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 愛しい婚約者との逢瀬を終え、自室で紅茶を飲みながら、今日も可愛くて堪らなかった婚約者の姿を思い出す。
「可愛い俺のアルグ。天使より可愛い」
 何をどうしたらあれほど可愛い存在が生まれると言うのだ。嗚呼、アルグが俺を大好きな所以にあの可愛さが生まれているのかもしれない。尚、可愛さが増すではないか。
「殿下、余韻に浸る時間は終了です。勉強を始めてください」
「何を言う。今はアルグの可愛さを噛み締めることが何よりも重要だろう」
 何せ、今日は初の「あーん」記念日だからな。恥じらい、頬を染め、瞳を潤わせながら俺を見つめるアルグの可愛さは天上のものにも勝る。
 そして、俺に食事を差し出され、開かれる口の艶かしさは筆舌に尽くしがたい。食事より何よりアルグのその味を味わいたいのを、どれだけ耐えたことか。
「アールグレイ様とのご関係が順調なことは私も喜ばしく思います。あーんを言ってもらわない限り食べようとしない辺りが、我が主ながら気持ち悪かったですが、アールグレイ様の寛大なお心に感謝しかありません」
「今また無礼な言葉が聞こえた気がするが、アルグの可愛さに免じて許してやる」
「それより殿下、お勉強の時間ですよ」
 アルグの件で相談してからと言うものの、執事の無礼が止まらないんだが。シュガールには主人かつ王子である俺を敬う心はないのか?
「何故、今更勉強などしなければならないんだ?」
「ラプサンス様の頭が悪いからです」
「は?」
「これまで殿下はアールグレイ様とお話する機会がありませんでしたので、その愚かさを知られることすらありませんでしたが、今や親交を深めるために日々時間を共に過ごされております。これでは殿下のば、頭の悪さがアールグレイ様の知るところになるのも時間の問題です」
「もしや今、馬鹿と言いかけたか?」
「折角想いが通じたと言いますのに、ここで愛想をつかされる等、殿下の従者として私も心苦しく思います」
 シュガールは淡々と俺への無礼な言葉を並べていく。この執事、絶対俺のことを敬ってないだろ。
「もちろん、多少知識をつけたところで、殿下の生来の愚かさがなくなるわけではないことは重々承知しております」
「今度は愚かって言ったな!」
 絶対俺のことを馬鹿にしてるだろ!俺のは王族なんだぞ!頭が悪いわけがないだろ!
「ですので、ここは寧ろ先にこちらから明かしておく方が懸命であると判断しました」
「は?明かすって何をだ?」
「手筈はこちらで整えておりますので、ご安心ください」
「おい、どういう意味」
 シュガールを問い詰めようとしたところで、ドアをノックする音が響いた。
 一先ず迎え入れれば、音の主はなんとアルグだった。
「アルグ!俺に会いに来てくれたのか?」
「えっと、はい。シュガールさんに呼ばれはしましたが、純粋に僕がラプス様に会いたくて参りました」
「俺も会いたかったよ。俺の可愛いアルグ」
 俺に会いたかっただなんて、なんて可愛いんだ!出来ればこのまま抱き締めたいが、我慢だラプサンス。可愛いアルグを堪能するためにここは我慢だ。
 シュガールがアルグを誘導し、アルグは俺の隣へと腰かける。
 嗚呼、俺の隣にアルグがいる!なんて幸せなんだ!
「ん?シュガールが呼んだ?」
「はい、その、ラプス様がお勉強が苦手とお聞きしまして、それも僕のせいでもあるとのことだったので、僕も何かお手伝いをしたいと思いまして」
「俺のことでアルグが責任を感じなければならぬこと等あるはずがないだろ?」
 シュガールの奴、何故俺が勉強が苦手等とでたらめをアルグに吹き込んでるんだ!?
「いいんです、ラプス様。実は、僕のせいだと聞いた時、嬉しいなんて思ってしまったのでちょっと反省してるんです」
 アルグのせいと聞いてアルグが喜ぶとはどういうことだ?執事は何とアルグに言ったんだ?
「それと、ラプス様とご一緒にお勉強することにずっと憧れていましたので。学生カップルらしくて素敵だな、と」
「今すぐしよう。シュガール、教材を早く持ってくるんだ」
「かしこまりました」
 学生カップル。見つめ合うだけで恥じらい頬を染めるアルグの可愛いさを増幅させる初々しい響きだ。
 恋人の細やかな望みさえ叶えられない等王族としてあるまじきこと。今こそ俺が甲斐性ある男であると、アルグにしかと魅せるとしよう。

 いざ勉強に取りかかって分かったのは、俺は今時間の使い方を間違えているということだ。
 可愛い俺のアルグが隣に居るっていうのに、何故俺はつまらない歴史書に目を向けているんだ?ここは愛し合うもの同士、見つめ合い、愛を語り合うべき時だろう?
 それはそれとして、こうやって物書きをするアルグも美しい。この可憐なアルグの姿が、学園という場で大勢の目に晒されてるのか。
 独り占めしたい。俺はアルグの婚約者なんだから許されるんじゃないのか?
 アルグの頬がうっすらと色づく。嗚呼、可愛いアルグ。俺達だけの時間が永遠に続いたらいいのに。
「あの、ラプス様?」
「どうした、アルグ?」
 伏し目がちに潤んだアルグの瞳が俺に向く。そんなに色香をまとわせて俺を見つめるなんて、これ以上俺を惑わせてどうするつもりなんだ!
「どこか、難しいところがありましたか?」
「ん?」
「本を読む手が止まっているようなので」
「ああ、何処がっていうか、どれも分からないし、国の成り立ちなんて何になるんだ?」
 俺の言葉にアルグが目を丸くする。ついでに後ろから大きな溜め息が聞こえた。
「えっと、そうですね。・・・例えば、60年前の戦争でこの国は勝利しました。もし敗戦していたなら、ラプス様と僕はこうして出会うことも、もしかしたら僕は生まれてすらいなかったかもしれません」
「なっ、アルグのいない世界なんて・・・」
「あの、ですので、つまり・・・」
「我が国の歴史を知るというのは、俺とアルグの愛の軌跡を知るということだな!」
「その、そう考えたら、頑張れますか?」
「もちろんだ!俺とアルグの愛の軌跡、これを知らないわけにはいかないからな!」
 歴史がこんなに重要なものだと気付かなかったとは、この俺としたことがなんて失態だ。
 アルグと愛を確かめる前なら、臆病にも歴史を学べなかっただろうが、今は違う!しっかり歴史をマスターしてやろうじゃないか。アルグと深い愛で繋がってる俺は無敵だからな!
 アルグが顔を真っ赤にしている。まさか、また俺にドキドキし過ぎてるなら大変だ!
「大丈夫か、アルグ?」
「あ、はい。その、自分で言い出しておいて、恥ずかしくなってるだけなので」
 恥ずかしい・・・我が国の歴史が俺とアルグの愛の軌跡だということがか?つまり、アルグは照れていると言うわけだな。
「アルグは今日も本当に可愛いな」
「っ!ラプス様も今日も素敵です」
「当然だ。なんたって俺はアルグに愛されているからな」
「はぃ・・・」
 アルグがより顔を赤くして俯いた。
 やはり一旦休憩した方がいいだろうか。俺のアルグへ止まらない愛は、まだまだアルグの胸には刺激が強すぎるらしい。

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