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第四章 希望のない未来
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教科書を開いて、という教師の声が室内に響きわたる。
その教師は四十代の男性教諭で、世界史の授業にふさわしく、落ち着いた高めのよく通る声で授業を始めた。
季美は右手前に置いてあるタブレットの側面をタップする。
すると画面が消えて真っ黒な背景へと戻った。
そこに認めることが出来た恋人の様を目にして、彼女は「……っ」と劣情にもにた声を瞬間的に発した。
後ろに座る彼氏の前田乃蒼は、何食わぬ顔で当たり前のようにこちらを見ると、くいっとあごを上にやり合図してくる。
まるで、季美が見ていることを知っているかのような、仕草だった。
「うっ‥‥‥」
それが指示するところの意味を季美は知っている。
もちろん、周りのグループの仲間たちも‥‥‥知っている。
瑠璃覇や輝波出が、「ちょっと、まじ?」「あーあ、カワイそー」「季美、やるしかなくねー? 乃蒼怖えーし」
などと野次が飛んできた。
無責任にもほど近い、周囲からの圧力が季美の耳奥に押し込まれてくる。
やらなくちゃ、このグループには置いては貰えない。
断れば、無視が待っている。周りの全員がそうするようになるのだ。例え仲良くしたくても、できなくなってしまう。
それは一重に、グループの中心人物である前田乃蒼が絶対的な権限を握っているのと、彼を怖がってみんな反抗しようとしなかったからだ。
前田乃蒼は季美たちの住む市内ではなく、市街の別の街から通っている。
そこは県内でもあまりよくない噂の絶えない地域で、乃蒼もまた同様に中学時代から喧嘩や暴走族の溜まり場にいたり、多くの女と浮名を流したりと、悪事の数々を暴いていけば十指では足りないだろうと噂される少年だった。
この学校は乃蒼にとって真面目に過ごすための場所ではなく、社会に無事に出るための切符を手に入れる場所に過ぎなかった。
これまでバレないように多くの悪事を画策して実行してきたワルにとって、そこそこ憂さ晴らしする程度の小さな悪事と、それを実行するための仲間と、自分をなんでも肯定するような暴力に弱い女を手に入れることは、空気を吸うことのように当たり前に成し遂げられるものだと彼に思わせていた。
仲間は手に入れた。
小遣いを得るための方法も、一年の時からコツコツと積み上げてきた。
あとは‥‥‥従順な女だ。
暴力とそれが持つ圧倒的な何かに魅力を感じ、自分もその側にいるだけで安心感を感じるような、どうしようもないバカ女。
それが、前田乃蒼にとっての、槍塚季美だった。
「おいっ!」
教師に聞こえないように身を乗り出して、そっとささやく。
季美はびくっと背筋をまっすぐにし、両肩を胸元に引き寄せて、跳ねていた。
「や、やる‥‥‥の?」
「そのために、しただろ? さっき」
うん、とコクンと肯定するように季美はうなずく。
確かに、食堂のあのときに、乃蒼の指先は季美の股のあいだに侵入していた。
まだ慣れないあの感触のざらついた卵型の小さなおもちゃを、するりっと股を開いて受け入れたのは季美自身の身体だった。
そのことを思い出すと、いまでも顔が上気して赤面してしまう。
命じられていること? いや、乃蒼からすれば面白いからやろうぜ、という提案を頭の中で繰り返し考えると、即座に顔から血の気が引いていく。
その教師は四十代の男性教諭で、世界史の授業にふさわしく、落ち着いた高めのよく通る声で授業を始めた。
季美は右手前に置いてあるタブレットの側面をタップする。
すると画面が消えて真っ黒な背景へと戻った。
そこに認めることが出来た恋人の様を目にして、彼女は「……っ」と劣情にもにた声を瞬間的に発した。
後ろに座る彼氏の前田乃蒼は、何食わぬ顔で当たり前のようにこちらを見ると、くいっとあごを上にやり合図してくる。
まるで、季美が見ていることを知っているかのような、仕草だった。
「うっ‥‥‥」
それが指示するところの意味を季美は知っている。
もちろん、周りのグループの仲間たちも‥‥‥知っている。
瑠璃覇や輝波出が、「ちょっと、まじ?」「あーあ、カワイそー」「季美、やるしかなくねー? 乃蒼怖えーし」
などと野次が飛んできた。
無責任にもほど近い、周囲からの圧力が季美の耳奥に押し込まれてくる。
やらなくちゃ、このグループには置いては貰えない。
断れば、無視が待っている。周りの全員がそうするようになるのだ。例え仲良くしたくても、できなくなってしまう。
それは一重に、グループの中心人物である前田乃蒼が絶対的な権限を握っているのと、彼を怖がってみんな反抗しようとしなかったからだ。
前田乃蒼は季美たちの住む市内ではなく、市街の別の街から通っている。
そこは県内でもあまりよくない噂の絶えない地域で、乃蒼もまた同様に中学時代から喧嘩や暴走族の溜まり場にいたり、多くの女と浮名を流したりと、悪事の数々を暴いていけば十指では足りないだろうと噂される少年だった。
この学校は乃蒼にとって真面目に過ごすための場所ではなく、社会に無事に出るための切符を手に入れる場所に過ぎなかった。
これまでバレないように多くの悪事を画策して実行してきたワルにとって、そこそこ憂さ晴らしする程度の小さな悪事と、それを実行するための仲間と、自分をなんでも肯定するような暴力に弱い女を手に入れることは、空気を吸うことのように当たり前に成し遂げられるものだと彼に思わせていた。
仲間は手に入れた。
小遣いを得るための方法も、一年の時からコツコツと積み上げてきた。
あとは‥‥‥従順な女だ。
暴力とそれが持つ圧倒的な何かに魅力を感じ、自分もその側にいるだけで安心感を感じるような、どうしようもないバカ女。
それが、前田乃蒼にとっての、槍塚季美だった。
「おいっ!」
教師に聞こえないように身を乗り出して、そっとささやく。
季美はびくっと背筋をまっすぐにし、両肩を胸元に引き寄せて、跳ねていた。
「や、やる‥‥‥の?」
「そのために、しただろ? さっき」
うん、とコクンと肯定するように季美はうなずく。
確かに、食堂のあのときに、乃蒼の指先は季美の股のあいだに侵入していた。
まだ慣れないあの感触のざらついた卵型の小さなおもちゃを、するりっと股を開いて受け入れたのは季美自身の身体だった。
そのことを思い出すと、いまでも顔が上気して赤面してしまう。
命じられていること? いや、乃蒼からすれば面白いからやろうぜ、という提案を頭の中で繰り返し考えると、即座に顔から血の気が引いていく。
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