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20(最終回)
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学園の卒業式と卒業パーティーはつつがなく終わった。
結局、ダージリンは結局、セイロン領に行くことを選んだ。
『一度、王家から逃げ出してみることにしたんだ』
満面の笑みで言い放ったダージリンには呆れたが、王位継承権のない身ではあるためそれもよいのだろう。何より、あのように開き直った姿のダージリンが見れたのなら、心配しなくてもよいと思えた。
そして今、俺とアルグは馬車でルテニュイ領に入り、新たな家族となる伯爵家へと向かっている。
ちなみに、馬車の席は隣同士ではなく正面だ。俺としては隣で触れ合っていたかったが、アルグが「今日は夜までお預けみたいなのをしてみたいな、なんて」と恥じらいながら言うものだから、気づけば喜んで受け入れていた。
「久し振りのルテニュイ領だね。変わってないなぁ」
「そうだな。しかし、この地が俺達夫婦の愛を育む新たな都となると思うと、今ではとても愛おしい景色に見える」
「!そうだね。大切にしていこうね、ラプス」
「嗚呼、アルグ」
慣れないが故に照れてしまいながらも、砕けた口調で俺に話しかけるアルグがこの上なく愛らしい。
俺とアルグはとうとう夫婦になった。卒業パーティーを終えた足ですぐに2人で城へ赴き、俺のルテニュイ伯爵家への養子縁組手続きと、俺とアルグの婚姻手続きを行った。
兄上達には性急だと呆れられたが、何年もこの時を待ち続けていたんだ。一晩休んで翌日など待っていられない。一秒でも早くアルグと夫婦になりたいと言えば、アルグも頬を染めながら同意してくれた。あの日のアルグも非常に可愛かった。
そして、やっとの思いで正式に夫婦になったことを期に、アルグには俺への敬語と敬称をつけて呼ぶことをやめてもらった。
既に俺達は身も心も近く離れることのない関係ではあったが、こうして話し方が変わるとより一層距離が近付いたように感じる。アルグとどこまでも愛し合えることのなんと素晴らしいことか。
「・・・アルグ、結婚式が遠くなってすまない」
「そんなに謝らないで。伯爵領の皆に僕達のことを受け入れてもらってから、ルテニュイ領で式をあげたいっていうラプスの気持ちに、僕も共感したんだよ。だから気にしないで」
念願叶い、俺とアルグは無事結婚することができたが、しばらくは結婚式を挙げないことにした。
これからルテニュイ伯爵家で生きていくのだから、式を挙げる土地はルテニュイ領がよいと思った。しかし、元王族とは言え、伯爵家に養子入りしたばかりの人間がいきなり結婚式を挙げるなど、領民に心から受け入れてもらえないのではないかと危惧した。
王都で結婚式を挙げてから、ルテニュイ領に向かうという選択もあったが、それではこれからの俺とアルグの人生において意味のない行為になってしまうのではないかと思えたのだ。
そんな俺の我儘にアルグが賛同してくれた。なんと優しく心の広い妻だろうか。
そう、妻だ。アルグは今はもう俺の妻なのだ。なんという素晴らしい響きだ。これから他者と話す時は、アルグは俺の妻だと言い続けられるのだ。本当に素晴らしい。
「僕としては、結婚式を挙げる時には、ラプスと僕の子ども達が、式のちょっとしたお手伝いを出来るくらいに大きくなっててもいいかなと思うんだけど」
頬を紅く染めて、アルグが少し遠くなるかもしれない未来の話をする。そんな潤んだ瞳で俺との子どもが欲しいと安易にお強請りするなど、どれだけ可愛くなれば気が済むのだろうか。どこまでも可愛く愛らしくなり続けるアルグの全てを、アルグの夫として俺が生涯受け止めていこう。
「それも素晴らしいな。アルグは子どもは何人欲しいんだ?」
「えっと・・・2人・・・3人は欲しいかな」
「3人・・・いいな。いつか出会う俺達の子どもが幸せに暮らせる街を作ろう」
「うん」
俺とアルグの薔薇色の幸せな未来計画を話しているうちに、ルテニュイ伯爵家の屋敷に馬車が辿り着いた。触れ合えないことは寂しかったが、やはりアルグと過ごす時間はあっという間だな。
アルグをエスコートして馬車を降りると、使用人達が並び立ち、その先にルテニュイ伯爵夫妻と思われる老夫婦が立っていた。
「「「ようこそお越しくださいました、若旦那、若奥様」」」
使用人達の歓迎の声が響く。皆笑顔で出迎えてくれている。一人一人の顔を確認すると、使用人の中にも見覚えのある者がいる。
それはそれとして、アルグが若奥様、素晴らしい響きだ。
「お久し振りです、ラプサンス様。恐れ多くもあるこの日を待ち侘びておりました」
「伯爵・・・いや、養父上、もう家族になったのだから、そのように畏まらないでくれ」
「お言葉に甘えましょう、あなた。ラプサンスさん、アールグレイさん、会いたかったわ」
「義父上、義母上、夫共々これからよろしくお願いしますね」
笑顔の再会を果たすことができ、新しい日々の始まりとして、この上ないものとなっただろう。
今日からこれまでとは全く異なる生活が始まり蓮が、アルグが隣に居てくれるおかげで、未来への不安など微塵も感じない。今日という日も、アルグの存在が幸福をもたらしてくれている。
明日からも、その先も永く、このように素晴らしい日々が続いていくのだ。
ところで、先程の「あなた」呼びは非常に魅力的なものだったから、今夜、アルグにお願いするとしよう。
結局、ダージリンは結局、セイロン領に行くことを選んだ。
『一度、王家から逃げ出してみることにしたんだ』
満面の笑みで言い放ったダージリンには呆れたが、王位継承権のない身ではあるためそれもよいのだろう。何より、あのように開き直った姿のダージリンが見れたのなら、心配しなくてもよいと思えた。
そして今、俺とアルグは馬車でルテニュイ領に入り、新たな家族となる伯爵家へと向かっている。
ちなみに、馬車の席は隣同士ではなく正面だ。俺としては隣で触れ合っていたかったが、アルグが「今日は夜までお預けみたいなのをしてみたいな、なんて」と恥じらいながら言うものだから、気づけば喜んで受け入れていた。
「久し振りのルテニュイ領だね。変わってないなぁ」
「そうだな。しかし、この地が俺達夫婦の愛を育む新たな都となると思うと、今ではとても愛おしい景色に見える」
「!そうだね。大切にしていこうね、ラプス」
「嗚呼、アルグ」
慣れないが故に照れてしまいながらも、砕けた口調で俺に話しかけるアルグがこの上なく愛らしい。
俺とアルグはとうとう夫婦になった。卒業パーティーを終えた足ですぐに2人で城へ赴き、俺のルテニュイ伯爵家への養子縁組手続きと、俺とアルグの婚姻手続きを行った。
兄上達には性急だと呆れられたが、何年もこの時を待ち続けていたんだ。一晩休んで翌日など待っていられない。一秒でも早くアルグと夫婦になりたいと言えば、アルグも頬を染めながら同意してくれた。あの日のアルグも非常に可愛かった。
そして、やっとの思いで正式に夫婦になったことを期に、アルグには俺への敬語と敬称をつけて呼ぶことをやめてもらった。
既に俺達は身も心も近く離れることのない関係ではあったが、こうして話し方が変わるとより一層距離が近付いたように感じる。アルグとどこまでも愛し合えることのなんと素晴らしいことか。
「・・・アルグ、結婚式が遠くなってすまない」
「そんなに謝らないで。伯爵領の皆に僕達のことを受け入れてもらってから、ルテニュイ領で式をあげたいっていうラプスの気持ちに、僕も共感したんだよ。だから気にしないで」
念願叶い、俺とアルグは無事結婚することができたが、しばらくは結婚式を挙げないことにした。
これからルテニュイ伯爵家で生きていくのだから、式を挙げる土地はルテニュイ領がよいと思った。しかし、元王族とは言え、伯爵家に養子入りしたばかりの人間がいきなり結婚式を挙げるなど、領民に心から受け入れてもらえないのではないかと危惧した。
王都で結婚式を挙げてから、ルテニュイ領に向かうという選択もあったが、それではこれからの俺とアルグの人生において意味のない行為になってしまうのではないかと思えたのだ。
そんな俺の我儘にアルグが賛同してくれた。なんと優しく心の広い妻だろうか。
そう、妻だ。アルグは今はもう俺の妻なのだ。なんという素晴らしい響きだ。これから他者と話す時は、アルグは俺の妻だと言い続けられるのだ。本当に素晴らしい。
「僕としては、結婚式を挙げる時には、ラプスと僕の子ども達が、式のちょっとしたお手伝いを出来るくらいに大きくなっててもいいかなと思うんだけど」
頬を紅く染めて、アルグが少し遠くなるかもしれない未来の話をする。そんな潤んだ瞳で俺との子どもが欲しいと安易にお強請りするなど、どれだけ可愛くなれば気が済むのだろうか。どこまでも可愛く愛らしくなり続けるアルグの全てを、アルグの夫として俺が生涯受け止めていこう。
「それも素晴らしいな。アルグは子どもは何人欲しいんだ?」
「えっと・・・2人・・・3人は欲しいかな」
「3人・・・いいな。いつか出会う俺達の子どもが幸せに暮らせる街を作ろう」
「うん」
俺とアルグの薔薇色の幸せな未来計画を話しているうちに、ルテニュイ伯爵家の屋敷に馬車が辿り着いた。触れ合えないことは寂しかったが、やはりアルグと過ごす時間はあっという間だな。
アルグをエスコートして馬車を降りると、使用人達が並び立ち、その先にルテニュイ伯爵夫妻と思われる老夫婦が立っていた。
「「「ようこそお越しくださいました、若旦那、若奥様」」」
使用人達の歓迎の声が響く。皆笑顔で出迎えてくれている。一人一人の顔を確認すると、使用人の中にも見覚えのある者がいる。
それはそれとして、アルグが若奥様、素晴らしい響きだ。
「お久し振りです、ラプサンス様。恐れ多くもあるこの日を待ち侘びておりました」
「伯爵・・・いや、養父上、もう家族になったのだから、そのように畏まらないでくれ」
「お言葉に甘えましょう、あなた。ラプサンスさん、アールグレイさん、会いたかったわ」
「義父上、義母上、夫共々これからよろしくお願いしますね」
笑顔の再会を果たすことができ、新しい日々の始まりとして、この上ないものとなっただろう。
今日からこれまでとは全く異なる生活が始まり蓮が、アルグが隣に居てくれるおかげで、未来への不安など微塵も感じない。今日という日も、アルグの存在が幸福をもたらしてくれている。
明日からも、その先も永く、このように素晴らしい日々が続いていくのだ。
ところで、先程の「あなた」呼びは非常に魅力的なものだったから、今夜、アルグにお願いするとしよう。
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