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第三章 姉妹の確執
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ほぼ無理やり与えらえたかつ丼を食しながら、にまにまと顔を嬉しそうに緩めている牧那の心中が分からず、抱介は捉えどころのないやつだと思っていた。
姉をNTRしろと命じるような形で提案してきた癖に、秘密にしなくてもいいのか?
むしろ、公開処刑に処されている気分に浸れなくもない。
かといって、罵詈雑言を一方的に投げつけてきた元カノに、誹謗中傷だと怒鳴ってやればよかったのか、とかも考えてしまう。
たった三年の高校生活。
それもあと二年我慢して、進学なり、就職して地元から脱出すれば、この居心地の悪さともおさらばできる。
短いようで長い期間だといまさらながらに嘆息する。
昨日からたった二日間で、二回もキスをされた。
理不尽すぎる行為じゃないか。
こっちは何も望んでいないのに。おまけに『NTR』しろという。対象は元カノで、持ちかけてきたのはその実妹だ。
大勢のいる前で、二年生の間でも指折りの美人に罵倒され、同じ場所には別の意味でそれ以上に魅力的な小悪魔がいた。
なんとも、面倒くさい。
やりきれない怒りも浮いてこないではない。
もちろん、あんな真似をしていった季美について、だ。
しかし、そこはぐっと吞み込むことにした。
大人になったからとか、損をするからだとか、そういう理由じゃない。
季美の現在の彼氏は、自分の恋人にあんな明るい髪色をさせるような男だからだ。
スカートの丈も前より短いし、化粧も以前より際どく変化している。
極めつけが、あの暴言だ。
今の男の格が知れるというものだ。
「お前の姉ちゃん、男によって性格変わる女だったんだな」
「はえ?」
「いや、だからさ。付きあっていた俺が言うのもなんだけれど。変わり過ぎだろ」
「……知りません」
そう問いかけると、途端、牧那の顔から無邪気な笑顔が消えた。
代わりに死んだ魚のような目でこちらをにらんでくるし、背中にはどんよりと曇った雨の後のように重苦しい雰囲気を漂わせ始めた。
「気になるなら、戻ったらいいじゃないですか。あの女に」
「……寝取れって持ち掛けたの、お前だよな」
矛盾してないか、言動。
と指摘すると、彼女の眉尻はきっとつり上がる。
もっとも、普段から垂れ目だから、平均的な目線に戻ったいえばそうなるわけだが、とりあえず牧那は不機嫌の塊になろうとしていた。
「そうでしたっけ。うち、物覚え悪いんでー」
「俺も物覚え悪いから、どうだったか忘れたな」
「へえー」
その杏型の大きな瞳が大きく見開かれる。
どうやら自分が忘れるのはよくても、抱介が忘れるのは良くないらしい。
この辺りは姉と変わらず理不尽だな、と改めて認識する。
でも‥‥‥こちらの中身をよく知らない後輩は、姉よりは扱いやすそうだった。
「かつ丼、美味しいな。ありがとう」
「へ? あ、いいえ。こちらこそ」
素直なお礼が戻ってきた。
季美は男によってどうにでも染まる女。
その分、素直で自分の意思に弱い。
牧那はまず、自分ありきの女だろうと、抱介は思う。
どんな相手に出会っても変わらない強い自分が、心の中にあるのだろう。
自分の価値観を持っていて、だからこそ、それにそぐわない相手にはとことん、反発する。
いがみ合い、傷ついてでもそれを受け容れない。
もし、やられたらとことんやり返すタイプだ。どんなに時間をかけてでも報復する。手段を選ばずに‥‥‥あれ?
と、そこまで考えて抱介は気づいた。
この姉妹はさっき見た通り、仲が悪い。
いつ、どこからそうなったのかは分からないが、少なくとも現在はそうだと思われた。
さて何があったんだろうなぁ、と考えながらまた黙ってしまった牧那をじっくりと観察してみる。
髪型は昨日と変わらないし外観もそれほど変化はない。
姉といがみ合ってる時のあのセリフはまともな姉妹関係からかなり外れていた。
何かを押し付けられて反発している、というよりも。
姉が今付き合っている恋人を毛嫌いしている。そんな風にも見て取れる。
外でこうなのだから家の中ではもっと酷いんだろう。
家の中の事は外でも出てくる。
それは逆もまた同じだ。
だからといって、彼女達の中に割って入るような器用さを、自分が持っているとも思えない。
そしてまた、あんなヤンキー崩れのような男から、元カノをNTRする必要性も‥‥‥やっぱり感じないのだった。
姉をNTRしろと命じるような形で提案してきた癖に、秘密にしなくてもいいのか?
むしろ、公開処刑に処されている気分に浸れなくもない。
かといって、罵詈雑言を一方的に投げつけてきた元カノに、誹謗中傷だと怒鳴ってやればよかったのか、とかも考えてしまう。
たった三年の高校生活。
それもあと二年我慢して、進学なり、就職して地元から脱出すれば、この居心地の悪さともおさらばできる。
短いようで長い期間だといまさらながらに嘆息する。
昨日からたった二日間で、二回もキスをされた。
理不尽すぎる行為じゃないか。
こっちは何も望んでいないのに。おまけに『NTR』しろという。対象は元カノで、持ちかけてきたのはその実妹だ。
大勢のいる前で、二年生の間でも指折りの美人に罵倒され、同じ場所には別の意味でそれ以上に魅力的な小悪魔がいた。
なんとも、面倒くさい。
やりきれない怒りも浮いてこないではない。
もちろん、あんな真似をしていった季美について、だ。
しかし、そこはぐっと吞み込むことにした。
大人になったからとか、損をするからだとか、そういう理由じゃない。
季美の現在の彼氏は、自分の恋人にあんな明るい髪色をさせるような男だからだ。
スカートの丈も前より短いし、化粧も以前より際どく変化している。
極めつけが、あの暴言だ。
今の男の格が知れるというものだ。
「お前の姉ちゃん、男によって性格変わる女だったんだな」
「はえ?」
「いや、だからさ。付きあっていた俺が言うのもなんだけれど。変わり過ぎだろ」
「……知りません」
そう問いかけると、途端、牧那の顔から無邪気な笑顔が消えた。
代わりに死んだ魚のような目でこちらをにらんでくるし、背中にはどんよりと曇った雨の後のように重苦しい雰囲気を漂わせ始めた。
「気になるなら、戻ったらいいじゃないですか。あの女に」
「……寝取れって持ち掛けたの、お前だよな」
矛盾してないか、言動。
と指摘すると、彼女の眉尻はきっとつり上がる。
もっとも、普段から垂れ目だから、平均的な目線に戻ったいえばそうなるわけだが、とりあえず牧那は不機嫌の塊になろうとしていた。
「そうでしたっけ。うち、物覚え悪いんでー」
「俺も物覚え悪いから、どうだったか忘れたな」
「へえー」
その杏型の大きな瞳が大きく見開かれる。
どうやら自分が忘れるのはよくても、抱介が忘れるのは良くないらしい。
この辺りは姉と変わらず理不尽だな、と改めて認識する。
でも‥‥‥こちらの中身をよく知らない後輩は、姉よりは扱いやすそうだった。
「かつ丼、美味しいな。ありがとう」
「へ? あ、いいえ。こちらこそ」
素直なお礼が戻ってきた。
季美は男によってどうにでも染まる女。
その分、素直で自分の意思に弱い。
牧那はまず、自分ありきの女だろうと、抱介は思う。
どんな相手に出会っても変わらない強い自分が、心の中にあるのだろう。
自分の価値観を持っていて、だからこそ、それにそぐわない相手にはとことん、反発する。
いがみ合い、傷ついてでもそれを受け容れない。
もし、やられたらとことんやり返すタイプだ。どんなに時間をかけてでも報復する。手段を選ばずに‥‥‥あれ?
と、そこまで考えて抱介は気づいた。
この姉妹はさっき見た通り、仲が悪い。
いつ、どこからそうなったのかは分からないが、少なくとも現在はそうだと思われた。
さて何があったんだろうなぁ、と考えながらまた黙ってしまった牧那をじっくりと観察してみる。
髪型は昨日と変わらないし外観もそれほど変化はない。
姉といがみ合ってる時のあのセリフはまともな姉妹関係からかなり外れていた。
何かを押し付けられて反発している、というよりも。
姉が今付き合っている恋人を毛嫌いしている。そんな風にも見て取れる。
外でこうなのだから家の中ではもっと酷いんだろう。
家の中の事は外でも出てくる。
それは逆もまた同じだ。
だからといって、彼女達の中に割って入るような器用さを、自分が持っているとも思えない。
そしてまた、あんなヤンキー崩れのような男から、元カノをNTRする必要性も‥‥‥やっぱり感じないのだった。
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