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第一章 ダークエルフ

第10話 冒険者養成学校

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 地上に戻れる。ある仕事を完遂すれば。
 そうすれば、棄民から平民になれるのだという条件だった。

 学校を営む権利もつけてくれるという。
 王国の王都の更に平民たちが住まう地区で。

 それはいまのキースにとって、またとない好条件だった。
 
 学校はいい。学校は大事だ。学校に通うことは、棄民のキースには許されない贅沢だった。
 それはいま、地下や地上にいる貧しい民の子も同じだ。

 恵まれない環境の子供たちはいつの時代にもいる。
 彼らが人生を変えるとしたら、それは冒険者になるしか、道はない。

 だが、現実は過酷だった。
 冒険者になりたくても、学校に入ることができないやつ。

 学校に入れても、ろくな成績を収めることができないやつ。
 筆記試験の成績はよくても魔法実技や、戦闘実技においてまともな成績を叩き出すことができず、進級ができず追い出されるやつ。

 どいつもこいつもろくでなしばかりってわけじゃない。
 金が入るのだ。

 冒険者育成学校は貴族の子弟子女が入れるくらいの資金力がなければ卒業できない。

 金、金、金。
 この世は全て金で回っている。

 それを助けてやることは、万能の迷宮案内人と呼ばれる彼でも無理なことだ。
 迷宮探索課をクビになり、日雇いギルドに登録し働いて数週間。

 奇跡は起こった。

 ラモスから、生還率の高い優秀な迷宮探索人を探しているパーティがあると紹介がきたのが、昼過ぎのこと。

 聞いてみたら、勇者アレクのパーティだった。
 最下層まで降り、今よりもレベルを上げて? 勇者は最高位ランクではないかと思うが、それはさておき。

 メンバー全員を無事に生還させたら、褒美が貰えるだという。
 それが、学校運営の後押しをしてもらうこと。

 もう一つ、妹を探してもらうこと。
 迷宮探索課に訪れてきた勇者パーティの弓使いにそんな話をしたら、これまでの実績を加味して雇うと言われた。

 契約成立だ。そして、キースの要望も聞いてくれるという。
 妹の容姿と、形見となった腕につけている銀環を見せたら、なぜか顔が険しくなったが、それはすぐに消えた。

 キースも嬉しさでそんなことはすぐに忘れた。
 と、こころでぼやいていたら、いつのまにかそれが言葉になって口を突いて出ていた。

 彼女は「はーん」と訳知り顔になり、うんうんとうなずいて、もう一度、その手をキースの額に当ててくる。

「ではこうしよう。あなたがお酒を飲むたびに、あなたは過去のうやむやにしたい物事に立ち向かわなくてはいけなくなる。というよりも、酔えない体質にした、たった今」
「はあ? 一体何の話だ。すまん、展開が早すぎて理解が追いつかない」
「大丈夫だ。呪いのようなものだからな」
「呪い!」

 思わず素っ頓狂な声が出た。
 呪いなんて言われて驚かないやつがいれば、それこそ冒険者には不向きだ。

 慌てて彼女の指先をしたいからはがそうとする。
 しかしそこには‥‥‥何もなかった。

「は? なんだこれ‥‥‥」

 意味のわからないまま、彼女が必死になってバランスを取り座ろうとしていた、隣の席を垣間見る。
 しかし、誰もいない。

 カウンターの上にはきちんとグラスが二つ。
 ワインのボトルが二本開けられているのに。

 それを飲んでいたもう片方の相手は煙か何かになったかのように消えてしまってた。
 誰だったんだ? ちょっと待て、なんの話だったんだ?

 自分はいつから彼女に向かってあの話をしだしたのか全く記憶がおぼつかない。
 本当に彼女はいたのか?

 架空の、妄想彼女でも膨らませて、一人で虚しく何かを演じていたのではないのだろうかと心配になってしまう。

 そうしてもう一度酔い直そうとワインを口にする。
 味はする。香りもいい。だが?

「なんだ? 酔った感覚がしない‥‥‥」

 まさか本当に呪いにかけられた?
 そんなはずないよな。

 とりあえず一笑に伏してから、その夜はバーテンのお姉さんの一人を口説き落として、相手の連絡先を訊いて帰宅した。

 自分の部屋に辿りついてベッドに潜り込んだとき、まぶたの裏であの少女が「必ず確認するように、財布の中。待っているぞ」と言っていた。

 なんてあまりにもリアルすぎる夢を見た。
 まぁ酔っ払いにはよくあることだ。

 絶世の美女に相手をされてると思っていたら何かの置物だったり、どこかの家の柱だったり、河の欄干立ったりすることはあたり前によくある。

 それにキスをして顔を近づけたら全く違うものでショックを受けることも多々ある。しかし止められない。

 辛い過去を忘れるために飲むことは何も悪いことじゃない。
 むしろ翌日にはけろっとしてまともな平常に戻れるのだから、こちらにとっては最高の精神安定剤と言ってもいい。

 あんな過去なんて、さっさと忘れてしまいたいのだ。
 愛する妹と引き離され、無理やりこの地下世界に堕とされた日の事を、今でも思い出す。

 今はただ泥の中に落ちるようにして眠りたい。
 叶うならば、これから出会うだろう棄民になる子供たちを。

 まだ若い五歳や六歳とかの、幼い彼らを。
 生還率百パーセントの冒険者に育て上げる夢を貪りながら‥‥‥。
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