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第四章 希望のない未来
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「いだだっ」
今度はおっさんくさい反応が戻ってきた。
「人の顔で遊ばないでくださいっ!」
後ろっ、と彼女は視線で合図する。
多分、司書さんが書庫から顔を覗かせたのだろう。
叱られるまえに両手を牧那から離した。
「美人が台無しだな」
「なんてひどい言い草‥‥‥どうしてそんな血も涙もない仕打ちができるんですか」
台詞だけは小説に出てくるお姫様みたいだ。中身は自分の感情を上手く表現できないデタラメで難解なロジックを振りかざす、悪逆な地獄の鬼よりもひどい、クソロジカル小悪魔だけど。
「とにかくもう時間がありません」
乱れた胸元を直しながら、平然とそうのたまう。
時間が無いのはお前だけだ。
抱介は内心でそう、ぼやいた。
牧那は自分の望むように動く手足として、抱介を選んだのだ。
時間をかけ、必要とあれば、肉体も与えてそれを誘導し、操って姉を取り戻す。
彼女の大事な感情を濾過するフィルターだ。
それが無ければ、牧那は暗黒に包まれた世界の中で過ごすのかもしれない。
自分と他人の距離をはかれない不器用さが群を抜きすぎている。
こんなポンコツクソロジカル小悪魔、誰がこの世に産み落としたんだ。
思わず、槍塚両親に怒りの矛先が向く。
矛先が‥‥‥。
「親はなにをしてきたんだ」
「はあ? うちの両親、もう離婚したようなものですよ」
「いや、それは聞いてない‥‥‥したようなものってなんだよ」
そういや、季美に聞いたことがあるな。
両親ともに同じ職場で、転勤で忙しい、と。
どこかの総合商社だった気がする。
経済新聞とか広告とかでよく名前を目にする、超有名な会社だ。
「社会の勝ち組が、内実、家庭崩壊かよ」
「上手いこと言いますね、でもそれは正しいです」
ぴこんっと指先を立てて笑顔を一つ。
得意満面な笑みだった。
こんなに多彩な表情ができるのに、果たして本当に、季美がいなければ自分の内面と外界をうまく繋げないのだろうか。
もしそうだとしたら、彼女は姉が死んだらどうするのだろう。
姉がどこかに嫁に行けば?
大学に進学したり、就職したら物理的に距離は離れてしまう。
そうなったとき、牧那は‥‥‥まともでいられるのか。
ふと、そんな疑問が沸いて出た。
ついでに、いまの彼女の耐久力も気になる。
「もうどれくらい戻ってないだ、あいつ」
「……乃蒼と。前田先輩と付き合いだしてから、よくて週一。もう死にそう」
「もう通い妻だな」
「本当に」
そのもう死にそう、の合間に「牧那の心は暗黒の中で彷徨い続けて」が抜けているのだろうと、なんとなく分かってしまった。もう死にそう、か。
俺もきつくてもう死にそうだ。この二日間、まともな目に遭ってない。
翻弄されてばかりで、自分が自分ではない気がする。
「キスしたでしょ」
「したな」
「胸も揉んだでしょ」
「記憶にないなあ」
「牧をあげるって約束したー」
「それは覚えている」
「ならやって!」
何を?
「乃蒼からお姉ちゃんを取り戻して! NTRして!」
「うるさいわ、ポンコツ」
「はあ?」
なんでもない。黙れ、クソロジカルポンコツ小悪魔。全部、お前が仕掛けた暴虐じゃねーか。あんな画像を撮られていなければ、とほぞを噛むがいまさらもう遅い。
「今日は用事があるんだ」
「だから?」
「明日の夜は空いているから。うちも両親、いないも同然だからな。離婚じゃないぞ、親父にお袋が付いて行ってんの」
「先輩の家庭状況に興味はありません」
小悪魔は冷たくそれを跳ねのけた。
「だからー。明日は季美を連れて帰れ。お前が、家に連れて戻れ。それくらいやってもいいだろ? 妹なんだから」
「……それからどうするって?」
訝しんだ目でこちらをうらめしそうに見上げて来る。頬が痛いと文句も飛んできた。
「行くよ。お前の家。季美に会いに行く。話をする。それから決めよう」
「本当?」
「ああ」
クソロジカルポンコツ小悪魔の顔がぱあっと一気に輝いた。
今度はおっさんくさい反応が戻ってきた。
「人の顔で遊ばないでくださいっ!」
後ろっ、と彼女は視線で合図する。
多分、司書さんが書庫から顔を覗かせたのだろう。
叱られるまえに両手を牧那から離した。
「美人が台無しだな」
「なんてひどい言い草‥‥‥どうしてそんな血も涙もない仕打ちができるんですか」
台詞だけは小説に出てくるお姫様みたいだ。中身は自分の感情を上手く表現できないデタラメで難解なロジックを振りかざす、悪逆な地獄の鬼よりもひどい、クソロジカル小悪魔だけど。
「とにかくもう時間がありません」
乱れた胸元を直しながら、平然とそうのたまう。
時間が無いのはお前だけだ。
抱介は内心でそう、ぼやいた。
牧那は自分の望むように動く手足として、抱介を選んだのだ。
時間をかけ、必要とあれば、肉体も与えてそれを誘導し、操って姉を取り戻す。
彼女の大事な感情を濾過するフィルターだ。
それが無ければ、牧那は暗黒に包まれた世界の中で過ごすのかもしれない。
自分と他人の距離をはかれない不器用さが群を抜きすぎている。
こんなポンコツクソロジカル小悪魔、誰がこの世に産み落としたんだ。
思わず、槍塚両親に怒りの矛先が向く。
矛先が‥‥‥。
「親はなにをしてきたんだ」
「はあ? うちの両親、もう離婚したようなものですよ」
「いや、それは聞いてない‥‥‥したようなものってなんだよ」
そういや、季美に聞いたことがあるな。
両親ともに同じ職場で、転勤で忙しい、と。
どこかの総合商社だった気がする。
経済新聞とか広告とかでよく名前を目にする、超有名な会社だ。
「社会の勝ち組が、内実、家庭崩壊かよ」
「上手いこと言いますね、でもそれは正しいです」
ぴこんっと指先を立てて笑顔を一つ。
得意満面な笑みだった。
こんなに多彩な表情ができるのに、果たして本当に、季美がいなければ自分の内面と外界をうまく繋げないのだろうか。
もしそうだとしたら、彼女は姉が死んだらどうするのだろう。
姉がどこかに嫁に行けば?
大学に進学したり、就職したら物理的に距離は離れてしまう。
そうなったとき、牧那は‥‥‥まともでいられるのか。
ふと、そんな疑問が沸いて出た。
ついでに、いまの彼女の耐久力も気になる。
「もうどれくらい戻ってないだ、あいつ」
「……乃蒼と。前田先輩と付き合いだしてから、よくて週一。もう死にそう」
「もう通い妻だな」
「本当に」
そのもう死にそう、の合間に「牧那の心は暗黒の中で彷徨い続けて」が抜けているのだろうと、なんとなく分かってしまった。もう死にそう、か。
俺もきつくてもう死にそうだ。この二日間、まともな目に遭ってない。
翻弄されてばかりで、自分が自分ではない気がする。
「キスしたでしょ」
「したな」
「胸も揉んだでしょ」
「記憶にないなあ」
「牧をあげるって約束したー」
「それは覚えている」
「ならやって!」
何を?
「乃蒼からお姉ちゃんを取り戻して! NTRして!」
「うるさいわ、ポンコツ」
「はあ?」
なんでもない。黙れ、クソロジカルポンコツ小悪魔。全部、お前が仕掛けた暴虐じゃねーか。あんな画像を撮られていなければ、とほぞを噛むがいまさらもう遅い。
「今日は用事があるんだ」
「だから?」
「明日の夜は空いているから。うちも両親、いないも同然だからな。離婚じゃないぞ、親父にお袋が付いて行ってんの」
「先輩の家庭状況に興味はありません」
小悪魔は冷たくそれを跳ねのけた。
「だからー。明日は季美を連れて帰れ。お前が、家に連れて戻れ。それくらいやってもいいだろ? 妹なんだから」
「……それからどうするって?」
訝しんだ目でこちらをうらめしそうに見上げて来る。頬が痛いと文句も飛んできた。
「行くよ。お前の家。季美に会いに行く。話をする。それから決めよう」
「本当?」
「ああ」
クソロジカルポンコツ小悪魔の顔がぱあっと一気に輝いた。
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