NTRするなら、お姉ちゃんより私の方がいいですよ、先輩?

和泉鷹央

文字の大きさ
上 下
48 / 66
第四章 希望のない未来

44

しおりを挟む
「いだだっ」

 今度はおっさんくさい反応が戻ってきた。

「人の顔で遊ばないでくださいっ!」

 後ろっ、と彼女は視線で合図する。
 多分、司書さんが書庫から顔を覗かせたのだろう。
 叱られるまえに両手を牧那から離した。

「美人が台無しだな」
「なんてひどい言い草‥‥‥どうしてそんな血も涙もない仕打ちができるんですか」

 台詞だけは小説に出てくるお姫様みたいだ。中身は自分の感情を上手く表現できないデタラメで難解なロジックを振りかざす、悪逆な地獄の鬼よりもひどい、クソロジカル小悪魔だけど。

「とにかくもう時間がありません」

 乱れた胸元を直しながら、平然とそうのたまう。
 時間が無いのはお前だけだ。
 抱介は内心でそう、ぼやいた。

 牧那は自分の望むように動く手足として、抱介を選んだのだ。
 時間をかけ、必要とあれば、肉体も与えてそれを誘導し、操って姉を取り戻す。
 彼女の大事な感情を濾過するフィルターだ。

 それが無ければ、牧那は暗黒に包まれた世界の中で過ごすのかもしれない。
 自分と他人の距離をはかれない不器用さが群を抜きすぎている。
 こんなポンコツクソロジカル小悪魔、誰がこの世に産み落としたんだ。
 思わず、槍塚両親に怒りの矛先が向く。

 矛先が‥‥‥。

「親はなにをしてきたんだ」
「はあ? うちの両親、もう離婚したようなものですよ」
「いや、それは聞いてない‥‥‥したようなものってなんだよ」

 そういや、季美に聞いたことがあるな。
 両親ともに同じ職場で、転勤で忙しい、と。
 どこかの総合商社だった気がする。
 経済新聞とか広告とかでよく名前を目にする、超有名な会社だ。

「社会の勝ち組が、内実、家庭崩壊かよ」
「上手いこと言いますね、でもそれは正しいです」

 ぴこんっと指先を立てて笑顔を一つ。
 得意満面な笑みだった。
 こんなに多彩な表情ができるのに、果たして本当に、季美がいなければ自分の内面と外界をうまく繋げないのだろうか。
 もしそうだとしたら、彼女は姉が死んだらどうするのだろう。

 姉がどこかに嫁に行けば?
 大学に進学したり、就職したら物理的に距離は離れてしまう。
 そうなったとき、牧那は‥‥‥まともでいられるのか。
 ふと、そんな疑問が沸いて出た。

 ついでに、いまの彼女の耐久力も気になる。

「もうどれくらい戻ってないだ、あいつ」
「……乃蒼と。前田先輩と付き合いだしてから、よくて週一。もう死にそう」
「もう通い妻だな」
「本当に」

 そのもう死にそう、の合間に「牧那の心は暗黒の中で彷徨い続けて」が抜けているのだろうと、なんとなく分かってしまった。もう死にそう、か。
 俺もきつくてもう死にそうだ。この二日間、まともな目に遭ってない。
 翻弄されてばかりで、自分が自分ではない気がする。

「キスしたでしょ」
「したな」
「胸も揉んだでしょ」
「記憶にないなあ」
「牧をあげるって約束したー」
「それは覚えている」
「ならやって!」

 何を?

「乃蒼からお姉ちゃんを取り戻して! NTRして!」
「うるさいわ、ポンコツ」
「はあ?」

 なんでもない。黙れ、クソロジカルポンコツ小悪魔。全部、お前が仕掛けた暴虐じゃねーか。あんな画像を撮られていなければ、とほぞを噛むがいまさらもう遅い。

「今日は用事があるんだ」
「だから?」
「明日の夜は空いているから。うちも両親、いないも同然だからな。離婚じゃないぞ、親父にお袋が付いて行ってんの」
「先輩の家庭状況に興味はありません」

 小悪魔は冷たくそれを跳ねのけた。

「だからー。明日は季美を連れて帰れ。お前が、家に連れて戻れ。それくらいやってもいいだろ? 妹なんだから」
「……それからどうするって?」

 訝しんだ目でこちらをうらめしそうに見上げて来る。頬が痛いと文句も飛んできた。

「行くよ。お前の家。季美に会いに行く。話をする。それから決めよう」
「本当?」
「ああ」

 クソロジカルポンコツ小悪魔の顔がぱあっと一気に輝いた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

処理中です...