愛のテクニシャン カレン

4.バイオ・エロチカ

「クリニックというより、保養所に近いんですよ。施設の中にはスパやプール、それにジムとテニスコートもあります。周囲はジョギングコースになっています」

「とても素晴らしい所ですわ」


うなじに生えた後れ毛が風にそよいでいる。

カレンが突然振り向いたので洋介は不意をつかれた。

道なりに高く空に向かって突き刺す様に生えているフェニックスに慌てて目をそらす。

「潮風ですからね。長く当たってるとベタつきますよ。着いたら先に汗を流したらいかがですか。昼食までにはまだ時間がある」

カレンは洋介の視線に気がつくと、胸とベルトの隙間に手を入れて乱れた胸元を素早く整えた。

「至れり尽くせりなんですね。ありがとうございます」


「カレンさんには、カウンセラー兼アドバイザー的なお仕事をお任せしたいと思ってます。もちろんご自分の研究も自由になさって下さいね」

「本当に宜しいのでしょうか。私のような若輩者で」

「大丈夫ですよ。あなたのような方を待っていたんです。今はどんな研究を？」

「はい。簡単に言うと性行為における脳内物質の化学変化を調べています。万能ホルモンとはちょっと違います」
「ほお」
「バイオ・エロチカという新分野なんです」

「面白そうですね。クリニックのモットーは健全な肉体は健全なセックスに宿る、なんですよ。心から解放されたセックスこそ健康の源だと僕は考えています」

「私の研究がお役に立てば良いのですけど」
「もちろん立ちますとも」
洋介は嬉しそうにハンドルを切った。

「僕にも出来る事があれば遠慮なく言って下さい。何なりと協力しますよ」
「ええ。その時は是非お願いします」

カレンは洋介の股間にそっと目を落とした。

ほとんどさりげなく。

うなじを撫でてゆく渚の微風にさえ気づかれないように。