彼氏が親友と浮気して結婚したいというので、得意の氷魔法で冷徹な復讐をすることにした。

和泉鷹央

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第四話 魔法剣と騎士の称号

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「彼は来ていませんよ、お嬢様。直接、あれで刺し殺すおつもりはありませんか」
「ないわねー。今のところ、そうしてやりたくてもこちらの命が危うくなるような危険には、身を置きたくないわ」
「でも、あの幼馴染とともにどこかに追い出してしまわれた、と」
「……ときどき、あなたが忠実な侍女で友達なのか、それとも嫌味で陰険な義理の母親なのか分からなくなるわ、レイ」
「それはどうも。義理の母なら、あの男たちを無事に帰宅させる気にはなりませんよ、アルフリーダ。あなたは大事な私の家族ですから」

 家族の定義って何だろう?
 そんな疑問を持たせてくれる一言だった。
 あの人とわたしは、その家族になるはずだったのに。あの光景を思い出す度に、大きな感情の波が心を揺らしていく。
 
「ねえ、まだ良かったかもしれないとか思ってない?」
「は?」
「だから――彼との結婚式を挙げて法的に夫婦になる前にこんなことになってしまったけど。でも……ラルクをあの浮気男を旦那様なんて呼ぶことにならずに済んでよかった。そう思ってない?」
「もちろん、思っています。当たり前じゃないですか!」
「あなたなら、そうよね……」

 わたしの髪にアイロンをあてあらかた乾いたのを確認したのだろう。
 レイはそれを手から離すとかたわらに置き、香油をすこしずつ髪になじませていく。

「今夜もまたああなったら、もう知りませんからね」
「二度目はもうこりごりだわ。朝からお風呂に入れるって贅沢は悪くないけど、叱られそう」
「あのケチな浮気男はもういないのだから、気にする必要なんてないじゃない」
「それもそうね……」

 ここ半年の間、彼は三日とおかずに我が家にやって来てはのんべんだらりと過ごしては文句を言いえらそうにしていた。
 自分勝手で貴族の屋敷ではいつもこうだと威張り散らしては、レイにああしろ、こうしろと命令しては一人満足そうにしているのだ。
 それはまるで彼の両親が息子に見せてきた姿ではないかと、今になってわたしは思う。
 追い出したことは、どこのどんな視点から見ても正解だったようだった。

「戻しに行って来ましょうか」
「お願いしたいわ」
「では……どちらに行きますか? 公爵邸? それとも、騎士団の宿舎?」
「ラーケム伯爵様はなんて言われるかと思うと、怖くなる。ラルクの方は宿舎の方でいいと思うけど」
「裏切り者の幼馴染を庇うおつもり? アルフリーダ」
「そんな気は無いわ。ただ……幼馴染だからこそ、あちらの家族には良くして頂いたから……ね」

 あちら様に申し訳が無い。
 なんて言うと侍女は「馬鹿ねえ、アルフリーダ。だから捨てられたのよ」と言うのだ。
 慰められていたらいきなり小馬鹿にされて、レイの優しさはどこにあるのだろうと一瞬疑いを持つ。

「いい、アルフリーダ? あの結界があるからこうしてのんびりとしていられる。あなたの魔導があるから私たちは安全だというだけじゃないの。いまは自分の身を守ることを一番に考えなさいな」
「……でも、あなたはどうするの? もし、伯爵家や騎士団に行って捕縛でもされたら? どうやって逃げるつもりなの?」
 
 こっちだってただ一人の侍女を失いたいわけじゃない。
 例え陰険で意地悪な姉のような存在であってもだ。だから、レイに届けに行かせることには一抹の不安があった。無事に戻ってくる保障なんてどこにもないのだから。
 
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