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第五章 無謀な友情
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「……これくらいは手伝ってくれてもいいだろう? どこの誰が撮影して、何日の何限目。何の授業中だったかくらいは」
「私だって何とかしたい」
みのりは悔やむようにそう言った。
長くて細い、よく日焼けしたその指先で、ぐっとスカートの裾を掴んで離さない。
彼女にも思うように友人を手助けできないジレンマがあるのだろう、と抱介は思った。
「あいつとはどこで別れたの」
「季美、職員室に‥‥‥呼ばれて行ったから」
「そういうことは先に教えてくれよ。まあ、さっさと動かない俺も悪いんだけどさ」
巻き添えになりたくないから、さっさと季美の前から去ったんじゃないのか。
そう責めなくてよかったと、心の底で安堵した。
抱介がまだ季美に感心があると分かり、みのりは寄せていた眉根を緩める。
「本当は最後まで一緒にいたかった」
「ありがとう。あいつも喜ぶよ」
善意は心を安らげる。
悪意は心を歪ませる。
無辜の犠牲は、どうやったら、救われるんだろう。
抱介は脳裏の片隅でそんなことを思いながら、質問を繰り返した。
撮影者と担当教師と、それを知りたかった。
「誰か撮影したかなんてわからないよ」
みのりはそう言う。けれど、写真部の誠二は違った。
「……角度だな。これ、隠し撮りのように見せかけて、知っていたのかもしれない」
首を傾げて、そう言いだした。
「どうして?」
「鮮明すぎるんだよ。画質が良すぎる。スマホのカメラは秒速、数千枚とかってのもあるけど。それでもボタンを押すときにはさー‥‥‥そんなにゆっくりと脱いだのか、これ?」
言って示すのは、抱介のスマホの画面。
季美がスカートを持ち上げて、大股を開いているそのシーンだ。
「見たら、できるんじゃないのか?」
「見て、カメラを起動して、狙って、撮影ボタンを押す。その間、どれくらいかかる?」
「……数秒?」
「そんなわけないだろ」
試しに、誠二が椅子に座り直した。
後ろをそっと覗くようにする。驚いた真似をして、スマホを取り出す。カメラアプリを起動して、みのりの顔にそれを固定。撮影ボタンを押そうとして、みのりの手でそれは阻止された。
「ちょっと! 盗撮禁止!」
「ちがっ、ごめん‥‥‥」
「もう」
ちゃんとしてよ、十川君。と君塚みのりは眉間に皺を立てる。
抱介はその間、時間を計っていた。
教室の壁に掛けられたアナログ時計。
その秒針はきっかり、四十秒を示していた。
「……いきなり撮るのは無理かもな」
「だろ? ならあらかじめ狙ったか、それとも」
「あ、動画撮影か」
「そう。最初から用意して撮影しておけばそれくらいわけない」
まあ、もしかしたら写真を撮れた可能性もある。
それも捨てずに、この角度からなら‥‥‥と誠二は、一番後ろから五席目あたりを指さした。
「そんなに距離がない。間に席数は三つだ。それに、槍塚さんの席は後ろから二つ目。分かりやすい」
「じゃあ、季美のクラスでそいつに訊けばいいか」
自然な感じでそう言うと、抱介は立ち上がる。
「あっちで訊くわ。時間帯」
「え? お前、もう授業始まるぞ」
「あー自主学習にするから。便利だろ、こういうときには」
「呆れた奴‥‥‥」
誠二が感心するようにおどけて見せた。
一人でいいのか、と尋ねているようにも見えた。
殴り合いになったら、どうせ数ではあちらが上だし。その前に、そうなる可能性も低いし、なにより次の時間の担当教師に阻まれるだろうし。
大丈夫だ、と余裕の笑みを見せる。
そしたら、みのりが思い出したかのように教えてくれた。
「世界史の授業。だけどこの際、関係ある‥‥‥の?」
うん? と首を斜めにする。
「あるよ。その先生もグルかもしれないだろ」
抱介はそう言い、まずは職員室へ。
自主学習の許可を取りに来たことを口実に、世界史の原先生を探すことにした。
だけどその前に一つの疑問が心に浮かぶ。
‥‥‥そもそも俺って、乃蒼の眼中にいるのか?
抱介は自信なさげに首を傾げた。
「私だって何とかしたい」
みのりは悔やむようにそう言った。
長くて細い、よく日焼けしたその指先で、ぐっとスカートの裾を掴んで離さない。
彼女にも思うように友人を手助けできないジレンマがあるのだろう、と抱介は思った。
「あいつとはどこで別れたの」
「季美、職員室に‥‥‥呼ばれて行ったから」
「そういうことは先に教えてくれよ。まあ、さっさと動かない俺も悪いんだけどさ」
巻き添えになりたくないから、さっさと季美の前から去ったんじゃないのか。
そう責めなくてよかったと、心の底で安堵した。
抱介がまだ季美に感心があると分かり、みのりは寄せていた眉根を緩める。
「本当は最後まで一緒にいたかった」
「ありがとう。あいつも喜ぶよ」
善意は心を安らげる。
悪意は心を歪ませる。
無辜の犠牲は、どうやったら、救われるんだろう。
抱介は脳裏の片隅でそんなことを思いながら、質問を繰り返した。
撮影者と担当教師と、それを知りたかった。
「誰か撮影したかなんてわからないよ」
みのりはそう言う。けれど、写真部の誠二は違った。
「……角度だな。これ、隠し撮りのように見せかけて、知っていたのかもしれない」
首を傾げて、そう言いだした。
「どうして?」
「鮮明すぎるんだよ。画質が良すぎる。スマホのカメラは秒速、数千枚とかってのもあるけど。それでもボタンを押すときにはさー‥‥‥そんなにゆっくりと脱いだのか、これ?」
言って示すのは、抱介のスマホの画面。
季美がスカートを持ち上げて、大股を開いているそのシーンだ。
「見たら、できるんじゃないのか?」
「見て、カメラを起動して、狙って、撮影ボタンを押す。その間、どれくらいかかる?」
「……数秒?」
「そんなわけないだろ」
試しに、誠二が椅子に座り直した。
後ろをそっと覗くようにする。驚いた真似をして、スマホを取り出す。カメラアプリを起動して、みのりの顔にそれを固定。撮影ボタンを押そうとして、みのりの手でそれは阻止された。
「ちょっと! 盗撮禁止!」
「ちがっ、ごめん‥‥‥」
「もう」
ちゃんとしてよ、十川君。と君塚みのりは眉間に皺を立てる。
抱介はその間、時間を計っていた。
教室の壁に掛けられたアナログ時計。
その秒針はきっかり、四十秒を示していた。
「……いきなり撮るのは無理かもな」
「だろ? ならあらかじめ狙ったか、それとも」
「あ、動画撮影か」
「そう。最初から用意して撮影しておけばそれくらいわけない」
まあ、もしかしたら写真を撮れた可能性もある。
それも捨てずに、この角度からなら‥‥‥と誠二は、一番後ろから五席目あたりを指さした。
「そんなに距離がない。間に席数は三つだ。それに、槍塚さんの席は後ろから二つ目。分かりやすい」
「じゃあ、季美のクラスでそいつに訊けばいいか」
自然な感じでそう言うと、抱介は立ち上がる。
「あっちで訊くわ。時間帯」
「え? お前、もう授業始まるぞ」
「あー自主学習にするから。便利だろ、こういうときには」
「呆れた奴‥‥‥」
誠二が感心するようにおどけて見せた。
一人でいいのか、と尋ねているようにも見えた。
殴り合いになったら、どうせ数ではあちらが上だし。その前に、そうなる可能性も低いし、なにより次の時間の担当教師に阻まれるだろうし。
大丈夫だ、と余裕の笑みを見せる。
そしたら、みのりが思い出したかのように教えてくれた。
「世界史の授業。だけどこの際、関係ある‥‥‥の?」
うん? と首を斜めにする。
「あるよ。その先生もグルかもしれないだろ」
抱介はそう言い、まずは職員室へ。
自主学習の許可を取りに来たことを口実に、世界史の原先生を探すことにした。
だけどその前に一つの疑問が心に浮かぶ。
‥‥‥そもそも俺って、乃蒼の眼中にいるのか?
抱介は自信なさげに首を傾げた。
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