公爵令嬢の望み

みあき

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前編

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 王太子の婚約者となり、幼い頃から厳しい王妃教育を受け、貴族方との社交も時間を作って行い、国民の生活を知るための視察も怠ってはならない。
 溜め息をつく暇もない程に忙しい日々は、公爵令嬢として生まれた故の義務であり、視察でお会いする国民方の笑顔があれば、楽しいとは言い難いこの日々も報われると、ずっと言い聞かせてきた。
 私自身の幸せを望んではいけないと、民の幸せのために生きなければいけないと、ずっと、ずっと、私は自分に言い聞かせてきたのに。
「お前のような悪女と結婚する等虫酸が走る!!お前との婚約は破棄し、俺は真実の愛を誓い合った彼女と婚約をする!!」
 何故、私と近しい立場であるはずの王太子が己の幸せを最優先にしようとしているの?
「殿下、私が悪女とはどういうことですか?」
「とぼけるな!!俺の恋人に嫉妬し、次期王太子妃という権力をかざして、彼女を虐げてきただろう!!」
「私はそのような言われを受けることはしておりません」
「殿下、私とっても怖かった」
「俺の可愛い子、大丈夫だ。君を脅かすものは俺が全て消してあげる」
 学園の卒業パーティーという大勢の方が居る中で、王太子は予てより懇意にしていると噂のあった男爵令嬢と抱き合った。
 パーティーに出席されている貴族令息令嬢方は、今起こっていることにただ驚き戸惑っている様子。
 私は、男爵令嬢に嫉妬をしたこと等一度だってない。嫉妬をする理由がどこにもないのだもの。
「何か、誤解が生じているものと思われます。何故このような誤解が生じてしまったのか、改めて話し合いの場を設けるべきです」
「黙れ!!言い逃れをするお前の見苦しい姿等見たくも聞きたくもない!!お前は未来の国母の平穏を脅かした。その罪は重い。今すぐ城の地下牢へ連れていく!!」
「っ!?お待ちください、殿下!私は何一つ罪を問われるようなことはいたしておりません」
「私の可愛い子はお前と違って努力家だ。つまり、どちらが信頼に足る人間であるかは、明白だ。お前の言葉等聞く必要もない」
「・・・どういう、意味ですか?」
「どうも何もそのままの意味だ」
「そんな・・・」
 あまりもの衝撃で脚の力が抜け、床にへたりこんでしまった。その上泣くだなんて絶対に駄目。泣いては駄目よ。ここで泣いてしまっては厳しい王妃教育が全て無意味だったことになってしまう。
 ・・・本当にそうかしら?もう既に私のこれまでの人生は無価値になっているのでは?
 王妃になることが運命だと受け入れ、心を犠牲にして、私の時間の大半を国の未来のために捧げてきたのに、その行いが何一つ認められないのよ。
「もう目障りだ。この女を早く連れていけ!」
 王太子の近衛騎士が私の元へと近づいてくる。もう抵抗をする気力もない。
 私の人生が全て無駄だとしても、せめて最後に一目だけ。
「公爵令嬢への無礼はそこまでです」
 私を庇う声に耳を、私を守るように現れた人影に目を疑った。
「子爵令息様・・・っ!」
「遅くなり大変申し訳ありません、お嬢様。正式には明日からですが、お嬢様の護衛騎士に任命されました。一足早く、今から貴女様を守らせていただきます」
 私に護衛騎士が新たにつくという話は初めて聞いた。どうしてそのようなことになっているのかしら。聞きたいことが山程ある。
 けれど、今は何より、子爵令息様がお側に来てくださったことが嬉しくて堪らなかった。
「騎士風情が王太子の命令に刃向かうつもりか?」
「私は国王陛下より拝命賜り、公爵令嬢を守りに馳せ参じました。殿下は陛下のご意向に背かれるのですか?」
「何故父上が・・・まぁいい、分かった。勝手にしろ」
 子爵令息様は王太子に恭しく礼をされた。近衛騎士達も下がっていく。
「お嬢様、休憩をいたしましょう。お部屋を用意してあります」
「ありがとうございます。・・・あの、お手を貸していただけますか?」
「もちろんです」
 子爵令息様が支えてくださり、私は立ち上がった。お手が直ぐに離れていってしまうことが寂しいけれど、わがままは言えません。
「では、参りましょう」
「はい」
 子爵令息様は私の護衛騎士になられたと言われました。それはつまり、学園卒業後も私の側にいらしてくださるということ。それだけで十分でしょう?
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