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9.マドモアゼルは衝動買いがお好き
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ベルギー人はみんなポアロみたいに小太りでヘンチクリンな髭を蓄えてるんだと思ってた。おまけに大のチョコレート好き。そこは許せるけど。
モロッコの制服警官と一緒にいたのはわたしてっきりお役人かと。でも違った。
「Merci infiniment!Je ne sais pas comment vous remercier!」
「は?」だから速すぎるって。
わたしはブルーアイズに助けを求める。わたしの使えないボディーガード。でもやっとわたしとのアイコンタクトを習得したようだ。
「こちらはリュック・ヴァン・ダイクさん」
「初めまして。本当にありがとう!」
ハグしてきそうな勢いだったのでわたしは一歩引いた。
「いえ、どういたしまして」
「ベルギーで宝石商をなさってる」
近くで見ると道理で仕立ての良いスーツ。ツヤ感があり見栄えする大量生産品にはない落ち着きと気品。
「ほおー」なんか自然とヨダレが出ちゃう。ズルル。軽くだったらハグしてもいいよって訂正したかった。遅かりし馬之助。
「日本の方だと聞いて驚いています。やはり空手かなんかでしょうか?」
「いえ、違いますよ」
「では、カンフーですか?」
「わたしはジャッキー・チェンではありません」
「では、柔道ですね?」
「いえいえ。空手も柔道も出来ません。片付け下手のわたしのこのバッグが活躍してくれたのです」
わたしはお気に入りのラゲージをパンパンと叩いた。
「良いセンスですね。デザインも大変良い」
「Merci beaucoup!もう無我夢中で。お恥ずかしいですわ。オホホ」
「バッグで撃退なさったのですか。それは凄い」
「えー、まあ。取手が千切れなくて良かったです。さすがセリーヌですわ。丈夫だこと。オホホ」
「私どもはセリーヌ様とも取引きがございます。もしベルギーにお寄りの際はどうぞ連絡を下さい。お安くしておきますよ。オホホ」
え?
わたしの手に渡されたのは超高級チョコレートの箱。
「わあー!ありがとう!メルシー!チェルシー!ちょっとずつ大切に食べますわ」
黒髪で長身で鼻が高く、角張った顔の白人紳士が去った後ブルーアイズは神妙に語った。
「油断していたんでしょう。アフリカ諸国の中では治安は良い方とは言え、カサでは油断は大敵です。引ったくり、スリ、置き引きに詐欺。ホームレスや薬物中毒者も少なくない。そうそう、あの鞄の中はダイヤやサファイアの原石だったそうです。時価にして5,000万ユーロ」
それを早く言えや!こんなチョコレートごときで手を打ったお人好しのわたし。交渉次第じゃ礼金が貰えたんじゃないの?
まあ美味しいから良いけど。モグモグ… ハンパねー旨いわ。
「でも5,000万って大したことないのね。あんなにジャラジャラ入ってたみたいだけど」モグモグ…
「日本円にすると、市場価格で61億円くらいですかね。今のレートで」
「はあああ!?」
「チョコレートひとついい?」彼はおどけて見せた。意外と無神経。
どうぞ。好きなだけお食べ。わたしは生気を失った。一気に10才歳を取った気分だ。ミイラになりそうよ。
ベルギー人は二人のSPを従え、和かに手を振りながらエレベーターの中に消えた。
「あの人達はクビね。わたしを雇ってくれないかしら」
「僕もクビ?」
「あなたにはまだやって貰いたい事があるの。ショッピングの通訳よ」
「A vos ordres, mademoiselle(仰せの通りに。マドモアゼル)」
わたし達はアンファ・プレイスで買い物を楽しんだ。楽しんだのはわたしだけでしょって?はい。ちょっと盛りました。
ブルーアイズは始終わたしの側にぴったりくっついていた。わたしが引ったくり犯と鉢合わせした事がよほどこたえたらしい。
下着売り場までついて来ようとしたので、わたしは犬を追い払う様に「しっ!しっ!」とやった。此処は女の聖域だ。ゆっくり選ばせて。
彼は顔を上気させ少し離れた所で大人しく待っていた。今やブルーアイズはわたしの忠実な僕と化した。つまり通訳兼荷物持ちとして。
わたしはエメラルドグリーンを基調にした幾何学模様のジェラバを皮切りに、鮮やかなブルーに金の刺繍を施したエレガントなモロッコロングドレス、カフタン。それにシンプルなゴールドの三角バブーシュを次々に購入した。
ブルーアイズから肌を露出し過ぎると注意を受けたせいもあった。
買ったばかりのジェラバに着替え、三角バブーシュに履き替えてブルーアイズの前で一回転。
「素晴らしい。見違えましたよ」
気を良くしたわたしはサラセン模様のオフホワイトのスカーフを手に取って広げてみた。
衝動買いこそレディーの特権だ。ストレス、ハッサン!
「エキゾチックなあなたにピッタリです。素材はパシュミナです」すかさず店員がヨイショする。
「モスク調も素敵ですが、こちらのオレンジのグラデーションもきっとお似合いですよ。サブラというサボテンの繊維から作られた生地です」
「まあ!シルクみたい!」
なめらかな手触りにウットリコン。
「シルクより厚手でしっかりしています。スカーフは大きめに作ってあるので肌寒い時にはこうして肩から掛けてもらっても結構です」
「両方とも頂くよ」
え?
「ありがとうございます」
そんな、わたし、どうして?
「僕からのプレゼントです」
マジかー。物凄くナチュラルにそういう事、言ってのけるのね。実は何処ぞの王子様だったりして。
でもね、レディーファーストの国の人っぽいから、ま、いっかって、わたし。なんか深刻な顔して辞退するのも抹香臭い気がして。
このまま遠慮なくブルーアイズのキラキラ笑顔に刺し貫かれちゃおうと決めた。
「ありがとう。嬉しいわ」
追伸、わたしのブラピ。わたしはあなたの佳きマドモアゼル。
モロッコの制服警官と一緒にいたのはわたしてっきりお役人かと。でも違った。
「Merci infiniment!Je ne sais pas comment vous remercier!」
「は?」だから速すぎるって。
わたしはブルーアイズに助けを求める。わたしの使えないボディーガード。でもやっとわたしとのアイコンタクトを習得したようだ。
「こちらはリュック・ヴァン・ダイクさん」
「初めまして。本当にありがとう!」
ハグしてきそうな勢いだったのでわたしは一歩引いた。
「いえ、どういたしまして」
「ベルギーで宝石商をなさってる」
近くで見ると道理で仕立ての良いスーツ。ツヤ感があり見栄えする大量生産品にはない落ち着きと気品。
「ほおー」なんか自然とヨダレが出ちゃう。ズルル。軽くだったらハグしてもいいよって訂正したかった。遅かりし馬之助。
「日本の方だと聞いて驚いています。やはり空手かなんかでしょうか?」
「いえ、違いますよ」
「では、カンフーですか?」
「わたしはジャッキー・チェンではありません」
「では、柔道ですね?」
「いえいえ。空手も柔道も出来ません。片付け下手のわたしのこのバッグが活躍してくれたのです」
わたしはお気に入りのラゲージをパンパンと叩いた。
「良いセンスですね。デザインも大変良い」
「Merci beaucoup!もう無我夢中で。お恥ずかしいですわ。オホホ」
「バッグで撃退なさったのですか。それは凄い」
「えー、まあ。取手が千切れなくて良かったです。さすがセリーヌですわ。丈夫だこと。オホホ」
「私どもはセリーヌ様とも取引きがございます。もしベルギーにお寄りの際はどうぞ連絡を下さい。お安くしておきますよ。オホホ」
え?
わたしの手に渡されたのは超高級チョコレートの箱。
「わあー!ありがとう!メルシー!チェルシー!ちょっとずつ大切に食べますわ」
黒髪で長身で鼻が高く、角張った顔の白人紳士が去った後ブルーアイズは神妙に語った。
「油断していたんでしょう。アフリカ諸国の中では治安は良い方とは言え、カサでは油断は大敵です。引ったくり、スリ、置き引きに詐欺。ホームレスや薬物中毒者も少なくない。そうそう、あの鞄の中はダイヤやサファイアの原石だったそうです。時価にして5,000万ユーロ」
それを早く言えや!こんなチョコレートごときで手を打ったお人好しのわたし。交渉次第じゃ礼金が貰えたんじゃないの?
まあ美味しいから良いけど。モグモグ… ハンパねー旨いわ。
「でも5,000万って大したことないのね。あんなにジャラジャラ入ってたみたいだけど」モグモグ…
「日本円にすると、市場価格で61億円くらいですかね。今のレートで」
「はあああ!?」
「チョコレートひとついい?」彼はおどけて見せた。意外と無神経。
どうぞ。好きなだけお食べ。わたしは生気を失った。一気に10才歳を取った気分だ。ミイラになりそうよ。
ベルギー人は二人のSPを従え、和かに手を振りながらエレベーターの中に消えた。
「あの人達はクビね。わたしを雇ってくれないかしら」
「僕もクビ?」
「あなたにはまだやって貰いたい事があるの。ショッピングの通訳よ」
「A vos ordres, mademoiselle(仰せの通りに。マドモアゼル)」
わたし達はアンファ・プレイスで買い物を楽しんだ。楽しんだのはわたしだけでしょって?はい。ちょっと盛りました。
ブルーアイズは始終わたしの側にぴったりくっついていた。わたしが引ったくり犯と鉢合わせした事がよほどこたえたらしい。
下着売り場までついて来ようとしたので、わたしは犬を追い払う様に「しっ!しっ!」とやった。此処は女の聖域だ。ゆっくり選ばせて。
彼は顔を上気させ少し離れた所で大人しく待っていた。今やブルーアイズはわたしの忠実な僕と化した。つまり通訳兼荷物持ちとして。
わたしはエメラルドグリーンを基調にした幾何学模様のジェラバを皮切りに、鮮やかなブルーに金の刺繍を施したエレガントなモロッコロングドレス、カフタン。それにシンプルなゴールドの三角バブーシュを次々に購入した。
ブルーアイズから肌を露出し過ぎると注意を受けたせいもあった。
買ったばかりのジェラバに着替え、三角バブーシュに履き替えてブルーアイズの前で一回転。
「素晴らしい。見違えましたよ」
気を良くしたわたしはサラセン模様のオフホワイトのスカーフを手に取って広げてみた。
衝動買いこそレディーの特権だ。ストレス、ハッサン!
「エキゾチックなあなたにピッタリです。素材はパシュミナです」すかさず店員がヨイショする。
「モスク調も素敵ですが、こちらのオレンジのグラデーションもきっとお似合いですよ。サブラというサボテンの繊維から作られた生地です」
「まあ!シルクみたい!」
なめらかな手触りにウットリコン。
「シルクより厚手でしっかりしています。スカーフは大きめに作ってあるので肌寒い時にはこうして肩から掛けてもらっても結構です」
「両方とも頂くよ」
え?
「ありがとうございます」
そんな、わたし、どうして?
「僕からのプレゼントです」
マジかー。物凄くナチュラルにそういう事、言ってのけるのね。実は何処ぞの王子様だったりして。
でもね、レディーファーストの国の人っぽいから、ま、いっかって、わたし。なんか深刻な顔して辞退するのも抹香臭い気がして。
このまま遠慮なくブルーアイズのキラキラ笑顔に刺し貫かれちゃおうと決めた。
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