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第18話 Mrs.カーペンター登場!
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坂下邸は山間を切り開いた住宅地の一画にあった
といっても
建っている家はまだほんの数棟で
ほとんどは手付かずの空き地か新地だった
削り取られた崖の上に立つと
H町の町並みや国道を
遠く見下ろすことができた
「孝チャ~ン!入るわよー!」
「ハーイ」
襖戸は開いてるのに
わざわざ戸の陰から声をかける
それがミセス・カーペンターの“やり方”なのだ
「何聴いてるの、いい曲ね、高校生にしてはナイスよ」
僕は母から借りてきたカセットレコーダーのボリュームを下げた
「ミスター・メロディー、ナタリー・コールです」
僕はカセットを換えて
プレイボタンを押した
「シックのおしゃれフリーク、どうですかイイでしょ?」
「単調やわ、私はパス!」
なるほど‥
「お昼何食べた~い?」
「何でもいいです」
「あ~ん、そうゆ~のが一番困るのよ」
「じゃあ、おば…じゃなくて、美和さんの好きなもんで」
「そう~?それじゃあ冷や麦にしよっか?」
「ぜんぜんイイですよ!」
「了解~!」
やれやれ‥
無駄に元気の良い人だ
僕は寝転がって
足で扇風機の向きを変えた
おじさん、今日から出張だったっけ‥
明日から9月‥
来なくてもいい新学期が始まる
荷物は着替えと勉強道具
それに自転車
鞄は邪魔なので置いてきた
代わりに麻のズタ袋一つ
畳めばセカンドバッグにもなる流行りのトートバッグだ
布団は坂下家の客用をそのまま使わせてもらう事になった
ふかふかの新品で
昨夜の寝心地は最高だった
「それじゃあ、宜しくお願いしますわ」
親父と母が玄関で深々と頭を下げた
親父達よりうんと年下の坂下夫婦が恐縮する
「いやそんなあー、こちらこそ」
「ほら、お前もきちんと挨拶せんか」
「あ、はい、えーとお世話になります」
「いいのよ~、ねえ~アナタ?」
「ええ、ホンマこっちこそ助かりますわ、僕はなにぶん留守がちなもんで、男手があると家内も心強い」
坂下のおじさん
つまり久坂のお母さんの弟はにこやかに答えた
それが昨日
おじさんは
久坂のお母さんにそっくりで
僕は親近感を覚えた
親父達が帰ると早い夕食になった
「ビールくらい飲めるんやろ?」
「あ、はい」
「アナタ、ダメよ!もおー!」
夫人は口を尖らせたが
1杯だけという約束で
僕はビールにありついた
「高杉孝一くん、ようこそ坂下家へ」
「乾杯ー!」
坂下夫人は
ちょっと目がキツイ感じがする
実家は静岡で旅館の一人娘
大阪の大学に進み
親の反対を押し切り大阪で就職
その後今のご主人と出会い大恋愛の末またもや親の反対に合うが
これも押し切って
めでたくゴールイン
一見無計画な2人だが
モットーは
何事も計画的に、だ
ボーイッシュに短く刈り込んだ髮は
明るいブラウンで
“ローズマリーの赤ちゃん”の
ミア・ファーローを僕に思い出させた
「私ね、あのホラ、高校球児っていうの?、ああいう子だったら絶対イヤやったの」
「ええやないか、なあ孝一君?PLは今年も強かったなあ」
「そですね(興味ないけど‥)」
モグモグ…
「いやよ!あんなの~、だからそういう子だったら絶対断ってたわ!」
この人ならホントに断りそうだ‥
「孝一君、良かったな、合格しといて」
グビ、グビビ…
「ホントよ、私イヤなもんは絶対イヤだから」
「ワイフはこういう奴なんだよ、はははっ!」
ワイフ‥
ワイフだって?
僕も
「アハハハ!」
僕の部屋は角の和室で
窓から広々とした空き地が見渡せ
部屋の中にはまだ新築の匂いが立ち込めていた
「ところで孝一君は、煙草吸うのかしら?」
食事を終え自室に戻ろうとした僕を
ミア・ファーローが後ろからついて来て尋ねた
「嘘は言わないでネ、火事にでもなったら大変だから、私達は吸わないけど、君が吸うなら吸っていいわ、灰皿を買ってあげるから窓を開けて吸って、どう?煙草吸うの?」
「す、吸います」
「はあ~やっぱり~ ガッカリだわ」
「じゃあ吸いません」
「誓える?」
「それは、その…」
「しょうがないわね~、絶対気をつけてよ?可愛い顔してるんやから、煙草なんてやめればいいのに、ホントショック…」
「はい…」
「あ、それからテレビは何を見るの?」
「は?テレビ?」
「主人がいない時は何を見てもいいわ、でもいる時は野球、いい?」
「いいですよ」
「野球、好き?」
「いや、あんまり…」
「そう!良かったあ~!私も嫌いなの~、もう寝る?」
「ああ、そうですね、そろそろ…」
「今日は灰皿はないし、吸うのは明日からにしてくれる?」
「わかりました」
「そう、いいお返事ね、じゃあ~おやすみ、あ、それと私のこと、おばさんて呼ばんといてね」
「なんて…」
「お姉さん」
「え?」
「冗談よ、美和さんでいいわ、お願いね?」
「わ…わかりました」
坂下家の冷や麦は
世界歌謡祭みたいに華やかだった
りんごにミカン
チェリーにスイカ
なんとメロンに葡萄までついて
とってもデリーシャス!
「スゴイですね、これ」
「あら、普通とちがう~?」
「冷や麦のグラミー賞ですよ」
「なあ~に、それ?」
ツルツル~ピッ!
「権威のある賞ですよ、音楽の」
「へえ~」 ピッ!
「孝チャン?」
「はい」
「これできる~?チェリーの~これを~口の中でえ~」
「は?」
「む、…結ぶ…の……よ!ホラ!できたあ!」
「………」
「これが出来ると、キスが上手になるのよ~」
「ホントにッ?」
ツルツ~ル~
ピッ!
し、しまったあ‥
「引っ掛かったわね!誰とキスするのよ?教えなさいよ?」
僕は慌てて
冷や麦を口に運んだ
ツルツルツルツルッ!
ピピッ!
「あ…、“引っかけ”ちゃいました? ツユ…?」
「やるわね?孝チャン」
美和さんは
顔に飛んだツユをハンカチで拭いた
「やっぱり葡萄は別がいいんじゃないですか?」
「あら!そんなことないわよ!」
「そうですよ、箸じゃ食べにくいし」
「そうかしらネ~?」
ユニークな人だった
満腹になり部屋でクーラーを入れ涼んでいると
美和さんがやって来た
「おヒマかしら?」
「おヒマですが?」
「手伝ってもらえる?」
「何をですか?」
「玄関の外で待ってて」
「はい」
僕は表に出て
改めて屋敷を眺めていた
アーリーアメリカン調の美しい家だ
パステルカラーの壁が陽射しに眩しい
なんとなく
お伽話に出てくるお菓子の家みたいだ
なら住んでいるのは魔女か‥
似たような家が
ぽつんぽつんと周りに建っていて
整備された道路のアスファルトが
ギラギラと光っていた
そのうちもっと沢山の家が建つのだろう
「お待たせー」
見ると
縦縞のオーバーオールに着替えた美和さんがいた
レモンイエローのTシャツには
胸に鮮やかなグリーンで
“NEW YORK”という文字がプリントしてあった
目には金縁の小さな眼鏡をしている
「ちょっと近視なの」
ていうか‥
「林檎殺人事件ですか?」
「違うわよ!失礼やね」
「すいません」
美和さんはカーポートの奥に入り
板きれを抱えて出て来るとガラガラと空いたスペースにぶちまけた
「日曜大工?」
「そう、そんなとこ」
この暑いのに冗談じゃない‥
美和さんはウキウキと道具を並べた
オーバーオールがぶかぶかで
そばに行くと
“中身”が見えそうだった
「何作るんですか」
「犬小屋よ」
「犬いるんですか?」
「おらへんよー」
「これから飼うんですか」
「あなたが来たから飼わないわ」
どういう意味よ‥
「これ、凄いでしょ!」
丸い刃のついた電動ノコギリを振り回す
「うわ!危ないですよ!」
「使うでしょ?」
「誰が?」
「孝チャン」
「僕がやるんですか」
「私もやるから」
面倒臭さいなあ‥
「ノコギリは普通のにしましょうよ」
「ええ~!高かったのに~」
「ケガしたらもっと高くつきますよ」
「案外慎重なのね~」
「センスないんですよ、こういうの」
「ダメねえ~、まあとにかくやってみましょう!」
じっとしてても
暑いだけだし
面白いかも知れない
適当に寸法をとって
切るだけ切ってみるか‥
「いつ越して来たんですか」
「去年の秋よ、それまで福山の社宅にいたの」
「ここ、田舎でしょ?」
「ド田舎だわ」
「こんなに山を切り開いてるなんて知らなかった」
「昇ってくんのが大変なのよ~」
「たしかに、あ、短い…」
「あ、ホントだ」
「この辺、将来飛行場が出来るんでしょ?ホンマなんかしら?賑やかになるって」
「それ、国道の反対側じゃないですか?」
「そうなの?」
「しかも10年か20年後、いやもっと先の話しですよ」
「私、完全におばちゃんじゃない!」
「今は未完成?これでどうかな…」
「ピッタリよ」
ギーコギコギコ…
「孝チャンは趣味なあに?」
「特になし、強いて言えば犬小屋作り?」
「あ、そー、勉強一筋かと思った」
「ぜーんぜん」
「いろいろ知っておきたいの、一緒に暮らすわけだから」
「わかりますよ、でも久坂君からいろいろ聞いてるでしょ?」
「まあ、少しは」
「なんつってました?」
「さあ、なんて言ってたかなあ~」
ギーコギコギコ…
「美和さん、いくつなんですか」
「29」
「ハタチかと思った」
「あら、どうも」
「関西訛りありますよね?」
「実は大阪弁、あんまり好きちゃうのよ」
「所詮、言葉ですからね」
「どういう意味?」
「大事なのは行動ですよ」
「言うは易く?」
「言論の自由とも」
「難しいこと言うのね」
「簡単にすると流されちゃうんですよ、僕って」
「へえ~」
「あ!長過ぎた!」
「あら!ホント」
「おばさんネ、もっと不良っぽい子かと思ってたわ」
「善良そう?」
「真面目そうよ」
「そう見えるだけですよ」
「そやね、煙草も吸うしお酒も飲むし」
「最近覚えたんですよ、前は…、これでどうかな?」
「いいんと違う?」
「美和さんは学生運動とかやりました?」
「少しだけ、皆やったのよ一応、はしかみたいなものね、くだらないわ」
「それは後になってみて言えることでしょ?」
「つまり?」
「その時は夢中だった」
「どうやろか、結構冷めてたわよ」
「どう?こんな感じ!」
「悪くないわ」
釘はどう打つんだ?
くっつきゃいいか‥
「セクトとかまだあるの?」
「あるわけないじゃないですか、そんなのもう時代遅れですよ」
「言うわね」
「平和が1番です」
「それが幸せよね」
「平和イコール幸せとは限らないけど」
「孝チャンて、理屈っぽいのね?」
「行動が伴わないから、屁理屈って言われます」
「あら、わかってるやない?」
「高校生って虐げられてんだよなあ」
「そう?」
「早く大人になりた-い!」
「私は高校生に戻りたーい!」
「戻って何すんですか?」
「孝チャンのガールフレンドになるの」
「何わけわかんないこと言ってんですか」
「そう?」
「そうですよ」
「年とったなあって、今ふとそう感じたの」
「昔のこと思い出したからでしょ?」
「そやね~、近頃の高校生ってませてるわ」
「そうかな、実感ないけど」
「本たくさん読むんだって?」
「久坂君よりは読む、かな?」
「アイツが読んでんの見たことないわ」
「さよならコロンバスって、知ってます?」
「聞いたことあるわね」
「映画にもなったから、お金持ちの女の子と、そうじゃない男の子の話し」
「それで?」
「たしかプールサイドで男の子が一目惚れするんだけど、女の子がお尻に食い込んだ水着を自分でさりげなく直すのネ、そこの辺の描写がいいんですよ」
「エッチな本なの?」
「違いますよ、文学ですよ」
「それで?」
「避妊具のことで喧嘩になっちゃって、結局別れちゃうんですよ」
「文学なの?」
「ある愛の詩より、リアリティがありますよ」
「そうなの?」
「2人の間に階級意識みたいなものがあって、これがお互いのプライドを傷つけちゃうんです」
「若いのね」
「若さは不自由さでもあるんです」
「大人になったらもっと不自由なことだらけよ」
「でも発言は認められるでしょ」
「ある程度ね」
「行動の制限もない」
「だから、ある程度よ」
「大学は何をする所?」
「学問」
「本気ですか?」
「屋根、歪んでへん?」
「うーん…」
「受験大変やね」
「そうでもないですよ、頭悪いから」
「そんなことないでしょ」
「近頃ね、大学行く必要なんてないんじゃないかなって思うんですよ」
「どうしてよ」
「皆が行くから行くって感じしか湧かなくて」
「そんなものよ」
「なんで傾くのかな…」
「行った方がいいわよ」
「なぜ?」
「やりたい事があれば別だけど、ないの?」
「そうだなあ~、どっか南の島でプカシェルでも売りながら暮らしたいってのが本音ですね」
「何それ、そんなのダメよ」
「理想なんだけどな」
「それならすぐ出てってもらうわ」
「どうして?」
「そんな人になってもらいたくないから」
「美和さんが?」
「私にはあなたを預かった責任があるのよ」
「それはないでしょう」
「あるの」
「契約したの?」
「しないけどあるの」
「人権蹂躙だ」
「なんとでも言って、私はあなたの保護者なの」
「困りますよー」
「何でも話してね?」
「嫌です」
その日
結局、犬小屋は完成しなかった
代わりにいびつなゴミ箱がひとつ出来た
でも美和さんの目的は達成されたのだ
それは僕を知るということであり
犬小屋はただの口実
僕はまんまと罠にハマったが
勝負はこれからだ‥
2日目の夕食にもビールが出てきた
「今日はどうもありがとう!乾杯~」
「毎日飲めるんですか、天国だな」
「バカね!夏休み最後だからよ」
「おじさん出張なんですよね」
「そうよ、しばらく帰って来ーへんよ」
「食べきれないですよ?こんなに」
「食べてもっと太りなさいよ、痩せっぽちなんやから」
「無理矢理だなあー」
「残っても大丈夫やから、なるべく食べて」
「わっかりました-」
これが普通の家庭?
京都でもそうだった
たくさんのオカズ
炊きたてのごはん
お味噌汁、サラダ、酢の物
お肉にさかな
親父もきっと
まともな暮らしがしたくなったのだなと
そう思った
「8時過ぎたら電話借りていいですか」
「いいわよどうぞ、京都?おかわりは?」
「はい、少し」
「彼女にはしなくていいの?」
「いいですよ」
「かけときなさ~い!」
「明日会うし」
「なんだ、つまんない」
「連れて来なさいよ」
「イヤですよ」
「私がチェックしてあげるから」
「だからイヤなんですって」
「何か困るの?」
「当たり前でしょ!」
「変なことしてるからよ」
「してませんよ!」
「どうだか~」
「ごちそうさまっ!」
「あ!コラッ!もう!お風呂入ってよお~!」
「はあーい」
そしていよいよ夜が来た
なんと言っても
2人きりの夜だ
どんな風に過ごせば良いのだろう‥
僕はやや自信過剰…、じゃなくて
自意識過剰ぎみだった
考えてみたら
家の中に男女が2人きり
何が起きてもおかしくない
「お先にいただきました」
「あーはい、私も入って来るから好きなテレビでも見ててね、エアコンついてるわ、見ないなら消しといて」
僕は自分の部屋で髮を乾かし
このまま引きこもってしまうのも
陰気な子みたいで感じが悪いかなと思い
リビングへ向かった
部屋の明かりは
間接照明だけになっていて
何やらそわそわするムードだった
急いでテレビをつけ
ソファーには座らずに
床に直接腰を降ろしパジャマの脚を伸ばした
軽く組んだ方がカッコイイかな‥
自意識のスイッチが入る
上はTシャツ1枚
セクシー過ぎるだろうか‥
カチャ…
ドアが開き
美和さんが入って来た
「あ~スッキリした」
えーっ!?
花柄のネ、ネグリジェ姿!
すんげえ‥
僕はとっさに
テレビ画面に視線を移した
画面の中では
研ナオコが
「トンデレラ!シンデレラ!」
心臓が早鐘を打ち始めた
なんでネグリジェなんだ!
これって普通なのか‥
「何か飲む?」
ワシワシとタオルで髮を拭きながら
「あ~、そ…そうですね」
「何がいい?何でもあるわよ」
「カルピス…カルピスありますか」
「ちょっと待って~」
どうすりゃいいんだ
見てもいいものか
いや、ダメだろ!
でもいつかはそっちの方を見なきゃ‥
「はい、どうぞ」
「あ、どうも」
ギャアー!
透けとるー!
下着が透け‥
「うわッ!」
「ほら何やってんの!こぼれちゃうじゃない」
「すいません!」
「何か面白いのやってる?」
「いや、別に」
「新聞見せて」
ギャア!ギャアー!
ノーブラじゃないかー!
ノーブラじゃ‥
「何にもやってないわね~」
ピッ!
「コ・マ・送・り・も・で・き・ま・す・ヨ!」
仲本工事‥
ピッ!
「マルハッチっ!」
高見山‥
「ミスタ~さまあ~タ~~ムう~ 忘~れないでえ~」
「あ、サーカス」
僕はピエロか?
「あの~」
「なあに?」
「いつもネグリジェなんですか」
どうだ!
勇気があるだろう‥
「そうよ、可笑しい?」
後ろに引っ張って
胸を強調する
ギ…ギャアー!
やめてえ~
拷問だー
「いや、ちょっとビックリした…ので」
「楽なのよ、パジャマより」
でも透けてるじゃないか‥
「“薄く”ない?カルピス?」
「“薄い”ですよ!いや“濃い”です」
「もっと“薄く”する?」
「いやいいです!“薄く”しないで」
「どっちよ、ハッキリしなさいよ」
「あのッ!“透け”てますよ!」
ヤケクソだ‥
「そんなに“薄い”?」
だから薄いんだって!もう‥
「罪なあ~奴さあ~ ああ~ぱし~フィ~ックう~」
「私この人、あんまし好きじゃないわ」
ピッ!
そう言って
ソファーに横になる
ひじ掛けに頭を載せてコスモポリタンを開く
脚を立てる
何故!脚を立てる?
ほら、スルスル~っと
膝から上が‥
「あの、美和さん…」
「あ、孝チャン、ちょっと肩もんで」
“卒業”だ!
この人はミセス‥
「慣れないことするもんじゃないわね~」
「はい、そうですね」
「も少し、力入れて?」
「かしこまりました」
「キモチ~」
「サーカス好きなんですか」
モミモミ…
「そうね、ハイ・ファイ・セットとか」
何か話してないと‥
モミモミ…
「洋楽は?」
「うーん何だろ、孝チャンは?」
「ビートルズかな、やっぱ」
「私はあんまり好きじゃないなあ~」
「サイモンとガーファンクルなんかは?」
「ギリギリセーフかな~」
“卒業”‥
「いい匂いしますネ」
「いやらしいわねー」
「えーっ!そんなあ~」
「まあ、孝チャンなら安心だけど」
「わかんないですよ」
「あら、危ないの?」
「い、イヤ危なくはないです」
「ブラジャーすると窮屈なのよ」
あわわわ‥卒倒しそうだ
「そ、そ、そうなんですか、よ、よくわかんないけど…」
「私小さいから、気になんないでしょ?」
げ~っ!!どーなってんだ!この家は!
「キ、キ、気になりますよ!」
「エッチねえ~」
ゆゆゆ、誘惑だ‥
「じゃあ、付けるわよ、ヨッコラショと…」
「え?ここで?」
「見たいの?」
「いや!ぜんぜんッ!ぜんぜん!!」
「あっそ、失礼ねぇ」
「いや、少しは…見た…」
「着替えて来るね」
「あ、は、はいー」
「と思ったけど寝るわ、テレビもつまんないし、寝る時全部消しといてね?」
「わかりました」
「おやすみ~」
「おやすみなさい」
ふうう~
「いやあー、参ったナあ~」
ズルズルと力が抜ける僕
「何が?」
「うわ!寝たんじゃないんですか!!」
「思い出したのよ」
「何をですか!」
「アレよ、えーと好きな洋楽」
「何でした?」
「えーとね~“プリーズ・ミスター・ポストマン”とか“イエスタデイ・ワンス・モア”の…」
「あー!それ、カーペンターズ!」
「それよ!じゃあ、おやすみなさ~い、エッチなお兄さん」
エッチ、エッチって
人をなんだと‥
「変なことしないでよ?」
「しませんよッ!」
ったく!
なんだよ!ヘンな事って!
その後すぐ
僕も自分の部屋に引き上げた
カセットレコーダーをラジオに切り替えると
ちょうど洋楽のTOP10をやっていた
ビリー・ジョエルが徐々に順位を下げ
ローリングストーンズの
“Miss You”がランクインしてきた
なかなかカッコイイ曲だ‥
美和さんは
コーラみたいに刺激が強くて
僕は一気に飲み干す自信はなかった
彼女は合理的で
機知に富んでいて
几帳面で話し好きで
責任感が強かった
退屈そうなそぶりはなかった
僕とは違い
彼女は充実していたのだ
彼女が何を言い
どんな恰好をしても
僕はへっちゃらだった
ネグリジェ以外なら何でも来いと思った
といっても
建っている家はまだほんの数棟で
ほとんどは手付かずの空き地か新地だった
削り取られた崖の上に立つと
H町の町並みや国道を
遠く見下ろすことができた
「孝チャ~ン!入るわよー!」
「ハーイ」
襖戸は開いてるのに
わざわざ戸の陰から声をかける
それがミセス・カーペンターの“やり方”なのだ
「何聴いてるの、いい曲ね、高校生にしてはナイスよ」
僕は母から借りてきたカセットレコーダーのボリュームを下げた
「ミスター・メロディー、ナタリー・コールです」
僕はカセットを換えて
プレイボタンを押した
「シックのおしゃれフリーク、どうですかイイでしょ?」
「単調やわ、私はパス!」
なるほど‥
「お昼何食べた~い?」
「何でもいいです」
「あ~ん、そうゆ~のが一番困るのよ」
「じゃあ、おば…じゃなくて、美和さんの好きなもんで」
「そう~?それじゃあ冷や麦にしよっか?」
「ぜんぜんイイですよ!」
「了解~!」
やれやれ‥
無駄に元気の良い人だ
僕は寝転がって
足で扇風機の向きを変えた
おじさん、今日から出張だったっけ‥
明日から9月‥
来なくてもいい新学期が始まる
荷物は着替えと勉強道具
それに自転車
鞄は邪魔なので置いてきた
代わりに麻のズタ袋一つ
畳めばセカンドバッグにもなる流行りのトートバッグだ
布団は坂下家の客用をそのまま使わせてもらう事になった
ふかふかの新品で
昨夜の寝心地は最高だった
「それじゃあ、宜しくお願いしますわ」
親父と母が玄関で深々と頭を下げた
親父達よりうんと年下の坂下夫婦が恐縮する
「いやそんなあー、こちらこそ」
「ほら、お前もきちんと挨拶せんか」
「あ、はい、えーとお世話になります」
「いいのよ~、ねえ~アナタ?」
「ええ、ホンマこっちこそ助かりますわ、僕はなにぶん留守がちなもんで、男手があると家内も心強い」
坂下のおじさん
つまり久坂のお母さんの弟はにこやかに答えた
それが昨日
おじさんは
久坂のお母さんにそっくりで
僕は親近感を覚えた
親父達が帰ると早い夕食になった
「ビールくらい飲めるんやろ?」
「あ、はい」
「アナタ、ダメよ!もおー!」
夫人は口を尖らせたが
1杯だけという約束で
僕はビールにありついた
「高杉孝一くん、ようこそ坂下家へ」
「乾杯ー!」
坂下夫人は
ちょっと目がキツイ感じがする
実家は静岡で旅館の一人娘
大阪の大学に進み
親の反対を押し切り大阪で就職
その後今のご主人と出会い大恋愛の末またもや親の反対に合うが
これも押し切って
めでたくゴールイン
一見無計画な2人だが
モットーは
何事も計画的に、だ
ボーイッシュに短く刈り込んだ髮は
明るいブラウンで
“ローズマリーの赤ちゃん”の
ミア・ファーローを僕に思い出させた
「私ね、あのホラ、高校球児っていうの?、ああいう子だったら絶対イヤやったの」
「ええやないか、なあ孝一君?PLは今年も強かったなあ」
「そですね(興味ないけど‥)」
モグモグ…
「いやよ!あんなの~、だからそういう子だったら絶対断ってたわ!」
この人ならホントに断りそうだ‥
「孝一君、良かったな、合格しといて」
グビ、グビビ…
「ホントよ、私イヤなもんは絶対イヤだから」
「ワイフはこういう奴なんだよ、はははっ!」
ワイフ‥
ワイフだって?
僕も
「アハハハ!」
僕の部屋は角の和室で
窓から広々とした空き地が見渡せ
部屋の中にはまだ新築の匂いが立ち込めていた
「ところで孝一君は、煙草吸うのかしら?」
食事を終え自室に戻ろうとした僕を
ミア・ファーローが後ろからついて来て尋ねた
「嘘は言わないでネ、火事にでもなったら大変だから、私達は吸わないけど、君が吸うなら吸っていいわ、灰皿を買ってあげるから窓を開けて吸って、どう?煙草吸うの?」
「す、吸います」
「はあ~やっぱり~ ガッカリだわ」
「じゃあ吸いません」
「誓える?」
「それは、その…」
「しょうがないわね~、絶対気をつけてよ?可愛い顔してるんやから、煙草なんてやめればいいのに、ホントショック…」
「はい…」
「あ、それからテレビは何を見るの?」
「は?テレビ?」
「主人がいない時は何を見てもいいわ、でもいる時は野球、いい?」
「いいですよ」
「野球、好き?」
「いや、あんまり…」
「そう!良かったあ~!私も嫌いなの~、もう寝る?」
「ああ、そうですね、そろそろ…」
「今日は灰皿はないし、吸うのは明日からにしてくれる?」
「わかりました」
「そう、いいお返事ね、じゃあ~おやすみ、あ、それと私のこと、おばさんて呼ばんといてね」
「なんて…」
「お姉さん」
「え?」
「冗談よ、美和さんでいいわ、お願いね?」
「わ…わかりました」
坂下家の冷や麦は
世界歌謡祭みたいに華やかだった
りんごにミカン
チェリーにスイカ
なんとメロンに葡萄までついて
とってもデリーシャス!
「スゴイですね、これ」
「あら、普通とちがう~?」
「冷や麦のグラミー賞ですよ」
「なあ~に、それ?」
ツルツル~ピッ!
「権威のある賞ですよ、音楽の」
「へえ~」 ピッ!
「孝チャン?」
「はい」
「これできる~?チェリーの~これを~口の中でえ~」
「は?」
「む、…結ぶ…の……よ!ホラ!できたあ!」
「………」
「これが出来ると、キスが上手になるのよ~」
「ホントにッ?」
ツルツ~ル~
ピッ!
し、しまったあ‥
「引っ掛かったわね!誰とキスするのよ?教えなさいよ?」
僕は慌てて
冷や麦を口に運んだ
ツルツルツルツルッ!
ピピッ!
「あ…、“引っかけ”ちゃいました? ツユ…?」
「やるわね?孝チャン」
美和さんは
顔に飛んだツユをハンカチで拭いた
「やっぱり葡萄は別がいいんじゃないですか?」
「あら!そんなことないわよ!」
「そうですよ、箸じゃ食べにくいし」
「そうかしらネ~?」
ユニークな人だった
満腹になり部屋でクーラーを入れ涼んでいると
美和さんがやって来た
「おヒマかしら?」
「おヒマですが?」
「手伝ってもらえる?」
「何をですか?」
「玄関の外で待ってて」
「はい」
僕は表に出て
改めて屋敷を眺めていた
アーリーアメリカン調の美しい家だ
パステルカラーの壁が陽射しに眩しい
なんとなく
お伽話に出てくるお菓子の家みたいだ
なら住んでいるのは魔女か‥
似たような家が
ぽつんぽつんと周りに建っていて
整備された道路のアスファルトが
ギラギラと光っていた
そのうちもっと沢山の家が建つのだろう
「お待たせー」
見ると
縦縞のオーバーオールに着替えた美和さんがいた
レモンイエローのTシャツには
胸に鮮やかなグリーンで
“NEW YORK”という文字がプリントしてあった
目には金縁の小さな眼鏡をしている
「ちょっと近視なの」
ていうか‥
「林檎殺人事件ですか?」
「違うわよ!失礼やね」
「すいません」
美和さんはカーポートの奥に入り
板きれを抱えて出て来るとガラガラと空いたスペースにぶちまけた
「日曜大工?」
「そう、そんなとこ」
この暑いのに冗談じゃない‥
美和さんはウキウキと道具を並べた
オーバーオールがぶかぶかで
そばに行くと
“中身”が見えそうだった
「何作るんですか」
「犬小屋よ」
「犬いるんですか?」
「おらへんよー」
「これから飼うんですか」
「あなたが来たから飼わないわ」
どういう意味よ‥
「これ、凄いでしょ!」
丸い刃のついた電動ノコギリを振り回す
「うわ!危ないですよ!」
「使うでしょ?」
「誰が?」
「孝チャン」
「僕がやるんですか」
「私もやるから」
面倒臭さいなあ‥
「ノコギリは普通のにしましょうよ」
「ええ~!高かったのに~」
「ケガしたらもっと高くつきますよ」
「案外慎重なのね~」
「センスないんですよ、こういうの」
「ダメねえ~、まあとにかくやってみましょう!」
じっとしてても
暑いだけだし
面白いかも知れない
適当に寸法をとって
切るだけ切ってみるか‥
「いつ越して来たんですか」
「去年の秋よ、それまで福山の社宅にいたの」
「ここ、田舎でしょ?」
「ド田舎だわ」
「こんなに山を切り開いてるなんて知らなかった」
「昇ってくんのが大変なのよ~」
「たしかに、あ、短い…」
「あ、ホントだ」
「この辺、将来飛行場が出来るんでしょ?ホンマなんかしら?賑やかになるって」
「それ、国道の反対側じゃないですか?」
「そうなの?」
「しかも10年か20年後、いやもっと先の話しですよ」
「私、完全におばちゃんじゃない!」
「今は未完成?これでどうかな…」
「ピッタリよ」
ギーコギコギコ…
「孝チャンは趣味なあに?」
「特になし、強いて言えば犬小屋作り?」
「あ、そー、勉強一筋かと思った」
「ぜーんぜん」
「いろいろ知っておきたいの、一緒に暮らすわけだから」
「わかりますよ、でも久坂君からいろいろ聞いてるでしょ?」
「まあ、少しは」
「なんつってました?」
「さあ、なんて言ってたかなあ~」
ギーコギコギコ…
「美和さん、いくつなんですか」
「29」
「ハタチかと思った」
「あら、どうも」
「関西訛りありますよね?」
「実は大阪弁、あんまり好きちゃうのよ」
「所詮、言葉ですからね」
「どういう意味?」
「大事なのは行動ですよ」
「言うは易く?」
「言論の自由とも」
「難しいこと言うのね」
「簡単にすると流されちゃうんですよ、僕って」
「へえ~」
「あ!長過ぎた!」
「あら!ホント」
「おばさんネ、もっと不良っぽい子かと思ってたわ」
「善良そう?」
「真面目そうよ」
「そう見えるだけですよ」
「そやね、煙草も吸うしお酒も飲むし」
「最近覚えたんですよ、前は…、これでどうかな?」
「いいんと違う?」
「美和さんは学生運動とかやりました?」
「少しだけ、皆やったのよ一応、はしかみたいなものね、くだらないわ」
「それは後になってみて言えることでしょ?」
「つまり?」
「その時は夢中だった」
「どうやろか、結構冷めてたわよ」
「どう?こんな感じ!」
「悪くないわ」
釘はどう打つんだ?
くっつきゃいいか‥
「セクトとかまだあるの?」
「あるわけないじゃないですか、そんなのもう時代遅れですよ」
「言うわね」
「平和が1番です」
「それが幸せよね」
「平和イコール幸せとは限らないけど」
「孝チャンて、理屈っぽいのね?」
「行動が伴わないから、屁理屈って言われます」
「あら、わかってるやない?」
「高校生って虐げられてんだよなあ」
「そう?」
「早く大人になりた-い!」
「私は高校生に戻りたーい!」
「戻って何すんですか?」
「孝チャンのガールフレンドになるの」
「何わけわかんないこと言ってんですか」
「そう?」
「そうですよ」
「年とったなあって、今ふとそう感じたの」
「昔のこと思い出したからでしょ?」
「そやね~、近頃の高校生ってませてるわ」
「そうかな、実感ないけど」
「本たくさん読むんだって?」
「久坂君よりは読む、かな?」
「アイツが読んでんの見たことないわ」
「さよならコロンバスって、知ってます?」
「聞いたことあるわね」
「映画にもなったから、お金持ちの女の子と、そうじゃない男の子の話し」
「それで?」
「たしかプールサイドで男の子が一目惚れするんだけど、女の子がお尻に食い込んだ水着を自分でさりげなく直すのネ、そこの辺の描写がいいんですよ」
「エッチな本なの?」
「違いますよ、文学ですよ」
「それで?」
「避妊具のことで喧嘩になっちゃって、結局別れちゃうんですよ」
「文学なの?」
「ある愛の詩より、リアリティがありますよ」
「そうなの?」
「2人の間に階級意識みたいなものがあって、これがお互いのプライドを傷つけちゃうんです」
「若いのね」
「若さは不自由さでもあるんです」
「大人になったらもっと不自由なことだらけよ」
「でも発言は認められるでしょ」
「ある程度ね」
「行動の制限もない」
「だから、ある程度よ」
「大学は何をする所?」
「学問」
「本気ですか?」
「屋根、歪んでへん?」
「うーん…」
「受験大変やね」
「そうでもないですよ、頭悪いから」
「そんなことないでしょ」
「近頃ね、大学行く必要なんてないんじゃないかなって思うんですよ」
「どうしてよ」
「皆が行くから行くって感じしか湧かなくて」
「そんなものよ」
「なんで傾くのかな…」
「行った方がいいわよ」
「なぜ?」
「やりたい事があれば別だけど、ないの?」
「そうだなあ~、どっか南の島でプカシェルでも売りながら暮らしたいってのが本音ですね」
「何それ、そんなのダメよ」
「理想なんだけどな」
「それならすぐ出てってもらうわ」
「どうして?」
「そんな人になってもらいたくないから」
「美和さんが?」
「私にはあなたを預かった責任があるのよ」
「それはないでしょう」
「あるの」
「契約したの?」
「しないけどあるの」
「人権蹂躙だ」
「なんとでも言って、私はあなたの保護者なの」
「困りますよー」
「何でも話してね?」
「嫌です」
その日
結局、犬小屋は完成しなかった
代わりにいびつなゴミ箱がひとつ出来た
でも美和さんの目的は達成されたのだ
それは僕を知るということであり
犬小屋はただの口実
僕はまんまと罠にハマったが
勝負はこれからだ‥
2日目の夕食にもビールが出てきた
「今日はどうもありがとう!乾杯~」
「毎日飲めるんですか、天国だな」
「バカね!夏休み最後だからよ」
「おじさん出張なんですよね」
「そうよ、しばらく帰って来ーへんよ」
「食べきれないですよ?こんなに」
「食べてもっと太りなさいよ、痩せっぽちなんやから」
「無理矢理だなあー」
「残っても大丈夫やから、なるべく食べて」
「わっかりました-」
これが普通の家庭?
京都でもそうだった
たくさんのオカズ
炊きたてのごはん
お味噌汁、サラダ、酢の物
お肉にさかな
親父もきっと
まともな暮らしがしたくなったのだなと
そう思った
「8時過ぎたら電話借りていいですか」
「いいわよどうぞ、京都?おかわりは?」
「はい、少し」
「彼女にはしなくていいの?」
「いいですよ」
「かけときなさ~い!」
「明日会うし」
「なんだ、つまんない」
「連れて来なさいよ」
「イヤですよ」
「私がチェックしてあげるから」
「だからイヤなんですって」
「何か困るの?」
「当たり前でしょ!」
「変なことしてるからよ」
「してませんよ!」
「どうだか~」
「ごちそうさまっ!」
「あ!コラッ!もう!お風呂入ってよお~!」
「はあーい」
そしていよいよ夜が来た
なんと言っても
2人きりの夜だ
どんな風に過ごせば良いのだろう‥
僕はやや自信過剰…、じゃなくて
自意識過剰ぎみだった
考えてみたら
家の中に男女が2人きり
何が起きてもおかしくない
「お先にいただきました」
「あーはい、私も入って来るから好きなテレビでも見ててね、エアコンついてるわ、見ないなら消しといて」
僕は自分の部屋で髮を乾かし
このまま引きこもってしまうのも
陰気な子みたいで感じが悪いかなと思い
リビングへ向かった
部屋の明かりは
間接照明だけになっていて
何やらそわそわするムードだった
急いでテレビをつけ
ソファーには座らずに
床に直接腰を降ろしパジャマの脚を伸ばした
軽く組んだ方がカッコイイかな‥
自意識のスイッチが入る
上はTシャツ1枚
セクシー過ぎるだろうか‥
カチャ…
ドアが開き
美和さんが入って来た
「あ~スッキリした」
えーっ!?
花柄のネ、ネグリジェ姿!
すんげえ‥
僕はとっさに
テレビ画面に視線を移した
画面の中では
研ナオコが
「トンデレラ!シンデレラ!」
心臓が早鐘を打ち始めた
なんでネグリジェなんだ!
これって普通なのか‥
「何か飲む?」
ワシワシとタオルで髮を拭きながら
「あ~、そ…そうですね」
「何がいい?何でもあるわよ」
「カルピス…カルピスありますか」
「ちょっと待って~」
どうすりゃいいんだ
見てもいいものか
いや、ダメだろ!
でもいつかはそっちの方を見なきゃ‥
「はい、どうぞ」
「あ、どうも」
ギャアー!
透けとるー!
下着が透け‥
「うわッ!」
「ほら何やってんの!こぼれちゃうじゃない」
「すいません!」
「何か面白いのやってる?」
「いや、別に」
「新聞見せて」
ギャア!ギャアー!
ノーブラじゃないかー!
ノーブラじゃ‥
「何にもやってないわね~」
ピッ!
「コ・マ・送・り・も・で・き・ま・す・ヨ!」
仲本工事‥
ピッ!
「マルハッチっ!」
高見山‥
「ミスタ~さまあ~タ~~ムう~ 忘~れないでえ~」
「あ、サーカス」
僕はピエロか?
「あの~」
「なあに?」
「いつもネグリジェなんですか」
どうだ!
勇気があるだろう‥
「そうよ、可笑しい?」
後ろに引っ張って
胸を強調する
ギ…ギャアー!
やめてえ~
拷問だー
「いや、ちょっとビックリした…ので」
「楽なのよ、パジャマより」
でも透けてるじゃないか‥
「“薄く”ない?カルピス?」
「“薄い”ですよ!いや“濃い”です」
「もっと“薄く”する?」
「いやいいです!“薄く”しないで」
「どっちよ、ハッキリしなさいよ」
「あのッ!“透け”てますよ!」
ヤケクソだ‥
「そんなに“薄い”?」
だから薄いんだって!もう‥
「罪なあ~奴さあ~ ああ~ぱし~フィ~ックう~」
「私この人、あんまし好きじゃないわ」
ピッ!
そう言って
ソファーに横になる
ひじ掛けに頭を載せてコスモポリタンを開く
脚を立てる
何故!脚を立てる?
ほら、スルスル~っと
膝から上が‥
「あの、美和さん…」
「あ、孝チャン、ちょっと肩もんで」
“卒業”だ!
この人はミセス‥
「慣れないことするもんじゃないわね~」
「はい、そうですね」
「も少し、力入れて?」
「かしこまりました」
「キモチ~」
「サーカス好きなんですか」
モミモミ…
「そうね、ハイ・ファイ・セットとか」
何か話してないと‥
モミモミ…
「洋楽は?」
「うーん何だろ、孝チャンは?」
「ビートルズかな、やっぱ」
「私はあんまり好きじゃないなあ~」
「サイモンとガーファンクルなんかは?」
「ギリギリセーフかな~」
“卒業”‥
「いい匂いしますネ」
「いやらしいわねー」
「えーっ!そんなあ~」
「まあ、孝チャンなら安心だけど」
「わかんないですよ」
「あら、危ないの?」
「い、イヤ危なくはないです」
「ブラジャーすると窮屈なのよ」
あわわわ‥卒倒しそうだ
「そ、そ、そうなんですか、よ、よくわかんないけど…」
「私小さいから、気になんないでしょ?」
げ~っ!!どーなってんだ!この家は!
「キ、キ、気になりますよ!」
「エッチねえ~」
ゆゆゆ、誘惑だ‥
「じゃあ、付けるわよ、ヨッコラショと…」
「え?ここで?」
「見たいの?」
「いや!ぜんぜんッ!ぜんぜん!!」
「あっそ、失礼ねぇ」
「いや、少しは…見た…」
「着替えて来るね」
「あ、は、はいー」
「と思ったけど寝るわ、テレビもつまんないし、寝る時全部消しといてね?」
「わかりました」
「おやすみ~」
「おやすみなさい」
ふうう~
「いやあー、参ったナあ~」
ズルズルと力が抜ける僕
「何が?」
「うわ!寝たんじゃないんですか!!」
「思い出したのよ」
「何をですか!」
「アレよ、えーと好きな洋楽」
「何でした?」
「えーとね~“プリーズ・ミスター・ポストマン”とか“イエスタデイ・ワンス・モア”の…」
「あー!それ、カーペンターズ!」
「それよ!じゃあ、おやすみなさ~い、エッチなお兄さん」
エッチ、エッチって
人をなんだと‥
「変なことしないでよ?」
「しませんよッ!」
ったく!
なんだよ!ヘンな事って!
その後すぐ
僕も自分の部屋に引き上げた
カセットレコーダーをラジオに切り替えると
ちょうど洋楽のTOP10をやっていた
ビリー・ジョエルが徐々に順位を下げ
ローリングストーンズの
“Miss You”がランクインしてきた
なかなかカッコイイ曲だ‥
美和さんは
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僕は一気に飲み干す自信はなかった
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機知に富んでいて
几帳面で話し好きで
責任感が強かった
退屈そうなそぶりはなかった
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彼女が何を言い
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