38 / 52
第六章 仲間の裏切り
第37話 計測装置
しおりを挟む
勇者アレクが真顔に戻り、なにやら考え込んでいた。
彼ほどの高名な実力者でもあの魔獣には気を抜けないのだろうか?
「レベル800の魔物か」
「レベル?」
そう言われてキースは怪訝な顔をした。
ここ半世紀ほど、地上世界の他の大陸で発達した魔導科学によって、魔獣や魔力のレベルを測定できる魔導具が開発され、様々な地域で実用化されて活用されていると聞く。
あいにくとこのロンギヌス王国は文明の盛んな中央大陸に遠い。
おまけに地下世界ともなれば、外の世界との文明格差はかなりの開きがあるはずだ。
「そういえば君は棄民だったね」
何気なしに勇者が言ったその一言に、キースの顔が曇る。
棄民は王国から地下世界に追放されて見捨てられた人々。
光の神を国教に指定している王国は、光属性の人々を優遇し、闇属性の人々地下世界に送り込んだ。
彼らは「棄民」と呼ばれ、地上世界に二度と戻ること許されない。
そんな人々は、いま地下に数十万単位で存在していて、まだ若いキースもその一人だった。
「光属性であられる皆様方の案内を仰せつかって、俺は幸せです」
「それは光栄なことだ。是非とも俺たちの役に立ってくれ」
「はいもちろんです、勇者様」
心にもないお世辞だ。
そんなこと思っているものは、この地下世界には一人もいないだろう。
だが彼らは勇者パーティ。
光属性の人々の中で、最も輝き、最も権力を持つ人間たち。
ここで取り入って損はない。
自分が彼らを無事に生還させた後にやりたいことのためにも、今はお世辞を使うことも重要だった。
そうやって喋りながら歩いていると、だんだんと街の姿が見えてくる。
百メートルを超える外壁。
対魔獣用のそれは、この高さでも不安なほど。
しかし地上世界の彼らからしてみれば、物珍しいらしい。
女魔導師ロンディーネは「へえ、高い」と驚きの声を出す。
「街の中央に、地下へと降りる転送装置があります。そこに行きましょう」
「よろしく頼むよ」
勇者はどこまでも親しげに、ポンっとキースの肩を軽く叩いた。
転送装置には二種類ある。
各階層ごとを昇降するものと、何階層も飛ばして、目的の場所へと直行するものとの二種類だ。
今回は、最速で三十階層を目指す。
そこでキースたちが落とされた、問題の転送装置を利用して四十二階層まで一気に降りてしまう。
階層のボスと目論まれる腐蝕の巨大魔獣アルトボロス。Lv.800のそいつを撃破し、一気に四十二階層を解放する。
一旦そこに陣営を敷き、簡易神殿を建立して剣神を地下へと降臨させて、一階から四十二階層までの地下迷宮を神の力によって聖浄化する。
そうすることによって、地上で待っている他の神殿の勢力や、有力な冒険者たち。
魔王軍との戦争が終わり、戦いに飢えている王国軍を投入することで、地下世界のあらゆる資源をその手にしてしまおうというのが、今回の計画だった。
三十階層にたどり着くまでの間、いくつかの転送装置を経由する中で、勇者はそんな話をしてくれる。
「Lv.800なら、多少は手こずるだろうけど。まあ問題はない。俺はLv.900だ」
「はあ。そういうもんなんですか」
勇者は自慢そうに最新型だと言い、いまかけているメガネのようなものをトントンと指先で叩いた。
観測装置。スカウターというらしいが、この魔導具の開発には各神殿も開発に参加しているらしい。
しかし一説には、神様たちはそんなものに興味がなくて、あまり知恵を貸してくれないのだという。
人が人の知恵で作り出した、計測装置。
そんなもので、神や魔王に匹敵するともいわれる古代上位魔獣を計測できるものだろうか?
「俺たちに任せておけばいい。君は安全な場所に逃げてくれたらいいよ」
「そうそう、神々に選ばれた俺たちなら、どんな魔獣も一撃さ」
果たして、そうそう上手くいくもんだろうか?
迷宮に棲息する魔獣たちの恐ろしさを知っているキースには、いまひとつピンとこない話だった。
この計画には、あまり深入りをしない方が良さそうだ。
「そうですね。俺なんかレベル低いんで。是非そうさせて頂きます」
「ちょうどいい。君のそれを計測してあげよう」
「え、いや! それはちょっと待って……」
言葉の途中で、勇者の眼鏡が光った。
青白い光が投射され、頭の上から足の先まで数回往復する。
それがおさまったら勇者アレクは「へえ……面白いね、君」と感嘆の声を上げた。
「面白いって……?」
まさか自分のスキルがばれた?
背中にぬるっとした嫌な汗が流れる。
このスキルは総合ギルドのスキル判定装置でも判明しなかったではレアスキルの一つだ。
普段なら依頼主の影を踏むことで、彼らのさまざまな真理を知ることができる。
今回は勇者パーティに参加している誰の影を踏んでも、簡単な思考しか手に入らない。
神に選ばれた冒険者達だけあって、こちらに都合よく情報を提供してくれないようだった。
「君のLvはなんと600だ。これまで見てきた地下の棄民のなかでは、最も上位に値する」
「あ、それ……」
「スキルもユニークだね」
「えっ!」
今度は脂汗が額を滑り落ちる。
彼ほどの高名な実力者でもあの魔獣には気を抜けないのだろうか?
「レベル800の魔物か」
「レベル?」
そう言われてキースは怪訝な顔をした。
ここ半世紀ほど、地上世界の他の大陸で発達した魔導科学によって、魔獣や魔力のレベルを測定できる魔導具が開発され、様々な地域で実用化されて活用されていると聞く。
あいにくとこのロンギヌス王国は文明の盛んな中央大陸に遠い。
おまけに地下世界ともなれば、外の世界との文明格差はかなりの開きがあるはずだ。
「そういえば君は棄民だったね」
何気なしに勇者が言ったその一言に、キースの顔が曇る。
棄民は王国から地下世界に追放されて見捨てられた人々。
光の神を国教に指定している王国は、光属性の人々を優遇し、闇属性の人々地下世界に送り込んだ。
彼らは「棄民」と呼ばれ、地上世界に二度と戻ること許されない。
そんな人々は、いま地下に数十万単位で存在していて、まだ若いキースもその一人だった。
「光属性であられる皆様方の案内を仰せつかって、俺は幸せです」
「それは光栄なことだ。是非とも俺たちの役に立ってくれ」
「はいもちろんです、勇者様」
心にもないお世辞だ。
そんなこと思っているものは、この地下世界には一人もいないだろう。
だが彼らは勇者パーティ。
光属性の人々の中で、最も輝き、最も権力を持つ人間たち。
ここで取り入って損はない。
自分が彼らを無事に生還させた後にやりたいことのためにも、今はお世辞を使うことも重要だった。
そうやって喋りながら歩いていると、だんだんと街の姿が見えてくる。
百メートルを超える外壁。
対魔獣用のそれは、この高さでも不安なほど。
しかし地上世界の彼らからしてみれば、物珍しいらしい。
女魔導師ロンディーネは「へえ、高い」と驚きの声を出す。
「街の中央に、地下へと降りる転送装置があります。そこに行きましょう」
「よろしく頼むよ」
勇者はどこまでも親しげに、ポンっとキースの肩を軽く叩いた。
転送装置には二種類ある。
各階層ごとを昇降するものと、何階層も飛ばして、目的の場所へと直行するものとの二種類だ。
今回は、最速で三十階層を目指す。
そこでキースたちが落とされた、問題の転送装置を利用して四十二階層まで一気に降りてしまう。
階層のボスと目論まれる腐蝕の巨大魔獣アルトボロス。Lv.800のそいつを撃破し、一気に四十二階層を解放する。
一旦そこに陣営を敷き、簡易神殿を建立して剣神を地下へと降臨させて、一階から四十二階層までの地下迷宮を神の力によって聖浄化する。
そうすることによって、地上で待っている他の神殿の勢力や、有力な冒険者たち。
魔王軍との戦争が終わり、戦いに飢えている王国軍を投入することで、地下世界のあらゆる資源をその手にしてしまおうというのが、今回の計画だった。
三十階層にたどり着くまでの間、いくつかの転送装置を経由する中で、勇者はそんな話をしてくれる。
「Lv.800なら、多少は手こずるだろうけど。まあ問題はない。俺はLv.900だ」
「はあ。そういうもんなんですか」
勇者は自慢そうに最新型だと言い、いまかけているメガネのようなものをトントンと指先で叩いた。
観測装置。スカウターというらしいが、この魔導具の開発には各神殿も開発に参加しているらしい。
しかし一説には、神様たちはそんなものに興味がなくて、あまり知恵を貸してくれないのだという。
人が人の知恵で作り出した、計測装置。
そんなもので、神や魔王に匹敵するともいわれる古代上位魔獣を計測できるものだろうか?
「俺たちに任せておけばいい。君は安全な場所に逃げてくれたらいいよ」
「そうそう、神々に選ばれた俺たちなら、どんな魔獣も一撃さ」
果たして、そうそう上手くいくもんだろうか?
迷宮に棲息する魔獣たちの恐ろしさを知っているキースには、いまひとつピンとこない話だった。
この計画には、あまり深入りをしない方が良さそうだ。
「そうですね。俺なんかレベル低いんで。是非そうさせて頂きます」
「ちょうどいい。君のそれを計測してあげよう」
「え、いや! それはちょっと待って……」
言葉の途中で、勇者の眼鏡が光った。
青白い光が投射され、頭の上から足の先まで数回往復する。
それがおさまったら勇者アレクは「へえ……面白いね、君」と感嘆の声を上げた。
「面白いって……?」
まさか自分のスキルがばれた?
背中にぬるっとした嫌な汗が流れる。
このスキルは総合ギルドのスキル判定装置でも判明しなかったではレアスキルの一つだ。
普段なら依頼主の影を踏むことで、彼らのさまざまな真理を知ることができる。
今回は勇者パーティに参加している誰の影を踏んでも、簡単な思考しか手に入らない。
神に選ばれた冒険者達だけあって、こちらに都合よく情報を提供してくれないようだった。
「君のLvはなんと600だ。これまで見てきた地下の棄民のなかでは、最も上位に値する」
「あ、それ……」
「スキルもユニークだね」
「えっ!」
今度は脂汗が額を滑り落ちる。
0
お気に入りに追加
227
あなたにおすすめの小説
無能はいらないと追放された俺、配信始めました。神の使徒に覚醒し最強になったのでダンジョン配信で超人気配信者に!王女様も信者になってるようです
やのもと しん
ファンタジー
「カイリ、今日からもう来なくていいから」
ある日突然パーティーから追放された俺――カイリは途方に暮れていた。日本から異世界に転移させられて一年。追放された回数はもう五回になる。
あてもなく歩いていると、追放してきたパーティーのメンバーだった女の子、アリシアが付いて行きたいと申し出てきた。
元々パーティーに不満を持っていたアリシアと共に宿に泊まるも、積極的に誘惑してきて……
更に宿から出ると姿を隠した少女と出会い、その子も一緒に行動することに。元王女様で今は国に追われる身になった、ナナを助けようとカイリ達は追手から逃げる。
追いつめられたところでカイリの中にある「神の使徒」の力が覚醒――無能力から世界最強に!
「――わたし、あなたに運命を感じました!」
ナナが再び王女の座に返り咲くため、カイリは冒険者として名を上げる。「厄災」と呼ばれる魔物も、王国の兵士も、カイリを追放したパーティーも全員相手になりません
※他サイトでも投稿しています
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
弓使いの成り上がり~「弓なんて役に立たない」と追放された弓使いは実は最強の狙撃手でした~
平山和人
ファンタジー
弓使いのカイトはSランクパーティー【黄金の獅子王】から、弓使いなんて役立たずと追放される。
しかし、彼らは気づいてなかった。カイトの狙撃がパーティーの危機をいくつも救った来たことに、カイトの狙撃が世界最強レベルだということに。
パーティーを追放されたカイトは自らも自覚していない狙撃で魔物を倒し、美少女から惚れられ、やがて最強の狙撃手として世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを失った【黄金の獅子王】は没落の道を歩むことになるのであった。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった
さくらはい
ファンタジー
主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ――
【不定期更新】
1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。
性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。
良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる