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「やはり、笑顔が素敵な者と一緒にいると、心が安らぐな」
仲睦まじいと最近噂になっている転入生の女子生徒に優しく微笑みかける殿下を見て、僕の頭の中で何かが弾けた。
そして、そのまま、その場で、僕は気を失ってしまった。
人前で気を失うという失態を犯した僕は、意識が戻らないまま高熱を出して、数日間寝込むことになった。
「殿下はお見舞いに来てくださらなかったんだね」
「はい」
「ううっ、そんなぁ」
やっとのことで熱が下がったと言うのに、今度は精神的不調で寝込みたい気分だ。
「やっぱり殿下はあの女の子のことがお好きで、僕のことなんかもうお嫌いなんだ」
「第四王子であられる御方がそのような薄情なことをなされるはずがございません。お気を落とさないでくださいませ、アールグレイ様」
「王族の婚約者なんて僕には分不相応だったんだぁ」
16歳にもなって、情けなくもめそめそと泣いてしまう。
昔から殿下のことになると、僕は涙腺が物凄く弱い。だって、側に居るだけでドキドキし過ぎて、涙が出そうになるんだ。
人前で情けない姿を曝すわけにはいかないから、グッと眉間に力を込め続けることで泣きそうになるのを必死で堪えている。結果、殿下の前での僕はしかめっ面しかしていない婚約者ってことになる。
他の人の前では普通に笑えるんだから、殿下からの心象が悪くても当たり前なんだよな。
「僕はここのまま殿下に嫌われ続けて、婚約破棄されて、皆に憎まれながら処刑されるのかな」
「何故、そうなるのですか?それは想像が飛躍しすぎていますよ。第四王子との婚約が解消される場合、アールグレイ様は他の王族の方とご結婚されることになるはずです」
「あはは、だよねぇ。ちょっと悲観的になりすぎちゃった」
「病み上がりですからね。アールグレイ様の気持ちを落ち着けるためにも、私は紅茶を用意して参りますね」
よろしくねと手を振りって、退室する侍女を見送った。
僕が第四王子であるラプサンス・ティアブレイト様と婚約しているのは、我がフレーブ侯爵家と王家の繋がりを強くするためだ。ラプサンス様と僕の婚約が白紙になれば、他の王族と婚姻関係になることは皆分かりきっていることだ。
それなのに、あんな突拍子もないことを想像したのは、今回の高熱の原因でもある前世の記憶とやらを思い出したせいだろう。
どうやら僕には前の人生というものがあるらしくて、そこで見たとある物語と僕の周りの人達の顔と名前が一致していた。
その物語の中で、ラプサンス様と先日ラプサンス様に微笑まれていた令嬢が、愛を誓い合って皆に祝福されながら結婚をしていたんだ!
そして、僕と同じ名前の人物は、僕の婚約者である殿下に愛されるその令嬢に嫉妬して、酷いことをたくさんしたことで殿下に嫌われて、婚約破棄されて更に処刑までされていた。
酷いよぉ。元はと言えば、浮気した殿下が悪いんじゃないかぁ。ううっ、涙出てきた。
ラプサンス様の気持ちも僕の身に起こることも、あの物語通りになってしまうのかな。
現に、ラプサンス様は僕が一世一代の告白をしようと大事な話をしたいと伝えたら、たくさん人を連れてきた上に、僕の目の前で他の令嬢を口説いたんだ!
酷い!酷すぎる!でも、好き!ラプサンス様は本当はそんな酷い人じゃないもん!やっぱり僕だけ嫌われているのかな。
既に物語通りに進んでる気がするけど、あの物語で僕と同じ名前の子、何故か令嬢だったんだよね。何で性別違うんだろう。前世の世界は、子どもを産めるのは女性だけで、結婚出来るのも男女の組み合わせのみっていう謎の制約があったから、それに合わせてあったのかな。
殿下と結ばれるならどっちでもいいけど、どっちでも結ばれないなら意味がない。
「うぅ~、僕はどうしたらいいのぉ」
「第四王子にアールグレイ様の想いを伝える方法ですか?」
「わっ!?ティズ戻ってたの!?」
「アールグレイ様がお一人で長くいらっしゃると、どんどん悲観的な方へと思考を進められると思い、少々急いで参りました」
「ははっ、流石ずっと僕付きなだけはあるね。よく僕のこと分かってる」
「恐縮です。さぁ、どうぞ」
お礼を言って、自分と同じ名前の紅茶を受け取る。
名前が一緒という親近感から一番飲んできた飲み物だ。うん、やっぱり落ち着くなぁ。
「大事なお話があるとお伝えすれば、お二人でお話しする機会を設けられると思ったのですが」
「まさか、あんなに人を連れて来られるなんてね。余程僕と二人きりになるのは嫌なのかもしれない。まぁ、どうせ僕も殿下を前にして上手く喋れるかは分からなかったんだけど」
「直接お話が難しければ、選択肢は一つですよ」
げんなりした気分の僕に、侍女が微笑み告げる。
「え、人伝いにするってこと?」
「違います。お手紙です」
「・・・手紙!ラブレターだね!」
何で今まで思い付かなかったのかが不思議なくらい、想いを伝えるための基本の手段じゃないか!
「あ、でも、殿下は僕の手紙なんて読みたくないかも。読む前に捨てられたりして・・・」
悲観的予測で上昇した気持ちが直ぐ様下降していく。泣きそう。
「必ず王子がアールグレイ様のお手紙をお読みになるよう、王子の執事に強くお願いしておきます。最悪の場合は、執事に読み上げてもらいましょう」
「は、恥ずかしいよ。そこまで嫌がられてないことを願うしかないね」
「書かれますか?」
「うん!ラプサンス様に僕の気持ちが届くよう頑張って書くよ!紙とペンを用意してくれる?」
「かしこまりました」
そして、僕は生まれて初めてのラブレターを書き上げた。
仲睦まじいと最近噂になっている転入生の女子生徒に優しく微笑みかける殿下を見て、僕の頭の中で何かが弾けた。
そして、そのまま、その場で、僕は気を失ってしまった。
人前で気を失うという失態を犯した僕は、意識が戻らないまま高熱を出して、数日間寝込むことになった。
「殿下はお見舞いに来てくださらなかったんだね」
「はい」
「ううっ、そんなぁ」
やっとのことで熱が下がったと言うのに、今度は精神的不調で寝込みたい気分だ。
「やっぱり殿下はあの女の子のことがお好きで、僕のことなんかもうお嫌いなんだ」
「第四王子であられる御方がそのような薄情なことをなされるはずがございません。お気を落とさないでくださいませ、アールグレイ様」
「王族の婚約者なんて僕には分不相応だったんだぁ」
16歳にもなって、情けなくもめそめそと泣いてしまう。
昔から殿下のことになると、僕は涙腺が物凄く弱い。だって、側に居るだけでドキドキし過ぎて、涙が出そうになるんだ。
人前で情けない姿を曝すわけにはいかないから、グッと眉間に力を込め続けることで泣きそうになるのを必死で堪えている。結果、殿下の前での僕はしかめっ面しかしていない婚約者ってことになる。
他の人の前では普通に笑えるんだから、殿下からの心象が悪くても当たり前なんだよな。
「僕はここのまま殿下に嫌われ続けて、婚約破棄されて、皆に憎まれながら処刑されるのかな」
「何故、そうなるのですか?それは想像が飛躍しすぎていますよ。第四王子との婚約が解消される場合、アールグレイ様は他の王族の方とご結婚されることになるはずです」
「あはは、だよねぇ。ちょっと悲観的になりすぎちゃった」
「病み上がりですからね。アールグレイ様の気持ちを落ち着けるためにも、私は紅茶を用意して参りますね」
よろしくねと手を振りって、退室する侍女を見送った。
僕が第四王子であるラプサンス・ティアブレイト様と婚約しているのは、我がフレーブ侯爵家と王家の繋がりを強くするためだ。ラプサンス様と僕の婚約が白紙になれば、他の王族と婚姻関係になることは皆分かりきっていることだ。
それなのに、あんな突拍子もないことを想像したのは、今回の高熱の原因でもある前世の記憶とやらを思い出したせいだろう。
どうやら僕には前の人生というものがあるらしくて、そこで見たとある物語と僕の周りの人達の顔と名前が一致していた。
その物語の中で、ラプサンス様と先日ラプサンス様に微笑まれていた令嬢が、愛を誓い合って皆に祝福されながら結婚をしていたんだ!
そして、僕と同じ名前の人物は、僕の婚約者である殿下に愛されるその令嬢に嫉妬して、酷いことをたくさんしたことで殿下に嫌われて、婚約破棄されて更に処刑までされていた。
酷いよぉ。元はと言えば、浮気した殿下が悪いんじゃないかぁ。ううっ、涙出てきた。
ラプサンス様の気持ちも僕の身に起こることも、あの物語通りになってしまうのかな。
現に、ラプサンス様は僕が一世一代の告白をしようと大事な話をしたいと伝えたら、たくさん人を連れてきた上に、僕の目の前で他の令嬢を口説いたんだ!
酷い!酷すぎる!でも、好き!ラプサンス様は本当はそんな酷い人じゃないもん!やっぱり僕だけ嫌われているのかな。
既に物語通りに進んでる気がするけど、あの物語で僕と同じ名前の子、何故か令嬢だったんだよね。何で性別違うんだろう。前世の世界は、子どもを産めるのは女性だけで、結婚出来るのも男女の組み合わせのみっていう謎の制約があったから、それに合わせてあったのかな。
殿下と結ばれるならどっちでもいいけど、どっちでも結ばれないなら意味がない。
「うぅ~、僕はどうしたらいいのぉ」
「第四王子にアールグレイ様の想いを伝える方法ですか?」
「わっ!?ティズ戻ってたの!?」
「アールグレイ様がお一人で長くいらっしゃると、どんどん悲観的な方へと思考を進められると思い、少々急いで参りました」
「ははっ、流石ずっと僕付きなだけはあるね。よく僕のこと分かってる」
「恐縮です。さぁ、どうぞ」
お礼を言って、自分と同じ名前の紅茶を受け取る。
名前が一緒という親近感から一番飲んできた飲み物だ。うん、やっぱり落ち着くなぁ。
「大事なお話があるとお伝えすれば、お二人でお話しする機会を設けられると思ったのですが」
「まさか、あんなに人を連れて来られるなんてね。余程僕と二人きりになるのは嫌なのかもしれない。まぁ、どうせ僕も殿下を前にして上手く喋れるかは分からなかったんだけど」
「直接お話が難しければ、選択肢は一つですよ」
げんなりした気分の僕に、侍女が微笑み告げる。
「え、人伝いにするってこと?」
「違います。お手紙です」
「・・・手紙!ラブレターだね!」
何で今まで思い付かなかったのかが不思議なくらい、想いを伝えるための基本の手段じゃないか!
「あ、でも、殿下は僕の手紙なんて読みたくないかも。読む前に捨てられたりして・・・」
悲観的予測で上昇した気持ちが直ぐ様下降していく。泣きそう。
「必ず王子がアールグレイ様のお手紙をお読みになるよう、王子の執事に強くお願いしておきます。最悪の場合は、執事に読み上げてもらいましょう」
「は、恥ずかしいよ。そこまで嫌がられてないことを願うしかないね」
「書かれますか?」
「うん!ラプサンス様に僕の気持ちが届くよう頑張って書くよ!紙とペンを用意してくれる?」
「かしこまりました」
そして、僕は生まれて初めてのラブレターを書き上げた。
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