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第一部 エピローグ
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しおりを挟むつまり、二人は脅されていたのだ。
誰にでもない。
あの、乃蒼、に。
姉を好きにしたら、今度は妹に目が行った。
あれほどに貞操観念とか一般常識が欠落していたクズだ。
その程度はすぐに考えるし、そうなるように行動するだろう。
そして、やつらクズは犯罪行為に関しては。それに類する事柄に関してだけは、先輩から様々なやり方、実現しやすいルートを教え込まれる。
季美にとっての泣き所は妹であり、妹にとっての泣き所は姉だ。
両親は不仲で、娘たちの悲し気な顔に気づくこともなく、今日も今日とて家族の為という大義名分を掲げて会社で仕事に勤しんでいるに違いない。
自分たちが頑張っている背中を見せているのだから、子供たちは理解してくれるはずだ。
理解されるはずのない、虚しい親の常套句である。
そして、それが親の生き甲斐でもあり、家族という支えがあるからこそ成立する、親子間の暗黙の了解になり得なかった、希望の光が暗幕でおおわれた瞬間でもある。
「親も責めれないし、かといって助けてとは言えない、か」
「……まあ。そんなとこも含み、ですかね。わたしは季美をどうにかあのボケから解放したかったし」
「私は乃蒼、信じてたし」
「結果として、俺がここにいる。まあ、本心でもそうでなくても、俺はちゃんと付き合うつもりだけれど、さ」
逃げないから、少しばかりの時間は欲しかった。
心の整理はもうついている。
欲しい時間は、三人が大人になるだけの時間だ。
それが手に入れば、彼女たちが提唱する。三人でずっと一緒、もできることになるだろう。
「抜け駆けは、なしね」
「お姉ちゃんは、もうやってるでしょうが!」
「だって、むう‥‥‥」
「そこを待とうって話をしてるの。黙って、もう。お願いだから」
「はーい」
と、季美の禁止宣言を牧那があっさりと撤回させる。
こうやって見ていれば、妹がうまく舵取りをして回るのだろうけれど、その妹にも抗いきれない化け物がやってきてしまった。
それが、前田乃蒼だった、というわけだ。
季美が段々と乃蒼に感化されて行き、いずれ自分にもその毒牙が及ぶとなった時。
牧那が取れる行動は少なかったのだろう。その選択肢は更に狭まっていったに違いない。
だって、乃蒼は四六時中、この槍塚家に出入りして油断なく姉妹を見張っていたのだから。
「ある意味、ホラー? ああいや、違うか。アクション込みだから、サイコスリラーだな、これ‥‥‥」
「なんの話ですか」
「なんでもないよ。とにかく、俺はいきなりは無理だ。明日から二年間。時間を頂きます。お前らもその間にちゃんと自分で自分の道を見つけろ。だめなら、最後に俺はいる」
「カッコいいじゃん、抱介。そういうとこ好き」
「打算的な気もしますけど、まきも嫌いじゃないかなー」
「で、最後まで決まらなかったら?」
と、季美は期待感を込めて訊いてくる。
そこは敢えてスルーすることにして、その夜は幕を閉じた。
ところで、と、抱介の胸にはひとつだけ不思議な疑問が沸いていた。
あれはどういう意味だったんだろう、と自習で顔をあわせた牧那に質問する。
「なあ、あの俺がいつも一番大事なものをくれるって‥‥‥どういう意味?」
「ああ、あれですか」、と言い牧那は真顔で答えた。
「季美が幸せだと、まきも幸せなんです。だから、先輩は一番大事なものをいつもくれるんです」
「このロジカルポンコツ変態シスコン悪魔め」
「へへへー光栄の至りってやつですね」
付き合いきれるか、と指先でつついてやったら、牧那はあちら側にコテンっと転げて見えなくなった。
なかなかリアクションが派手な奴である。
これとあの独占欲満載の季美とあと二年間‥‥‥いや、下手したら生涯を過ごすのか。
嬉しいような、悲しいような。
そんな悲鳴が、抱介の頭の中でなぜか教会の鐘とともに鳴っていた。
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