愛のテクニシャン カレン

MIKAN🍊

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30.突然スコールのように

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吹き出す汗もそのままに二人は仲睦まじくバーベキューを楽しんだ。
最高級ランクの肉はどれも頰っぺたが落ちるくらい美味しかった。
フランス人のシェフアモン特製のアイスクリームも幾らでも食べられそうだった。

ココナッツの香りに包まれ、至福の中で午睡シエスタをむさぼり、青い空に浮かぶマッシュルームみたいな真っ白い雲を眺めていた。

カレンの水上バイクの腕前は格段に上達した。
「上手い上手い!」
「教授が良いからですよ!」


パーフェクトなファンライドを披露したカレンは白浜に寝そべって、パラソルの下で柔らかな男の手に背中をくすぐられていた。

「あなたは素晴らしい。何をやらせても見事にこなす」
まるで楽園にでもいるようだった。
カレンは再びウトウト微睡まどろみ始めていた。
男の手がトップスのストラップをうなじから静かに緩めていった。
うつ伏せになったカレンの尻の上で男の指が軽やかに踊った。
「眠らせて、お願い…」

脚の間に忍び込む洋介の劣情を夢の遠くに感じながら、カレンは砂の白さを見つめていた。
星の形をした小さな白い魔法。
その魔法が夏の狂ったような強い陽射しに解けてゆく。
男の指がショーツのストリングスに掛かった。
洋介の淫らな吐息が耳元で潮騒と混ざり合う。
「やめて下さい…」
目を閉じてカレンは呟いた。
苦し紛れのその要請はしかし、崖っぷちからライドした男の野生には届かなかった。
いきなり抱きすくめられ、砂にまみれた唇を押しつけられた。
「イヤ… 苦しい…」

男は止まらなかった。
タコの触手の様な舌がカレンのしっかり閉じた口に割り込み、歯茎を押し返すように暴れた。
威丈高いたけだかなオスの衝動が洋介を突き動かしていた。
トップスをむしり取られた。フリルのピンクのそれが砂の上で無残に踏みつけられた。
豊満な胸が惨めに揺れる。

「先生!やめて!やめて下さい!」
男はカレンにむしゃぶりついた。
「カレンさん!じっとするんだ」
「イヤです!こんなの!」
導火線に火が付いた男はひるまなかった。
カレンの足首をつかみ砂の上に転がした。
「キャー!やめて!」
首を押さえつけショーツに手を掛けた。カレンの美尻が陽の下にさらけ出された。
その毒蛇の様な手がカレンの秘部をまさぐり、事もあろうに乱雑に侵入してきた。
「…! 痛いっ!」

カレンの頭の奥で火花が散った。
カレンは__
払い腰で焼けた砂浜に洋介を叩きつけた。
仰向けに倒された男は顔をしかめて腰をさすった。白いビキニパンツの前が邪悪にテントを張っていた。

立ち上がろうとする男のみぞおちに正拳突きを入れ、クルリと一回転しながら脇腹に回し蹴りを入れた。
これには洋介も根を上げた。
「ま、待ってくれ。カレンさん…参ったよ。降参だ」

カレンは息を整え次の攻撃をスタンバイした。
「いや、本当にすまなかった。謝る」
男の瞳の中に冷静な光りが戻りつつあった。けれどまだ油断はならない。

カレンは素早く水着を付け直した。
ジリジリと時が二人を焼き尽くす。
カレンが口を開いた。
「ファウストの好奇心は偉大でした。その反面とても無邪気でした」
「はぁ?」
洋介は蹴られた肋骨が折れている気がしていた。
「だから、私は無邪気さに罪はないけれど、幼い子どものような振る舞いは嫌いです。特に今日みたいな素敵な日にそんな男に抱かれようとは思わないんです。わかって頂けますね?」
自分でも何を言っているかわからなかった。心の呂律ろれつが回っていない感じだった。

「ああ。ああ、わかったよ。カレンさん。本当にすまなかった。どうかしてたんだ。申し訳ない」
「私、帰ります。楽しかったです、一部を除いて。ありがとうございました」
「送っていくよ」
「いえ、結構です」
「今日の事は忘れて欲しい」
それには答えずカレンは小屋に入り、マリメッコのトートバッグを引っつかむと朝来た方向へ歩き出した。
背後で遠雷が空気を震わせた。

地の底から沸き起こるような雷の音がカレンには悪魔メフィストの笑い声に聞こえた。
賭けに負けた哀れなファウスト。


振り向きもせずにひたすら歩き続けた。
ほどなくバケツをひっくり返した様なスコールが焼けた地表に降り注ぎ始めた。
たちまちカレンはずぶ濡れになった。
どうせ構うものか。水着を着ているから丁度いい…
大粒の雨が突き刺さる。
キツく噛んだ唇から血の味がした。
悔しさではない。後悔でもない。
どちらかと言えば、おばけ屋敷から一人ぼっちで出てきた時のような気分。
歩きながら身体が震えていた。
寒くなんかないのにお腹の真ん中からゾッとする様な悪寒がせり上がってくる。

カレンは草むらに吐いた。
背中に激しい雨が打ちつける。
それは優しい介抱だったか。
スコール __彼らなりの。

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