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第五章 騎士の誇りと折れた魔法剣
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伝説にもあるように魔法使いの正装は、上から黒いとんがり帽子、真っ黒なローブを羽織り、内側には真っ黒のシャツと真っ黒なパンツ。
魔女だったら真っ黒な真っ黒なワンピースを身にまとう。
たぶんそれが世間の常識で、人々が思い描く魔女の正装で、本当はあまりにもありえない現実と果てしなく乖離した空想上の装束。
だから、わたしが魔法学院を卒業し二級魔道士の資格を取得した時、正装と呼ばれるその姿を見て「あらまあ」とどこか残念そうな声をレイがあげたのは普通といえば普通の反応だった。
「色気と言うか威厳と言うかそういったものが全くない衣装ですね、それ」
「魔法使いに色気とかそんなものは求められても困るわよ」
「だって――、おとぎ話に出てくる意外な魔法使いや、性格が悪い魔女はどんがり帽子に身長ほどもある杖を抱き、ほうきにまたがって空を飛ぶような。それが正しい魔法使いの姿じゃありませんか」
それなのに、とレイはとても残念そうにため息をつく。
卒業時の姿はというと、文化の洗練された大陸の東の果てからやってきた、スーツと呼ばれるシャツとパンツと上着で構成される礼装だ。
最もこれには幾種類があって、ワンピースのようなものもあれば、一枚の布を体にきちんと巻きつけて正装とするこの国の古い文化に根差した民族衣装も存在する。
「だけどねー。憧れるのは分かるけど、今どきそんな真っ黒なローブを羽織ってとんがり帽子をかぶってるような魔法使いなってどこにも存在しないわよ」
「そういうものなんですかね。私の生まれた国はまだまたそういった伝説上の魔法使いみたい格好をする人たちがたくさんいたはずなんですけど」
「たくさんいた、……はず?」
なんとなくその語尾が気になって問い返す。
レイは、故郷を出てからもう十年以上経っていますからと、寂しそうな微笑んだのだった。
何か悪い質問をしてしまったのかもしれない。
ちょっとだけ申し訳なさを感じてしまい、今回はレイの期待を裏切らないように古い魔法使いの格好をしてみることにしたのだ。
「……とは言ってもね。いろんなもので薄汚れた地下に降りるとなったら、そうそう綺麗な格好はできないのよねー」
「着古した膝上までの真っ黒なワンピースに、こちらも使い古した乗馬用パンツですか。まあ確かにどちらも真っ黒で、魔法使いといえば言えなくもない格好ですね」
「魔導師だけどね」
「そうでした。でも帽子はどうするんですか、アルフリーダ―」
「さすがにとんがり帽子は無理かな。つばも広すぎるし、重さだってある。狭かったり広かったりする空間では視界だって塞がれてしまうから。せめてこれで勘弁してちょうだい」
「……ハンチング用のキャップ。それどう見ても真っ黒には見えませんけどね」
「だって真っ暗な空間の中で黒ずくめだったら、誰もが怪しむじゃない。頭の上くらい白くしてなかったら、どんな魔獣がいるかもしれないって思われていきなり撃たれるかもしれない。それはごめんだわ」
「なるほど」
レイは納得したように頷いた。
ついでに腰に巻いたちょっと大ぶりのベルトには、ラルクから奪い取った炎の魔法剣が収められている。
これを使って闇を薙ぎ払いながら魔獣を退治する。
伝説の勇者になった気分だ。
私の胸は、幼い子供のようにわくわくしてドキドキが止まらない。
本日の冒険の成果が期待できそうだった。
魔女だったら真っ黒な真っ黒なワンピースを身にまとう。
たぶんそれが世間の常識で、人々が思い描く魔女の正装で、本当はあまりにもありえない現実と果てしなく乖離した空想上の装束。
だから、わたしが魔法学院を卒業し二級魔道士の資格を取得した時、正装と呼ばれるその姿を見て「あらまあ」とどこか残念そうな声をレイがあげたのは普通といえば普通の反応だった。
「色気と言うか威厳と言うかそういったものが全くない衣装ですね、それ」
「魔法使いに色気とかそんなものは求められても困るわよ」
「だって――、おとぎ話に出てくる意外な魔法使いや、性格が悪い魔女はどんがり帽子に身長ほどもある杖を抱き、ほうきにまたがって空を飛ぶような。それが正しい魔法使いの姿じゃありませんか」
それなのに、とレイはとても残念そうにため息をつく。
卒業時の姿はというと、文化の洗練された大陸の東の果てからやってきた、スーツと呼ばれるシャツとパンツと上着で構成される礼装だ。
最もこれには幾種類があって、ワンピースのようなものもあれば、一枚の布を体にきちんと巻きつけて正装とするこの国の古い文化に根差した民族衣装も存在する。
「だけどねー。憧れるのは分かるけど、今どきそんな真っ黒なローブを羽織ってとんがり帽子をかぶってるような魔法使いなってどこにも存在しないわよ」
「そういうものなんですかね。私の生まれた国はまだまたそういった伝説上の魔法使いみたい格好をする人たちがたくさんいたはずなんですけど」
「たくさんいた、……はず?」
なんとなくその語尾が気になって問い返す。
レイは、故郷を出てからもう十年以上経っていますからと、寂しそうな微笑んだのだった。
何か悪い質問をしてしまったのかもしれない。
ちょっとだけ申し訳なさを感じてしまい、今回はレイの期待を裏切らないように古い魔法使いの格好をしてみることにしたのだ。
「……とは言ってもね。いろんなもので薄汚れた地下に降りるとなったら、そうそう綺麗な格好はできないのよねー」
「着古した膝上までの真っ黒なワンピースに、こちらも使い古した乗馬用パンツですか。まあ確かにどちらも真っ黒で、魔法使いといえば言えなくもない格好ですね」
「魔導師だけどね」
「そうでした。でも帽子はどうするんですか、アルフリーダ―」
「さすがにとんがり帽子は無理かな。つばも広すぎるし、重さだってある。狭かったり広かったりする空間では視界だって塞がれてしまうから。せめてこれで勘弁してちょうだい」
「……ハンチング用のキャップ。それどう見ても真っ黒には見えませんけどね」
「だって真っ暗な空間の中で黒ずくめだったら、誰もが怪しむじゃない。頭の上くらい白くしてなかったら、どんな魔獣がいるかもしれないって思われていきなり撃たれるかもしれない。それはごめんだわ」
「なるほど」
レイは納得したように頷いた。
ついでに腰に巻いたちょっと大ぶりのベルトには、ラルクから奪い取った炎の魔法剣が収められている。
これを使って闇を薙ぎ払いながら魔獣を退治する。
伝説の勇者になった気分だ。
私の胸は、幼い子供のようにわくわくしてドキドキが止まらない。
本日の冒険の成果が期待できそうだった。
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