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8.ショータイム!
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日曜日の午後遅く。
『らうどねす』桜西店。
2時間待ちのピーク帯を過ぎ、さらに夕刻の訪れと共にちらほら空き室が目立ち始めていた頃、木寺優子はその駐車場が見下ろせる小高い公園で夕焼けに染まる空を見上げていた。
「やっと一息つけそうだな」
山岸吾郎は最後の汚れた食器の山を洗浄機に突っ込んだ。
「お前また今月もボーナストップだろ」
「はあ、疲れたあ」
翔太は厨房の非常扉を開けベランダに出た。
真っ赤な太陽が西の彼方に静かに沈んでゆくところだった。
「もうすぐ夏ですねえ」
「ああまったくだ」大学八年生の吾郎は内ポケットからタバコを取り出し火を点けた。
「クソ暑い夏がまた来やがる」
ペパーミントルームでは八人の主婦がぐでんぐでんになる一歩寸前だった。
「ああ酔っちゃったわあ~」
「まーだよお」
「ちょっとォ、どこいくのよォ」
「おしっこよォ~」
「ねえ誰か歌ってよ~」
「待って待って、吐きそう…」
「きゃあ~ だめよォ」
「ラーメン食べたくなぁい?」
「いらなーい」
ロッカールームに行き翔太はケータイの履歴を確認した。
やはり優子からのメッセージはない。
自動販売機でドリンクを買って非常階段を登った。屋上に出るととっぷり日が暮れていた。
良い風が吹いていた。
「塚田さん、絵美子さん。しっかりして」
「うん大丈夫」
真樹子は心配そうに絵美子を見つめた。
「飲ませ過ぎちゃったわね」と保子。
「あなた、家大丈夫なの?」
「大丈夫よ。どうして?」
「いえ、何となくよ」
「うちは崩壊寸前よ。今に始まった事じゃないわ」
「そんな事言わないでよ」
「仮面夫婦。ううん、仮面家族ね」
「子どもを悲しませちゃダメよ?」
「そうね。子どもを傷つけたら死んでも死に切れないわ。真樹子さんはどうしたいの」
「何をどうするって」
「前回は恋をしたいって言ってたじゃない。離婚してせっかく自由な身なんだし。あ、ごめん」
「いいのよ。今もしたいわ。激しい恋。そんな経験がないから。あなたを見てると憧れちゃう時があるなあ」
「ろくでもないわよ。恋なんて真夏の夜の夢よ」
「うまくいってないの?」
「うまくいくわけないでしょう。わかってる癖に」
「真樹子さん、一つ聞いて良い?」保子は意地悪そうに尋ねた。
「何よ」
「島津さんと何かあった?」
「ないわ」
「そう。あなたと島津さんが話すの後ろから見てて、レストランの駐車場でね。何となくそう思ったの。こりゃ何かあったなって」
「ないわ。まだ何も」
「おかしいなぁ。私の勘て当たるんだけどなあ」保子はとぼけた。
真樹子は膝で眠る絵美子の髪を撫でた。
「この人、保子にちょっぴり似てる」
「そうね。私もそう思った。自信があって怖いもの知らずで、希望に溢れてて。でも影がある。ライバル出現ってとこね」
「ライバル?」
「あなたと同じ目をして見てたわよ。島津さんの事」
「ダメダメ。その手には引っ掛からないわよ」
「ふーん。ねえ真樹子さん。女は恋をして何処に行くと思う?」
「何処って、さあ。地獄かしら。一般的ね」
「フフ。何それ、当てつけ?何処にも行かないわ。何にも変わらないの。あなたは何か変えたいみたいだけど恋をしても何も変わらないわ」
「そうかしら。保子は変わったわ」
「そう?どんな風に。落ちぶれた感じ?」
「違うわよ。以前はこうして集まっても黙ってただ飲んで歌ってただけ。今日は感情的になってた」
「そうかな。前は男の事で夢中だったからね。今はいたってクール」保子はVサインをしてみせた。
「私何処に行くにしたって、このまま枯れたくないナ」
「枯れないわよ。女は男と違って。女は花よ」
「そうありたいわ。あなたみたいに生き生きしていたい」
「十年経ったらわかるわよ」
「十年後の自分に会ってみたいわね」
「マジで?かなりショッキングよぉ~」
「あははは!」
「明日からまた主婦に戻らなくちゃ」
「そうね」
「こず恵の手、ほら。ガサガサなの。スタイル抜群なのに。朋美も舞も目の下クマ作っちゃって」
「皆んな仕事持ってるからね」
「ひとみはまた太っちゃった。千夏コーチは若いわね」
「一番先に寝ちゃったけどね。寝る子は育つよ」
「ハァ~ァ お金の事、子どもの事。ヤダヤダ」
「それに、彼氏の事も。忙しいわね」
「そっちは別腹よ。真樹子さん、歌う何か?」
保子はマイクを真樹子に向けた。
「私はいいよ。歌って保子。除湿系のやつ!」
「おーし」
「皆んなを叩き起こして。そろそろ帰らなきゃ」
「ショータイムだわ!」
「これからー?」
『らうどねす』桜西店。
2時間待ちのピーク帯を過ぎ、さらに夕刻の訪れと共にちらほら空き室が目立ち始めていた頃、木寺優子はその駐車場が見下ろせる小高い公園で夕焼けに染まる空を見上げていた。
「やっと一息つけそうだな」
山岸吾郎は最後の汚れた食器の山を洗浄機に突っ込んだ。
「お前また今月もボーナストップだろ」
「はあ、疲れたあ」
翔太は厨房の非常扉を開けベランダに出た。
真っ赤な太陽が西の彼方に静かに沈んでゆくところだった。
「もうすぐ夏ですねえ」
「ああまったくだ」大学八年生の吾郎は内ポケットからタバコを取り出し火を点けた。
「クソ暑い夏がまた来やがる」
ペパーミントルームでは八人の主婦がぐでんぐでんになる一歩寸前だった。
「ああ酔っちゃったわあ~」
「まーだよお」
「ちょっとォ、どこいくのよォ」
「おしっこよォ~」
「ねえ誰か歌ってよ~」
「待って待って、吐きそう…」
「きゃあ~ だめよォ」
「ラーメン食べたくなぁい?」
「いらなーい」
ロッカールームに行き翔太はケータイの履歴を確認した。
やはり優子からのメッセージはない。
自動販売機でドリンクを買って非常階段を登った。屋上に出るととっぷり日が暮れていた。
良い風が吹いていた。
「塚田さん、絵美子さん。しっかりして」
「うん大丈夫」
真樹子は心配そうに絵美子を見つめた。
「飲ませ過ぎちゃったわね」と保子。
「あなた、家大丈夫なの?」
「大丈夫よ。どうして?」
「いえ、何となくよ」
「うちは崩壊寸前よ。今に始まった事じゃないわ」
「そんな事言わないでよ」
「仮面夫婦。ううん、仮面家族ね」
「子どもを悲しませちゃダメよ?」
「そうね。子どもを傷つけたら死んでも死に切れないわ。真樹子さんはどうしたいの」
「何をどうするって」
「前回は恋をしたいって言ってたじゃない。離婚してせっかく自由な身なんだし。あ、ごめん」
「いいのよ。今もしたいわ。激しい恋。そんな経験がないから。あなたを見てると憧れちゃう時があるなあ」
「ろくでもないわよ。恋なんて真夏の夜の夢よ」
「うまくいってないの?」
「うまくいくわけないでしょう。わかってる癖に」
「真樹子さん、一つ聞いて良い?」保子は意地悪そうに尋ねた。
「何よ」
「島津さんと何かあった?」
「ないわ」
「そう。あなたと島津さんが話すの後ろから見てて、レストランの駐車場でね。何となくそう思ったの。こりゃ何かあったなって」
「ないわ。まだ何も」
「おかしいなぁ。私の勘て当たるんだけどなあ」保子はとぼけた。
真樹子は膝で眠る絵美子の髪を撫でた。
「この人、保子にちょっぴり似てる」
「そうね。私もそう思った。自信があって怖いもの知らずで、希望に溢れてて。でも影がある。ライバル出現ってとこね」
「ライバル?」
「あなたと同じ目をして見てたわよ。島津さんの事」
「ダメダメ。その手には引っ掛からないわよ」
「ふーん。ねえ真樹子さん。女は恋をして何処に行くと思う?」
「何処って、さあ。地獄かしら。一般的ね」
「フフ。何それ、当てつけ?何処にも行かないわ。何にも変わらないの。あなたは何か変えたいみたいだけど恋をしても何も変わらないわ」
「そうかしら。保子は変わったわ」
「そう?どんな風に。落ちぶれた感じ?」
「違うわよ。以前はこうして集まっても黙ってただ飲んで歌ってただけ。今日は感情的になってた」
「そうかな。前は男の事で夢中だったからね。今はいたってクール」保子はVサインをしてみせた。
「私何処に行くにしたって、このまま枯れたくないナ」
「枯れないわよ。女は男と違って。女は花よ」
「そうありたいわ。あなたみたいに生き生きしていたい」
「十年経ったらわかるわよ」
「十年後の自分に会ってみたいわね」
「マジで?かなりショッキングよぉ~」
「あははは!」
「明日からまた主婦に戻らなくちゃ」
「そうね」
「こず恵の手、ほら。ガサガサなの。スタイル抜群なのに。朋美も舞も目の下クマ作っちゃって」
「皆んな仕事持ってるからね」
「ひとみはまた太っちゃった。千夏コーチは若いわね」
「一番先に寝ちゃったけどね。寝る子は育つよ」
「ハァ~ァ お金の事、子どもの事。ヤダヤダ」
「それに、彼氏の事も。忙しいわね」
「そっちは別腹よ。真樹子さん、歌う何か?」
保子はマイクを真樹子に向けた。
「私はいいよ。歌って保子。除湿系のやつ!」
「おーし」
「皆んなを叩き起こして。そろそろ帰らなきゃ」
「ショータイムだわ!」
「これからー?」
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