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第六章 仲間の裏切り

第39話 Lv.2400

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 聖女様は妹と年齢も近い。

 オフィーリアという名前は地上世界によくあると聞く。
 関係があるとはとても思えないが、引き剥がされたとはいえ、棄民に落とされた時、妹が泣いていた。

 あの涙を流させたことが、今でもまだ悔やまれる。

「もう一つあったよな? 妹さんだったか?」
「あ、はい。六歳で闇属性と判定されて地下に来てから、かれこれ十五年になります。もし、地上で生きているならそろそろ、十七、八歳に」
「それなんだが。余計なことかと思ったんだが、探し手配をもう始めているんだ」

 嬉しい朗報だ。
 仕事をやり終える前から、既に探し始めてくれているなんて感謝の一言しかない。

「本当ですか! ああ、ありがとうございます!」
「本当だよ。人探し程度なら俺達にも役立てる」
「ありがとうございます! 感謝が尽きません」

 キースは弓使いの両手を握った。
 彼は確かめるように言う。

「名前は確か……」
「オフィーリアです!」

 小さく叫んだ。それを聞いて、弓使いと女魔道士の頬に、奇妙な笑いが浮かぶ。
 キースは嬉しさがこみ上げてきて、彼らの悪意に気づかなかった。

 四十二階層にたどり着く。
 転送装置は円筒形の筒のようになっていて、上に昇る時は前が、下に下がる時には後ろ側の壁が開閉する仕組みだ。

 それまで灰色の壁だったそれが、さっと左右に開かれる。
 その向こうには吸い込むとむせ帰るほど濃厚な原始の森林がどこまでも広がっていた。

 青々とした山脈をはるか遠くに睥睨し、勇者たちは公式には前人未到の四十二階層へと足を踏み入れる。

 待っていたのは、木々に隠れるようにして、神聖魔法の遮断結界で守られた転送装置と、併設された監視塔。そこに詰める、騎士たちだった。

「このような危険な場所にお越しいただけるとは。感激の極みです、ようやくこの場所も人の手によって進めるようになります」
「勇者様! どうか我々に新しい新天地をお与えください!」

 騎士たちは口々にそう叫び、勇者たちを歓待する。
 六年前から、臨時に設立されたこの監視等では、異次元の強さを誇る様々な魔獣たちを観測してきた、と彼らは語る。

「最も危険で恐ろしいのは、腐蝕の巨大魔獣アルトボロスです。やつの腐蝕は神聖魔法で守られているはずの遮蔽結界をやすやすと突き破り、侵入してくる。これまで数十人が犠牲になりました」
「ご苦労だった。それだけの犠牲を出しても監視を続けてくれた君たちに、国王陛下の代わりに感謝を捧げよう」
「もったいないお言葉です!」

 騎士達は感動に胸を熱くして瞳を潤ませる。
 ところで、とアレクは事務的に言葉を続けた。

「魔獣アルトボロスのレベル測定はもう終わっているのかな? ここには数か月前、最新の計測器が送り届けられているはずだ」
「はっ。地上世界で初のレベルは800とされてきました。しかしこの地下世界では、下に行けば行くほど魔獣の強さは比例して増していきます」
「つまりより高くなっていると?」

 観測機のデータを持ってきた騎士の人には言いづらそうにそれを勇者に見せて言った。

「この三ヶ月で八回の観測を行いました。やつも用心深くなかなかその姿からは想像しません。我々もこれより向こうにはなかなか進むことができませんでした」
「それで結果は?」

 多少苛立った声で、アレクは問う。

「……2600、です。勇者様」
「Lv2600、だと? 冗談だろ、地上世界に棲息するアルトボロスの平均値を四倍も上回っているだと? 計測機器の故障じゃないのか」
「その可能性もあるため、あらかじめ四台の計測機器が送られてきております。その全てで検索した結果、今のような数値が計測されました」
「馬鹿な!」

 勇者が初めて怒りを露わにした瞬間だった。
 奥歯を噛み締め、右頬を目を閉じるぐらいまで歪めてしまう。

 そこに聖人としての面影は見当たらない。
 戦いに飢えた狼。そんな感じだった。

「報告できる数値はそうなっております」
「その計測機器を全てもってこい」
「は?」
「いいから用意しろ!」

 肩から羽織っていたローブを翻して、勇者は命じる。
 怪訝な顔をした騎士たちが用意した四台の計測機器。

 それで測らせたのは、勇者のレベルだった。

「……どうだ? 俺のレベルも上がっているのか? 地上にあったものが地下に降りて四倍になるなら、俺だって……」
「申し上げます。勇者様のレベルは……Lv.820です」
「こちらもです」
「こちらは810です」
「馬鹿な! 剣神の勇者たるこの俺が、たかだか腐蝕の巨大魔獣アルトボロスに劣るだと!」

 屈辱に顔を歪めて最後の計測器の数値を確認する。
 騎士死にそうな顔で報告した。

「840……です」
「ふざけるな!」

 勇者の拳が、一台の計測機器を破壊する。
 それは担当していた騎士から「ああっ」と悲痛な声が漏れた。

 おそらくこの装置はとてつもなく高いのだろう。
 彼が始末書を書かされる姿がキースのまぶたに浮かんだ。

 かわいそうに……でも俺は、どの程度なんだろう?
 ふと、そんな疑問が心に湧いて出る。

 勇者は怒りのあまり扉を開けると用意された来賓の客室へと消えてしまった。
 他の仲間たちも、彼を追いかけて足早に消えていく。
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