!」プイ!


プイって‥
本当にハードロッカー?

「今ね、クィーンの“キラークィーン”練習しとるんよ」

「それってスゴイね!」

あんなの演奏するなんて
ちょっと尊敬だ


「そうじゃろ!あ、そーじゃ!高杉君の詩もスゴイええよ」

「そう?どれが良かった?」

「うん、どれってゆーかあ…、たまにドキッとするところがあるんよ」

「へえ」

「それに高杉君の気持ちがようわかる」
「わかるの?」

「うん、わかるよ」

「どんな風に?」

「好きな人がおるんじゃなあーとか、淋しがり屋なんじゃなあとか」

「アハハ!それはないな」

「あるんよ、あたしにもそれくらい判るわ」


遠くに目をやると
反対側の川べりに紅い妖艶な花がぱらぱらと咲いていた

彼岸花だ

別名“曼珠沙華”

不吉な云われもあるけれど
花言葉は
“哀しい想い出”だ


「たまに…たまにだけどね、頭がおかしくなりそうな時があるんだよ」

「うん」

「何やってんだろうって」

「あたしもある、今もそう」

「どうしたらいいと思う?」

「やりたいことやったらええじゃない?」

「それが良くわかんないんだよ」

「カッコエエわあ、そーゆうの」

「ちっとも良くないよ」

「デビッド・ボウイみたいじゃわ」

似ても似つかない‥

「どの辺が?」

「デカダンスなところ」

「ワイルドは好きだよ、サロメとか幸福な王子とか」


「あんネ、高杉君」
「ん?」

「あたしネ、高杉君とは結ばれんと思うんよ」

「えっ?」


「高杉君の詩読んどると…」
「読んでると?」

「紙ヒコーキみたいで…」
「うん」

「フラフラしてて…」
「フラフラしてて?」

「頼りなくて…」
「頼りなくて」


「すぐ飛んでってしまうんよ…」



「どしたの?」

「ううん、どうもせんよ」
「だって…」


「ちょっと悲しくなっちゃった…へへ」


「ねえ、ラーメン食べてく?」

「今日はやめとく」
「そう…」

「無理せんでええけん」

「無理なんかしとらん」


「ならええんじゃけど…」


曼珠沙華はどうして
あんなに朱いんだろう‥

「あの花、キモチわるうない?」

「毒があるからそう思うんじゃない?」


「どんな毒?」
「さあ、でもそれは身を守るためなんだよ」

「ムフフ、デカダンねえ~」


不意にビートルズが聞こえてくる‥
あれ以来
何かが“切れて”しまったのだ

「…ね、キスする?」

ああ‥

なぜなら
地球は丸いから


「しない、ベエーッ!」


「したくない?」
「そうゆーのはイヤ」

僕は覚醒する‥


「どうゆーのならOKなの?」

「もっとロマンチックによ」


風が強いから‥
僕のマインドは飛ばされる


「キスなんて簡単だよ、キスより簡単なものなんてない」

「どうしちゃったの」

過去と未来
古いものと新しいもの‥


「君が変なこと言うからさ」

「キスがしたいの?」

「違うよ」


愛はすべての手掛かり
愛は君であり僕でもある


「やっぱり今日の高杉君、変じゃわ」

「みんなと同じ価値観でいるのがしんどい時ってない?」

「あたしには難しいわ」

「人間は人の目を気にし過ぎるよね」


「高杉君は気にしてないの?」

「してるよ、だから成り立ってる」

「成り立ってるって?何んのこと?」


「世界だよ、自分を取り巻く世界」

「世界かあー」


空が青過ぎて‥

僕は泣きたくなる‥



僕はシガレットケースを取り出した

「カッコエエね、それ」

「JPS」

戦利品だ


「万引きしたんだよ」

「ウソ!どこで!」

「駅前」
「どーして!?」

「欲しい?」
「どーして?お金ないの?」

「あるよ」

ポチャン!

土手の上から僕は
そいつを投げ捨てた

1回くるりと回り
縁がねがキラリと光って
そいつは川底へ沈んで行った

「証拠はもうないよ」


「あたしも前やったけど、今はやってない」

「経験に勝る教師はないね」

「他にもなんかしとるん?」

「チャリンコをかっ払って売るとか」

「なんでそんなことするん?」


「知らない奴から金借りるとか」


「ダメ、絶対ダメよお」

「Y校のさ、こーんなリーゼントのヤツがさ“すいません今お金ないんです”なんてさ」


「仕返しされるわよ?」
「かもネ」


「どこで?」
「本屋で」

「あきれた…」


「高架の下まで連れてくと、やっと財布出すんだ」

「誰かにチクられるって」

「大丈夫さ」


「そういうことしない人じゃ思うとったわ」


「キライになった?」

「そんなことで嫌いにならんわよ」


煙草が吸いたくなった

「しもた、煙草まで捨てちゃったよ」


「うちにあるけど?」

「近い?」


「10分くらい」

「いいの?」
「うん」 


中沢弥生の家は
漆くい壁の大きな屋敷で土蔵があった

日本昔話に出てくる
村の庄屋どんのお屋敷みたいだ

豪奢な瓦屋根が秋の空に黒光りしていた

家の中はひんやりと涼しくかすかに線香の香りが漂った


彼女の部屋はシンプルにまとまっていて
男っぽい感じがした

とび色の光沢を放つギターが
良くしつけられたペットみたいに
部屋の中央に鎮座していた


そのギターの
なめらかな表面と曲線に見とれていると
中沢弥生がそばに来て
僕の真横に立った


ツンと汗の匂いがして
それを合図に
僕は彼女の厚ぼったい唇へキスした

それから
短く軽いキスを何回かに分けて彼女の唇や頬
首すじや耳もとにした


僕が彼女のベストを脱がせる時

驚くべきことに
彼女は身を左右によじっておぼつかない僕の仕草を
リードしてくれさえしたのだった


こうなれば後には引けない

意を決して
ブラウスのボタンに指をかけた

ドキドキの展開だ‥


彼女と向き合ったまま
僕はすべてのボタンを外し終わった


中沢弥生はその間ずっと目を伏せたままで

僕は何度も手を止めては
彼女が泣いていないことを確かめずにはいられなかった

今や彼女の胸元ははだけ
ブラジャー越しに匂い立つふたつの胸の膨らみは
僕のアイデンティティを崩壊させるに十分だった


彼女は肩を揺すってブラウスを床に落とした

ふぁさ~り…


僕は怖ず怖ずと彼女の胸に手を置いた

「おっきいんじゃね」

「ヤーダ!」
パシン!

イテテ‥

「これどーやって取るの」

カチ…

「えーっ!前から?」

「むこう向いとって、自分で脱ぐけん」

「あ、ハイ」


彼女が部屋の中を歩く気配がして
それからカーテンを引く音がした

「もうエエよ」


振り向くと
中沢弥生はベッドのシーツにくるまって
顔だけ出していた


喉が渇いた‥

僕はシャツを脱ぎ
ギターの横に添えた

僕が近づくと
彼女は目をキョロキョロさせて
落ち着かない風だった

ここは自分の部屋なのに
ショックで記憶を失くしてしまい
しきりに何かを思い出そうとしている
そんな感じだった


僕は彼女の傍らに座った

ギシ…


喉が渇く‥

薄暗がりの中
運命の女神がじっと息を殺して2人を覗いてる‥


深呼吸をひとつ
スー…はあー…

僕は彼女の隣へ潜り込んだ


天井を見つめる4つの瞳

「キスして」

「いいよ」
僕はもう1度キスした


手の場所に困った

肩を抱こうとして
乳房に触れた

うわあー、トットッと!
マズイ
いやマズくない‥


そしてまた
2人して天井を見つめた

天井パネルの小さな穴たちが
まるでプラネタリウム‥


気を取り直し態勢を変え
彼女のお腹に手を載せてみた

ちょうどおへそのあたり

彼女の呼吸に合わせて
お腹が上下するのが
なんとなく可笑しかった


温かい肌に触れていると
近頃の自分の刺々した気分が
癒されていくようだった


「くすぐったい…」

「中沢、初めて?」

我ながらなんたる愚問‥


「ううん…高杉君は?」

ほらキタ‥

「違うよ」

さらりとつく嘘が
だんだん上手になる


おへその下へ
僕は手をずらした

「あ…」

薄い下着の上から
なだらかな丘にそっと手を這わせた

「はあ…」

いよいよだ
これからどーすりゃいい‥

ちきしょう
こんな時西郷がいたら‥

いたら困る!

「え?なんかゆーた?」

「気のせいでしょ」


ふいーアブネー‥

心の中のことを
つい口走ってしまいそうになった

そして隙間から手を‥

ようこそ
ミステリーゾーンへ!


僕は盛んにさすったり
結んだり開いたり、つまんだり引っ張ったり?しながら時間を稼いだ

彼女は徐々に
“人ではなくなって”いった


ネコだ
紛れもなく猫‥

ニャア~
ゴロゴロ…

フンフ~ン…


丘陵の下には小さな杜が茂りその先は深い谷底

そこは
予想してた以上に遥かに複雑な造りで弾力性に富み
なんというかその‥

濡れていた!


そのせいで僕は
あと1枚を脱がせることに抵抗を覚えた

だって
あんまり色々出て来ても
困るし‥


下着のまま悪戦苦闘した揚句
これじゃあ
パンツのゴムが伸びちゃうなあ‥
などと思い
また声に出して笑いそうになった


できればしっかりこの目で見てみたかったが
そうもいかない

触診だけで理解しなければ‥

いつの間にか無心になった

「イタイ!」
「あ、ゴメン」

「もっとゆっくり」

よくある台詞だ‥


「初めてじゃ…ない?」

「ぜんぜん違うよ」
アセアセ‥


やがて彼女は“猫”から
また別の生き物に変貌していく

呼吸が荒くなり
時折びっくりしたように
体を引き攣らせるから
こっちまで
びっくりする

そのまま
永遠とも思えるような時間が過ぎた

手もだるい

文字通り抜き差しならない状況になった

シーツの中も蒸し暑かった

まさに“ジャングル・クルーズ”!



次第に僕は飽きてきた

いったん理性がリセットされると
この行為“B”に意義を見出だせなくなってきた

それに
このあとどうすべきか
まったくワカラナイ‥


あー面倒臭い
こんなことなら西郷に詳しく聞いておくんだった‥

彼女は別人のように
僕の顔のすぐ近くで喘ぎ続けてるが
僕はちっとも面白くなかった


「ねえ」
「な…あ…に?」

「何か話ししない?」

「いま…?」
「うん」

どっこいしょ、と
彼女は頭を持ち上げた

額にうっすらと汗を浮かべて張りついた前髪を
後ろへとかきあげた

「ええよ、何い?」


ベッドに頬杖をついた中沢弥生は
また別の中沢弥生に見えた

僕はその
彼女の大人びた視線に一瞬だが
うろたえた


「実はね」

「うん」

「好きな人がいるみたいなんだ」

「誰に?」

「僕に」


言っちまってからシマッタと後悔した


けれど時はすでに遅し‥

僕はなるべく生々しくならぬよう配慮して
不破野咲子とのことを
かい摘まんで話した


聞き終わっても
彼女はしばらく黙っていた 


「忘れられんのじゃね?」

「そうとも言う」

脳テンキとも言う‥


でもこの時は真剣だったのだ

だから余計タチが悪い‥


「じゃあなんで…」
彼女は声を詰まらせた

僕も知りたい‥



部屋を出る時
中沢弥生は天井を仰いでまだ泣いた後の目をこすっていた


僕は何も言わずドアを閉めるしかなかった


どうやら僕は
またヤッちゃったらしい

オンナの敵No.1の道もそう遠くない


結局煙草は吸えず
イライラだけが募った


手の平に
中沢弥生の“意識”が残ってるみたいな感じがしたので
公園でゴシゴシと水洗いした

それから
人目も気にせず
売店でサムタイムを買った


勝手にチクりやがれ‥

AだのBだのアホらしい!

咲子のバカ野郎!


もう目茶苦茶である

何がサムタイムだ
しょっちゅう吸ってるじゃないか!

煙草の銘柄にまで
腹が立って来た


落ち着くために販売機でコーラを買い
力いっぱい栓を抜いたら
泡まみれになり

おまけに
口元のガラスが欠けた


クッソ!
苛々のロイヤルストレートフラッシュだ


悪態をついていると
見馴れた猫背が歩いているではないか

「よお、園部」

「おお高杉か、何しとんな?」

「広美はどした」
「さあ~」

「フラれたか」
「くだらんことゆーな」

「じゃあ、くだることを話してやろう」

「なんじゃ」

「今度広美を殴ったら、お前もただじゃ済まんぞ?」

「クックックッ!なんじゃ今さら?」

「冗談でゆーとると思うか?」

「どーしたんじゃ?」


こいつは‥
自分が一匹狼のつもりなんだ


「どーもせん、ただ…これからは言うたことは実行するど?」

「わかった、わかった、おかしな奴じゃのう」


帰れ
帰りやがれ‥

元いた場所へ


「言ったことをよく覚えとけよ?」

「わかったわい」


でも長くは続かないってわかってる‥

どうせ家を出るんだろう


「あとでお前んち行くわ」

「何しに?」

「何しに?ポーカーでもやるか?」

「アホかい」

「広美と行くからな」


ハッパでも舐めてろ‥


「なんでじゃ?」

「理由がいるんか?」
「いや」

「ほんじゃ後での」
「どこ行くんじゃ」

「シガレットケースを失くした、新しいのを手に入れる」

「わかった、バイよ」


「もしもし…」
「…もしもし」

「高杉じゃけど」
「うん」

「これから園部んち行くんじゃけど、来いよ」

「…わかった」
「ほんじゃ」

プ、ツーツー



駅前の踏み切りは人が溜まっていた

何台ものクルマ
何十人もの人

一旦遮断機が降りると
なかなか上がらない

いつもなら
地下道を渡るとこだが
いったい何10分待たされるか
試してみたくなった


カンカンカーン!


「よ~高杉い~」
「お、甲斐」

「どこ行くんじゃ~」
「帰るんよ」

「映画でも見に行かんか」

「用事あるんじゃ」
「ほうか~」

カンカンカーン!


「これ長いのおー」
「おお~」


カンカンカーン!


「渡るか?」

「行くか?」


遮断機をくぐる


カンカンカ…


「あら?上がった」

「はっはっは!わしは先行くぞ!ほんじゃの~」

チリンチリ~ン!

「おう、バイよー」


ぞろぞろと踏み切りを渡る人波


渡り切る寸前で
また鳴り出した

カンカンカーン!

カンカンカーン!



ヒアカム ザ サンが聞こえて来る‥


僕は言う‥

イッツ オーライ!


園部の家に着くと
広美はすでに1階の応接間にいた

部屋に入るなり
僕は広美の頭をくしゃくしゃと掻き回した

見上げた彼女の顔は
急に明るくなった


「なんでこの部屋?」
「ステレオが壊れたんじゃと」

ここには古い一体型の東芝がある

僕はかがんで
ソファーに座っていた広美のおでこに
キスをした


「おう高杉」
「おう」

「ステレオついにめげてもーたわい」

「これ鳴るんか?」
「一応のう」

「初めてだな、和室に通したの」
「音楽が聴きたいじゃろ」

「デビッド・ボウイあるか?」
「あるぞ、取って来るわ」

「ついでに飲み物な」
「チッ、ったく!」

「たまにゃ労働しろや」
「お前こそな」

「僕はしてきた」

広美が不思議そうな顔をした


「勉強どお?」
「なんかイマイチ身が入らんのんよ」

「中間さ、一緒に勉強せん?」
「ええよ」

「1日か2日だけでいい、グラマーと数学だけ」

「どーしたんいきなり?」

「もっと前にそうしときゃ良かったよ」
「うん」

「最近まったくワカランのよ、サボり過ぎて」
「教えたげる」

「約束だぞ?」
「アイアイサー」


「お待たせ」

僕はサイダーを一口飲み
煙草を探す振りをした

「ダメじゃ!ここは!」

ヤレヤレ、というジェスチャー
「レコードはよ?」
「待て、今取って来る」


「…園部と遊んでんのか?」
「ううん」
本当っぽい

「愛してるか?」
「うん」


僕は窓を開けて煙草に火を点けた

そのまま窓のサンに座り
コップの中身を窓の外へぶちまけた

広美も煙草を取り出し
プカプカやり始めた


「見てろよ?」

僕はコップを持った片手を窓の外へ突き出し
「いいか?」

広美がウンと頷くのを見て
パッと手を離す


ゆっくりと
とは言っても自由落下だ


ぱりーん!
グラスが砕け散る

ちょうどいい具合に
園部が戻って来た

「やっぱボウイ…何やっとんのよ!」

「別に、落ちただけよ」

「あほう、何考えとるんよ!」

窓の下を覗き込む
「ああーあ…」


「広美、帰るぞ」
「はあい」

「なんじゃお前ら、煙草まで吸うて気はたしかか?」

「ごちそうさま~」
「まったく…もう来んなよ!」


僕は妙にスカッとした

リトルダーリン~

「広美いー」

道の真ん中をフラフラと
2人で並んでチャリを漕いだ

「なあに?」
「色々ゴメンな」

「ええんよ」 


広美と橋のたもとで別れ
僕は家路を急いだ


家路?
家路だって?

僕の家はいったい何処なんだ?

カラスにだって
帰る家があるってのに‥

家に帰りたい
うちに‥
心底そう思った


僕はやっと
広美と1つになれた気がしていた

彼女が求めていたものがなんであるか
それを感じることが
初めて出来たのだ


けれどもう間に合わなかった
刻一刻とその時が近づいていた


「ただいま」
ガチャリ…

「きみの~瞳はあ~百万ボルトおお~~」

ガックリ‥


「お帰りなさい、不良くん、最近ずっーと遅いわね」

「残って勉強してんスよ」

「ウソは平気でつくし、なんにも話してくれへんし」

「あのう…」
「何よ」

「百万ボルトじゃなくて、一万ボルトですよ、イチマン」
「うるさいわね」

「ポップスなんか珍しいですね」

「孝チャンと話しが合うように努力してるのヨン」

ヨンって‥


「ロックですよ、好きなのは」
「お化け~の~ロックンロ~~」

もういいって‥

「どっか出かけてました?」

パープルのタンクトップに淡い水色のサブリナパンツ

「ヘソが見えそーですよ」

「ヘエーそう?」

ご機嫌な理由が判った
おじさんが帰って来る日だ

食卓についた途端
美和さんの
みめうるわしいヒップが目に入った

「ルンルルルル~ン~ザザエさあ~ん」

ここも‥その

「ねえ孝チャン、胡麻は食べられる?」


ぴったりフィットしたパンツ‥

「胡麻和え作るから…」


美和さんも‥濡れたり‥


ゴンッ!
「イッテえーっ!」

「どこじーっと見てんのよッ!」

スリコギで頭を叩くとは!鬼だ

「聞いてますよお~、イッタイなあー」
「あとで散髪したげる!」

「いいですよお」

「変なとこだけ男っぽくなって!」
「イエイ!」


美和さんのように
常識人で歯切れが良く
さばさばした性格なら

僕も泥沼にハマることはなかっただろう

僕を取り巻く人々が‥


泥沼から
這い出ようとすればするだけ
より深い底無しに呑まれていくのだった



おじさんは
11PMが始まる頃帰って来て

リビングは
いつもより2時間早く消灯した


ラジオのヒットチャートからは
“ストレンジャー”が消え失せ
代わりに“素顔のままで”がランクイン


上位には
ゲリー・ラファティの
“霧のベイカー・ストリート”が入った

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ライトブルー

ジンギスカン
青春
同級生のウザ絡みに頭を抱える椚田司は念願のハッピースクールライフを手に入れるため、遂に陰湿な復讐を決行する。その陰湿さが故、自分が犯人だと気づかれる訳にはいかない。次々と襲い来る「お前が犯人だ」の声を椚田は切り抜けることができるのか。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

処理中です...