26 / 46
26.ヒア・ウィー・ゴー
しおりを挟む
かつて無い程の揺らぎが桜西市を中心に西東京地区全域に生じていた。
もっとも人知の範疇を越えたものだから最初にそれに気付いたのは犬や猫や蝙蝠達だった。
帝都電力西関東変電所はてんやわんやの大騒ぎだった。
日没と共に広範囲に渡り停電が発生したのだ。と同時に帝都電力本店にある中央給電指令室から事態の早期収拾を要請する矢の催促が始まった。
電力供給は本司令所の指令で運転しており、その運転出力指令値や運転モード信号の送信、出力値、発電電力量の記録などの送受信を一手に担っていた。
社内の最高部門である系統運用。すなわち本店中央(給電)司令室は技術系社員のエリート集団と言って良い。
発電所や変電所に勤務する管理職もそれ相応に技術系のエキスパートではあるが、元は半官半民企業。お役所体質企業の御多分に洩れず上意下達が徹底されていた。軍隊や警察、消防と同じく厳しい上下関係に変わりはなかった。
「原因の特定はまだか」
「目下全力を尽くしております」
「舐めた事ほざいてんじゃねえぞ。何時間経ってると思ってんだ」
「ですから全力を」
「お前が全力で取り組んでるのは電話番かよ。こっちはもうマスコミが嗅ぎ付けてるんだぞ。配電を総出で当たらせろ。非番の連中も叩き起こして招集しろ。何のための保守作業員だ、給料泥棒らめが」
「は、はい」
「夜のニュース番組までには報告を寄越せ。原因不明なんて全国ネットで発表出来るか」
「おっしゃる通りです。最善を尽くし…」
相手が受話器を叩き付ける音が周りに立っていた所員達にも聞こえた。
「…ます」
「偉そうに」
「どうなってる」
「いざとなったら隠ぺいする癖に」
「どうもこうもないですよ」
「おいおい」
「守秘義務だ」
「停電範囲が移動してるんです」
「隠ぺいだ」
「落雷か」
「何で移動するんだ」
「竜巻かな、F4くらいの」
「アライグマが電線をかじったという事例があります」
「おいおい」
「復電したかと思ったらまた停電。それも分単位です」
「システムエラーじゃないのか。本当に停電してるのか」
「家にメールしたらやはり停電でした」
「いつメールしたんだ」
「送電が逆流した形跡があります」
「馬鹿言え。電流というのはだな」
「いや、さっき」
「今さらかよ」
「職場放棄じゃねえか」
「冗談でしょう」
「テロ攻撃ではないでしょうか」
「宇宙人」
「おいおい」
「あ、息子からメールです。信号機が点いてないって。ちょーヤバイ。どうにかしろ…」
「まだメールしてんのか」
「どうにかしろとは何だ」
「親に対して」
「そこかよ」
鵜飼園生は赤色灯を回し派手にサイレンを鳴らしながら爆走するコンボイ軍団を追尾中だった。
ホルスターから拳銃を抜き両手離し運転で白バイを走行させていた。
拳銃はマグナム44だ。規則違反も甚だしい。
装てんしている弾丸は被覆鋼弾、完全被甲弾、通称フルメタルジャケット。貫通性が高くアメリカ海兵隊等が使用している弾丸だ。
鵜飼は前方を蛇行しながら暴走する海コントレーラーに照準を合わせた。
「一発で仕留めてやるぜ」
鵜飼は引き金を引いた。
海コントレーラーが満載していた積荷は中国から輸入された大量の花火だった。
弾は鉄板を突き抜け花火に引火した。
轟音を響かせコンテナは爆発横転した。
積荷の花火が一斉に火を吹く。四方八方へ花火が炸裂した。
鵜飼は減速するどころかアクセル全開で燃え盛る炎をくぐり抜けた。
「ざまあみろってんだ」
もはやハリウッドのスタントマンも顔負けである。
鵜飼の頭の中では、少年の頃に聴いたロックンロールがガンガン鳴っていた。
もっとも人知の範疇を越えたものだから最初にそれに気付いたのは犬や猫や蝙蝠達だった。
帝都電力西関東変電所はてんやわんやの大騒ぎだった。
日没と共に広範囲に渡り停電が発生したのだ。と同時に帝都電力本店にある中央給電指令室から事態の早期収拾を要請する矢の催促が始まった。
電力供給は本司令所の指令で運転しており、その運転出力指令値や運転モード信号の送信、出力値、発電電力量の記録などの送受信を一手に担っていた。
社内の最高部門である系統運用。すなわち本店中央(給電)司令室は技術系社員のエリート集団と言って良い。
発電所や変電所に勤務する管理職もそれ相応に技術系のエキスパートではあるが、元は半官半民企業。お役所体質企業の御多分に洩れず上意下達が徹底されていた。軍隊や警察、消防と同じく厳しい上下関係に変わりはなかった。
「原因の特定はまだか」
「目下全力を尽くしております」
「舐めた事ほざいてんじゃねえぞ。何時間経ってると思ってんだ」
「ですから全力を」
「お前が全力で取り組んでるのは電話番かよ。こっちはもうマスコミが嗅ぎ付けてるんだぞ。配電を総出で当たらせろ。非番の連中も叩き起こして招集しろ。何のための保守作業員だ、給料泥棒らめが」
「は、はい」
「夜のニュース番組までには報告を寄越せ。原因不明なんて全国ネットで発表出来るか」
「おっしゃる通りです。最善を尽くし…」
相手が受話器を叩き付ける音が周りに立っていた所員達にも聞こえた。
「…ます」
「偉そうに」
「どうなってる」
「いざとなったら隠ぺいする癖に」
「どうもこうもないですよ」
「おいおい」
「守秘義務だ」
「停電範囲が移動してるんです」
「隠ぺいだ」
「落雷か」
「何で移動するんだ」
「竜巻かな、F4くらいの」
「アライグマが電線をかじったという事例があります」
「おいおい」
「復電したかと思ったらまた停電。それも分単位です」
「システムエラーじゃないのか。本当に停電してるのか」
「家にメールしたらやはり停電でした」
「いつメールしたんだ」
「送電が逆流した形跡があります」
「馬鹿言え。電流というのはだな」
「いや、さっき」
「今さらかよ」
「職場放棄じゃねえか」
「冗談でしょう」
「テロ攻撃ではないでしょうか」
「宇宙人」
「おいおい」
「あ、息子からメールです。信号機が点いてないって。ちょーヤバイ。どうにかしろ…」
「まだメールしてんのか」
「どうにかしろとは何だ」
「親に対して」
「そこかよ」
鵜飼園生は赤色灯を回し派手にサイレンを鳴らしながら爆走するコンボイ軍団を追尾中だった。
ホルスターから拳銃を抜き両手離し運転で白バイを走行させていた。
拳銃はマグナム44だ。規則違反も甚だしい。
装てんしている弾丸は被覆鋼弾、完全被甲弾、通称フルメタルジャケット。貫通性が高くアメリカ海兵隊等が使用している弾丸だ。
鵜飼は前方を蛇行しながら暴走する海コントレーラーに照準を合わせた。
「一発で仕留めてやるぜ」
鵜飼は引き金を引いた。
海コントレーラーが満載していた積荷は中国から輸入された大量の花火だった。
弾は鉄板を突き抜け花火に引火した。
轟音を響かせコンテナは爆発横転した。
積荷の花火が一斉に火を吹く。四方八方へ花火が炸裂した。
鵜飼は減速するどころかアクセル全開で燃え盛る炎をくぐり抜けた。
「ざまあみろってんだ」
もはやハリウッドのスタントマンも顔負けである。
鵜飼の頭の中では、少年の頃に聴いたロックンロールがガンガン鳴っていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。


【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる