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11.柿の木坂クライシス2
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わたし本当はママに彼氏と別れた事話そうと思ってたけどうまく言い出せない。
「まあ、傷心旅行じゃない!」そんな風に言われそうで。
「またなの?これで何人め?」って。ママの表現は時代錯誤でイヤ。
そりゃあママはパパと長続きしてる。その秘訣が知りたいくらい。
愛にはいろんな形がある。どんな形であれ、仲良き事は美しき哉だ。
愛とは、誰が何と言おうとその人のそばに居たいと思う事。
愛とは、相手に見返りを求めない事。
愛とは、相手の幸せを願う気持ち。
そんな事はわかってるけど、何だか自分ばかり損をしてる気になっちゃうのは修行が足りないから?
それって、始めから愛じゃないんだね、きっと。
もっと自分が出せれば良いんだけど、言いたい事や伝えたい事がいつの間にか後回しになって。結局、自信がないんだわ。
「コーヒーを煎れたわ。バリスタを買ったのよ」
「へえ」
淹れたての香りは何ものにも代え難い。たとえ本物のバールマンでなくても。
「まあまあでしょ」
「うん。美味しい」
「これも食べて。パパのお土産」
「うわー、うまそ!」
好物のバウムクーヘン。舌の奥からジュワッと唾が溢れてくる。でもこれは余りにもキケン過ぎる。
「クラブハリエのよ。カオリ目がないでしょ」
「ダイエットしてるの。どっしよかなー」
「少しくらい平気よ」
「そーれが甘いのよ。リバウンドの恐ろしさ、ママもよく知ってるでしょ」
「そうね。じゃママは頂くわ。ん~メチャメチャ美味しいわ!」
「ポッコリお腹は大丈夫なの?ヤバくない?」
「いざって時は骨盤矯正ショーツに頼るから大丈夫!」
「そんな物まで買ったのー?」わたしは唖然とした。
「垂れ尻にも効果あるんだってー」
「でしょうね~」
やれやれ。通販の電話番号を必死で書き留めるママの姿が目に浮かんだ。
そのうち、オバさんパンツを履く日が来るのだ。ぞわわ~
モグモグ…「パパの事、聞かないのね」
切り分けられたバウムクーヘンがこっちを見てる。食べてよ~食べようよ~
わたしはフォークで自分の頬っぺたをツンツンして幻覚を払いのける。
「聞いてもしょうがないわ。わたしの事には興味がないんだから」
「決めつけるもんじゃないわ。パパだって…モグモグ…」
「やめて」
「モグ…。食べるのを?」
「違うわよ!」
「カオリ」
「その話しはしたくないの」
「パパはあー見えても心配してるのよ」
「してないわ。パパはわたしを認めてないの。嫌いなのよ。だからわたしもキ・ラ・イ」
「そんな事言うもんじゃないわ。もうちょっと仲良く出来ない?」
「ムリ~。出来な~い」
「あなた達そっくりね。お互い意地張って」
「フン」
「ね、そろそろカオリも良い人見つけて…」
「今度はなーに!?結婚?よしてよ。バカバカしい!わたしは結婚なんて一生しないって言ったでしょ!」
どーしようか迷ったけどわたしはついにバウムクーヘンにフォークを突き立てた。
このヤロめ!太ったらママのせいだぞ。
「今の仕事だっていつまで続けるつもりなの?」
「ママに関係ないわ!」
「忙しいんでしょ。だから恋人ともうまくいかないのよ。良い年なんだからもう少し生活にゆとりを持たなくちゃ」
カチ~~ン☆
「ママ。こんな豪勢な生活、普通の人には出来ないのよ。皆んな朝から晩まで一生懸命働かなくちゃなの。わかる?わたしはママやパパの世話になるつもりもないし。借りは作りたくないのよ。それに仕事だって楽しんでるわ!」
「借りだなんて…そうよ。ママは何にもしてないわ。全てパパのお陰なの」
「それよ!それこそが問題だわ!苦労知らずだから無責任な事が言えるのよ」
「ママは働くのが苦手なの…」
ママは急にシュンとした。言い過ぎたか。
「何よそれ。…そうねママ。いーのよ。ママはそのままで。だからわたしの事もほっといて」
ママは昔、銀座の女だった。華とまではいかない。
ママの母親、つまりわたしの祖母は神楽坂あたりの芸妓だったらしい。
ママもわたしと同じ婚外子なんだ。そこで祖母はママにも芸妓の道を歩ませようとしたのね。
でもママはほんの三日で挫折した。
本人は芸事を習う根性がなくてホステスになったなんて言ってるけど、ガサツで自由奔放なママに芸妓なんて出来っこない。
そのホステス業も長くは続かなかった。ホステスになってホヤホヤの頃、羽振りの良い常連客に見染められ愛人契約を結ぶ。それがパパ。
ママは華になる前の蕾でパパに摘み取られたってわけ。見栄えだけは良かったからね。
ママはそのレールに乗っかった。大した苦労もせず玉の輿に乗ったのだ。それも運だと思う。
相手は新進気鋭の政治家。ただの運じゃない。強運だ。ママとわたしは何の不自由もなく暮らして来れたのだから結果オーライ。バックオーライだ。
ただ、ママにはわかってない。わたしという人間が。
いや、わかっていても認めたくないのだ。分からず屋め。
「ママ!」
「何?」
「もう泣くのはやめて。これから旅に行こうってのに縁起悪いわ」
「そ、そうね。ごめんなさい」
ママはパパの正妻にならなかった事を今頃になって悔やんでいる。わたしに負い目を感じているのだ。
「ねえ、ママ」
「何?」
「もう少し自由でいさせて。結婚は時期が来たらするわ」
「本当に?ああカオリ!ギュッとさせて!」
「うんうん。わかったから。ね、バウムクーヘンまだある?」
「あるわよ!」
ママはティッシュで鼻水を拭いて、ヨッコイショーイチとキッチンに立った。
危機は回避された。危うく大ゲンカになる所だった。ママは昔の様に強くはない。わたしが引かないと。それがせめてもの親孝行。
わたしはペッパー君みたいな愛らしいフォルムのロボットからもう一杯泡立ちコーヒーを抽出する。
「ねえ、カオリ!アフリカに行ったらお土産に象牙を買って来て頂戴!」
「ヤダ、ママ!そんな事したら逮捕されちゃうわ!象は獲っちゃダメなのよ!」
「あら、そうなの?残念だわー」
モロッコに象なんかいないわ。たぶんね…
ママとわたしはバウムクーヘンの第二ラウンドに突入した。
彼氏と別れた事は帰ってから話そうと決めた。
異国であのバカ男と過ごした時間をリセットするのだ。
「まあ、傷心旅行じゃない!」そんな風に言われそうで。
「またなの?これで何人め?」って。ママの表現は時代錯誤でイヤ。
そりゃあママはパパと長続きしてる。その秘訣が知りたいくらい。
愛にはいろんな形がある。どんな形であれ、仲良き事は美しき哉だ。
愛とは、誰が何と言おうとその人のそばに居たいと思う事。
愛とは、相手に見返りを求めない事。
愛とは、相手の幸せを願う気持ち。
そんな事はわかってるけど、何だか自分ばかり損をしてる気になっちゃうのは修行が足りないから?
それって、始めから愛じゃないんだね、きっと。
もっと自分が出せれば良いんだけど、言いたい事や伝えたい事がいつの間にか後回しになって。結局、自信がないんだわ。
「コーヒーを煎れたわ。バリスタを買ったのよ」
「へえ」
淹れたての香りは何ものにも代え難い。たとえ本物のバールマンでなくても。
「まあまあでしょ」
「うん。美味しい」
「これも食べて。パパのお土産」
「うわー、うまそ!」
好物のバウムクーヘン。舌の奥からジュワッと唾が溢れてくる。でもこれは余りにもキケン過ぎる。
「クラブハリエのよ。カオリ目がないでしょ」
「ダイエットしてるの。どっしよかなー」
「少しくらい平気よ」
「そーれが甘いのよ。リバウンドの恐ろしさ、ママもよく知ってるでしょ」
「そうね。じゃママは頂くわ。ん~メチャメチャ美味しいわ!」
「ポッコリお腹は大丈夫なの?ヤバくない?」
「いざって時は骨盤矯正ショーツに頼るから大丈夫!」
「そんな物まで買ったのー?」わたしは唖然とした。
「垂れ尻にも効果あるんだってー」
「でしょうね~」
やれやれ。通販の電話番号を必死で書き留めるママの姿が目に浮かんだ。
そのうち、オバさんパンツを履く日が来るのだ。ぞわわ~
モグモグ…「パパの事、聞かないのね」
切り分けられたバウムクーヘンがこっちを見てる。食べてよ~食べようよ~
わたしはフォークで自分の頬っぺたをツンツンして幻覚を払いのける。
「聞いてもしょうがないわ。わたしの事には興味がないんだから」
「決めつけるもんじゃないわ。パパだって…モグモグ…」
「やめて」
「モグ…。食べるのを?」
「違うわよ!」
「カオリ」
「その話しはしたくないの」
「パパはあー見えても心配してるのよ」
「してないわ。パパはわたしを認めてないの。嫌いなのよ。だからわたしもキ・ラ・イ」
「そんな事言うもんじゃないわ。もうちょっと仲良く出来ない?」
「ムリ~。出来な~い」
「あなた達そっくりね。お互い意地張って」
「フン」
「ね、そろそろカオリも良い人見つけて…」
「今度はなーに!?結婚?よしてよ。バカバカしい!わたしは結婚なんて一生しないって言ったでしょ!」
どーしようか迷ったけどわたしはついにバウムクーヘンにフォークを突き立てた。
このヤロめ!太ったらママのせいだぞ。
「今の仕事だっていつまで続けるつもりなの?」
「ママに関係ないわ!」
「忙しいんでしょ。だから恋人ともうまくいかないのよ。良い年なんだからもう少し生活にゆとりを持たなくちゃ」
カチ~~ン☆
「ママ。こんな豪勢な生活、普通の人には出来ないのよ。皆んな朝から晩まで一生懸命働かなくちゃなの。わかる?わたしはママやパパの世話になるつもりもないし。借りは作りたくないのよ。それに仕事だって楽しんでるわ!」
「借りだなんて…そうよ。ママは何にもしてないわ。全てパパのお陰なの」
「それよ!それこそが問題だわ!苦労知らずだから無責任な事が言えるのよ」
「ママは働くのが苦手なの…」
ママは急にシュンとした。言い過ぎたか。
「何よそれ。…そうねママ。いーのよ。ママはそのままで。だからわたしの事もほっといて」
ママは昔、銀座の女だった。華とまではいかない。
ママの母親、つまりわたしの祖母は神楽坂あたりの芸妓だったらしい。
ママもわたしと同じ婚外子なんだ。そこで祖母はママにも芸妓の道を歩ませようとしたのね。
でもママはほんの三日で挫折した。
本人は芸事を習う根性がなくてホステスになったなんて言ってるけど、ガサツで自由奔放なママに芸妓なんて出来っこない。
そのホステス業も長くは続かなかった。ホステスになってホヤホヤの頃、羽振りの良い常連客に見染められ愛人契約を結ぶ。それがパパ。
ママは華になる前の蕾でパパに摘み取られたってわけ。見栄えだけは良かったからね。
ママはそのレールに乗っかった。大した苦労もせず玉の輿に乗ったのだ。それも運だと思う。
相手は新進気鋭の政治家。ただの運じゃない。強運だ。ママとわたしは何の不自由もなく暮らして来れたのだから結果オーライ。バックオーライだ。
ただ、ママにはわかってない。わたしという人間が。
いや、わかっていても認めたくないのだ。分からず屋め。
「ママ!」
「何?」
「もう泣くのはやめて。これから旅に行こうってのに縁起悪いわ」
「そ、そうね。ごめんなさい」
ママはパパの正妻にならなかった事を今頃になって悔やんでいる。わたしに負い目を感じているのだ。
「ねえ、ママ」
「何?」
「もう少し自由でいさせて。結婚は時期が来たらするわ」
「本当に?ああカオリ!ギュッとさせて!」
「うんうん。わかったから。ね、バウムクーヘンまだある?」
「あるわよ!」
ママはティッシュで鼻水を拭いて、ヨッコイショーイチとキッチンに立った。
危機は回避された。危うく大ゲンカになる所だった。ママは昔の様に強くはない。わたしが引かないと。それがせめてもの親孝行。
わたしはペッパー君みたいな愛らしいフォルムのロボットからもう一杯泡立ちコーヒーを抽出する。
「ねえ、カオリ!アフリカに行ったらお土産に象牙を買って来て頂戴!」
「ヤダ、ママ!そんな事したら逮捕されちゃうわ!象は獲っちゃダメなのよ!」
「あら、そうなの?残念だわー」
モロッコに象なんかいないわ。たぶんね…
ママとわたしはバウムクーヘンの第二ラウンドに突入した。
彼氏と別れた事は帰ってから話そうと決めた。
異国であのバカ男と過ごした時間をリセットするのだ。
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