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8、寝る時はパンティーを履いて

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リビングのサイドボード。写真立ての中。
いつもと変わらぬ微笑の人に僕は挨拶した。
「おはよう。父さん」
素っ裸の天馬さんがスッといつの間にか真横に立ってる。
「良い写真だ」
「ナ・ニ・ヤッ・テ・ル・ノ・?」
「シャ・ワー・ア・ビ・テ・キ・タ」
僕はガックシきた。
「とりあえずサンドウィッチ食べましょう」

僕らは食卓に付いた。
「シーザースドレッシングある?」
「ありますよ。冷蔵庫から勝手に取って下さい」
「おばさん、相変わらず料理上手いな」
「そうですか」
「晩メシは何かな?」
「お寿司を取りますよ」
「やったー!」
「子どもか!それよりナンカ着て下さいよ!さっきから気になってしょうがない!」
「気にするな」
「気になりますよ!」
「お前も脱げ」
「脱ぎません!」

今日は二人の父の命日だ。
父が亡くなった後、天馬親子はお母さんの実家がある沖縄に引っ越した。
天馬さんとは葬儀で会ったのが最後。
あっという間に15年の月日が流れた。15年の空白を取り戻すのは簡単じゃない。
僕は久しぶりに会った天馬さんを兄さんと呼べなかった。そのうち自然に呼べるだろーくらいにしか思ってない。
丁寧語になるのは単に年上だからじゃなくて、自分にないモノを持ってて尊敬出来るからだ。そういう相手にタメ口は使えない。
それに彼は何て言うか、フツーの人では感じないビーコンみたいなのが全身から出てて、並の才能には近寄り難いナニかがあるのだ。
おっぴろげーで独特なエロスを醸し出す時もあって、僕はこれが一番の苦手だった。
距離を保つのは安全対策なのだ。

「あー食った食った!」
「ご馳走様でした」
食器を片付けると天馬さんはエプロンをして皿を洗い出した。
「フンフフ~ン♬」
「裸エプロンはやめて下さい!」
「いちいちうるさいなー。親父の命日だぞ。不謹慎だと思わないのか!穏やかな時を過ごさせてくれ」
「どっちがだ!意味がわからない!」
紐がほどけてエプロンがハラリと落ちた。

宝塚歌劇団のファンだった母は生まれてくる子をタカラジェンヌにするつもりだった。
母が鈴菜という名を考えついた時、父は北陸の山奥で約20万個のCPUを連動させている真っ最中だった。
神の悪戯か、はたまた振動子故障によるノイズか、妊娠21周目のエコー検査でも男児外陰部は確認出来なかった。
産科医も両親も生まれてくる赤ちゃんは女の子だとすっかり思い込んだ。

「オギャアアァァー!」
かくして僕が誕生した。
「玉のような赤ちゃんですよ」
ベビーにはちっちゃくて可愛いオチンチンが付いていた。
同じ玉でもとんだ玉違いだ。

命名【鈴菜】。
確かに可愛い赤ちゃんだった。まるで女の子のように。
倹約家でもあった母は女児用に買い揃えていたベビーウェアや育児グッズをそのまま使う事にした。
コンピューターの事しか頭にない研究者の父には男児用と女児用の区別などつく筈もなかった。
母にとっては願ったり叶ったり。次から次へと女の子の服を着せて楽しんだ。
成長と共に一人息子は益々女の子化していき、とうとう近所でも自慢の一人娘になった。

__橘花鈴菜レイナ3才のある日。
「レイナちゃん。ママの言う事をよく聞いて」
「うん!」
「これからは男の子みたいなカッコをして遊びましょう。みたいなカッコで良いのよ。ジェンダーレスってゆーファッションなの」
「はーい!」
「ママと二人きりの時は今までどーりで良いわ。寝る時はパンティーを履いても良いのよ。ママがカワイイの沢山買ってあげる!でも昼間は履いちゃダメ。約束できる?」
「レイナできるー!」
「そう!レイナちゃんはお利口ね。ママ本当に大好きよ。レイナ愛してるわ」
「レイナもママ大好きー!ママ愛してゆー!」
こうして母の愛を一身に受け、僕はすくすく育った。
寝る時はパンティーを履いて、そうでない時はノーパンで。
体育の着替えや健康診断の日はどうしたかって?
我慢して男子用のビキニパンツで登校した。
やがて子どもがサンタを信じなくなる様に、僕も母の言葉を鵜呑みにはしなくなった。
かと言って逆らう事もしなかった。反抗しようなんて一度も考えた事はない。
父親を早く失くした僕にとって、母を悲しませるのが一番辛い事なのだ。
苺のパンティーを履く事くらいどうって事ない。
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