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2.ダンジョンの爆破魔
1.厄介なモンスター
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「スキルをください」
「……は?」
そいつはいきなりやってきた。
ダンジョン十五階層。
降りるのに五日。
戻るのは帰還用の魔導具を使えばすぐ。
昨日に続いてシリルたちの前にあらわれたモンスターが、出会って数秒でそんなことを言う。
位置的にそれと近いエミリアと、その後ろにいたシリルも目を点にする。
「スキルをくれると聞きました! くれないと爆破します」
モンスター。可愛らしい幼女のようなその姿のわりに、言うことがぶっそうすぎる。
緑色の髪、水色の瞳がきらめいていて、好奇心満載で爆発寸前。そんな感じ。
名前もぶっそうで、『ハサイヒメ』というらしい。
なにを破砕するのかは簡単で、出会った相手がその標的。
なんでもいいからスキルをやれば喜んでくるくる回転しながら去っていき、その日は現れない。しかし、日を変えたらまたやってくるという、十五階層の名物的モンスターらしい。
だがこちとらまだ出会って二日目なのだ。
そうそうほいほいとやれるようなスキルなんて持ち合わせていなかった。
「ごまかしたらどっかいくかなー」
「え! それはまずいのでは……」
エミリアは腰まである黒髪を、これでもかとぶんぶんと振って否定する。
まだ死にたくないという、意思表示。
あなたはだまって私の盾になれば、それでいいのに。なんてハサイヒメよりひどいことをシリルは考えていた。
「くれないんですか? 爆破しよっかなー」
いやいや、そんな未来は望んでない。
対抗する方法はいくらでもあるがとりあえず、ごまかしてみる。
「なんの話、スキルって……」
「スキルはスキルです。昨日のはもらいましたけど、今日のはまだです」
「今日のって……。あースキル、ね」
「そう、それそれ」
なにが、それそれ、だ。
嬉しそうに水色の瞳をほんとうに輝かせて頷くな。
手をぶんぶん振り回すな、この歩く危険物。こくこくと頷く頭の動きなかみまで、軽く感じられる。
とりあえず嬉しいから頷こう、みたいな。
「魔法系のスキル……いやーあんたには知恵の方がいいと思うけど」
「知恵?」
「そう、知恵。数をかぞえたり、文字を読んだり」
なんか違うけど。
それならこっちが失うものはなにもないし。
やっぱりモンスター。外見は可愛らしい幼女でも中身はからっぽだ。
「んー? 知恵もスキル?」
「そうそう」
「なら、そっちでもいいです」
いいのか。
ハサイヒメはニッコリと凶悪な笑顔で答える。
エミリアも呆れていた。
「えっと、それででいいのでしょうか、シリルさん」
「いーのよ! あれがいいって言ってるんだから!」
「えェ……」
エミリアがこっちを振り向こうとするから、後ろから頭ひとつは高い黒髪を掴んで前に向かせる。
あなたは盾なんだから。
こっち向くな。
シリルの新人教育は最低だ。
「用意するから、落ち着いて」
「はい? はあ、どれくらい?」
「直ぐ!」
「なら、待ちますー」
そう口にして、ハサイヒメはびしっと気を付け、の恰好になった。
なんだこのノリは。
呆れるエミリアの後ろでは、シリルが藍色の外套のなかに手をやってなにかをごそごそとやっていた。
ハサイヒメは数秒も『待ちますー』を継続しなかった。
その大きな目が自分に向いたのに気づいて、エミリアは視線を逸らしたかったけどできないでいた。
ハサイヒメは昨日もそうだった。
どこかの国のお姫様のような可愛さでこっちを見つめてくる。
こちらも見つめると、いや見つめさせられると目を逸らすのを忘れるくらい綺麗だった。
「あなたも、スキルをください」
「えっ」
ハサイヒメはどうやら標的を一組から二人に変更したらしい。
ずいっと足をまえに踏みだすと、遠慮なく両手のひらをまるくひとつにして差し出して来た。
私にまで要求するなんて。
というより、一を二に変更するなんて。
すでに学習し始めているのでは、この凶悪に可愛いモンスター。
そう思いながらエミリアはシリアに声をかける。
「シリルさん?」
「なに?」
「私にまでスキル寄越せって……」
「上げたらいいじゃない。こっちまだかかるから、抑えといて」
「そんな!」
何を与えればいいのよ。
どうしようとエミリアはハサイヒメの柔らかそうな手を見て考える。
その爪先は少し伸びていて、人とは違うのかそれとも何か塗っているのか。
エミリアの髪と同じ黒く染まっていた。
「あ、あなたも何か下さいな」
「どうして?」
ハサイヒメが不思議そうに首を傾げた。どうやらこれまでそんなことを言われたことがないらしい。
貰えなければ、ただ爆発して被害をもたらすだけ。
ほんとうに面倒くさいモンスターだ。
「……は?」
そいつはいきなりやってきた。
ダンジョン十五階層。
降りるのに五日。
戻るのは帰還用の魔導具を使えばすぐ。
昨日に続いてシリルたちの前にあらわれたモンスターが、出会って数秒でそんなことを言う。
位置的にそれと近いエミリアと、その後ろにいたシリルも目を点にする。
「スキルをくれると聞きました! くれないと爆破します」
モンスター。可愛らしい幼女のようなその姿のわりに、言うことがぶっそうすぎる。
緑色の髪、水色の瞳がきらめいていて、好奇心満載で爆発寸前。そんな感じ。
名前もぶっそうで、『ハサイヒメ』というらしい。
なにを破砕するのかは簡単で、出会った相手がその標的。
なんでもいいからスキルをやれば喜んでくるくる回転しながら去っていき、その日は現れない。しかし、日を変えたらまたやってくるという、十五階層の名物的モンスターらしい。
だがこちとらまだ出会って二日目なのだ。
そうそうほいほいとやれるようなスキルなんて持ち合わせていなかった。
「ごまかしたらどっかいくかなー」
「え! それはまずいのでは……」
エミリアは腰まである黒髪を、これでもかとぶんぶんと振って否定する。
まだ死にたくないという、意思表示。
あなたはだまって私の盾になれば、それでいいのに。なんてハサイヒメよりひどいことをシリルは考えていた。
「くれないんですか? 爆破しよっかなー」
いやいや、そんな未来は望んでない。
対抗する方法はいくらでもあるがとりあえず、ごまかしてみる。
「なんの話、スキルって……」
「スキルはスキルです。昨日のはもらいましたけど、今日のはまだです」
「今日のって……。あースキル、ね」
「そう、それそれ」
なにが、それそれ、だ。
嬉しそうに水色の瞳をほんとうに輝かせて頷くな。
手をぶんぶん振り回すな、この歩く危険物。こくこくと頷く頭の動きなかみまで、軽く感じられる。
とりあえず嬉しいから頷こう、みたいな。
「魔法系のスキル……いやーあんたには知恵の方がいいと思うけど」
「知恵?」
「そう、知恵。数をかぞえたり、文字を読んだり」
なんか違うけど。
それならこっちが失うものはなにもないし。
やっぱりモンスター。外見は可愛らしい幼女でも中身はからっぽだ。
「んー? 知恵もスキル?」
「そうそう」
「なら、そっちでもいいです」
いいのか。
ハサイヒメはニッコリと凶悪な笑顔で答える。
エミリアも呆れていた。
「えっと、それででいいのでしょうか、シリルさん」
「いーのよ! あれがいいって言ってるんだから!」
「えェ……」
エミリアがこっちを振り向こうとするから、後ろから頭ひとつは高い黒髪を掴んで前に向かせる。
あなたは盾なんだから。
こっち向くな。
シリルの新人教育は最低だ。
「用意するから、落ち着いて」
「はい? はあ、どれくらい?」
「直ぐ!」
「なら、待ちますー」
そう口にして、ハサイヒメはびしっと気を付け、の恰好になった。
なんだこのノリは。
呆れるエミリアの後ろでは、シリルが藍色の外套のなかに手をやってなにかをごそごそとやっていた。
ハサイヒメは数秒も『待ちますー』を継続しなかった。
その大きな目が自分に向いたのに気づいて、エミリアは視線を逸らしたかったけどできないでいた。
ハサイヒメは昨日もそうだった。
どこかの国のお姫様のような可愛さでこっちを見つめてくる。
こちらも見つめると、いや見つめさせられると目を逸らすのを忘れるくらい綺麗だった。
「あなたも、スキルをください」
「えっ」
ハサイヒメはどうやら標的を一組から二人に変更したらしい。
ずいっと足をまえに踏みだすと、遠慮なく両手のひらをまるくひとつにして差し出して来た。
私にまで要求するなんて。
というより、一を二に変更するなんて。
すでに学習し始めているのでは、この凶悪に可愛いモンスター。
そう思いながらエミリアはシリアに声をかける。
「シリルさん?」
「なに?」
「私にまでスキル寄越せって……」
「上げたらいいじゃない。こっちまだかかるから、抑えといて」
「そんな!」
何を与えればいいのよ。
どうしようとエミリアはハサイヒメの柔らかそうな手を見て考える。
その爪先は少し伸びていて、人とは違うのかそれとも何か塗っているのか。
エミリアの髪と同じ黒く染まっていた。
「あ、あなたも何か下さいな」
「どうして?」
ハサイヒメが不思議そうに首を傾げた。どうやらこれまでそんなことを言われたことがないらしい。
貰えなければ、ただ爆発して被害をもたらすだけ。
ほんとうに面倒くさいモンスターだ。
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