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第三章 姉妹の確執
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しおりを挟むカツンカツンと、耳元に小さな足音が聞こえる。
嫌な予感がしてその方向に顔を向けてみたら、やっぱり彼女がいた。
相変わらず凹凸の無いボディ。
その胸の前で腕を組み、目を半分ほど細めてこちらを見下したように見ている。
抱介と妹が同じ食卓で料理を食べていることが余程意外だったらしく、そこには驚きの色が含まれていた。
「牧那。こんなところで何をしているの。来ないでって言ったじゃない」
「そうだったっけ、季美こそ何をしているの? 新しく捕まえたおもちゃで楽しく遊んでたんじゃないの?」
「あんたっ‥‥‥!」
怒りを含んだ声が季美から発せられた。
ヒヤリとする展開に抱介の顔は固まる。そんな中、妹は姉より冷静に応対を始める。
「うちら、食事を楽しんでいるの。邪魔しないで」
「食事? 抱介と? ‥‥‥へえー、あんたもつまんな子ね」
「そう。彼はとてもいい人ですよ。季美には勿体ないくらい」
「――っ!」
牧那は季美をお姉ちゃんとは呼ばない。
呼ぶどころか、こっちに近寄ってくるな。触れるな、見える範囲に存在するな。
そんな怒りと嘲りを含んだ声を、牧那は出して威嚇する。
抱介は背筋にざわりと激しい怒りを感じる。
一瞬だけ放たれたそれは牧那の冷ややかな視線に押し負けたように、季美の中へと戻っていった。
「ばっかみたい。姉として忠告してやっているのに」
「余計なお世話。牧は季美みたいに失敗しないから、ご心配なく」
季美は忌々しそうに舌を鳴らして、牧那から視線を退けた。
それから抱介を見つめ、半目になって「ああそうなんだ」とこれまで聞いたことのない、侮蔑に近い音色でそう言うと踵を返す。
ちょっと前に見た時よりさらに髪色を金色に染めた元カノは、抱介と牧那をそれぞれ睨んでから去っていく。
「ばーか」と聞こえるように牧那が言うのが聞こえた。
季美に対してまだ未練があるわけではなかったけれど。
あちら側の食卓から、こちらを見つめている数名の中で別種の目つきをしている男が一人。
抱介から新しく乗り換えた季美の現在の彼氏君が、何やら意味ありげな視線をこちらに投げつけてくる。
そいつは隣に座った季美の太ももに手を当てて、まるでスカートの中を自由自在に出来るんだぞ、と見せつけているような仕草をした。
季美は周りを気にして「ちょっ、止めて」と言うものの、その手をどけようとはしない。
むしろ、こちらに見せつけようとしているみたいで、それを見ていた抱介はどこか滑稽に思えてしまった。
男の手が季美のスカートの裾から内側にするりと忍び込んでいくところまで見届けてから、やれやれと顔を元に戻す。
あんな地雷女と付きあえるのは、相当の物好きか変人か、同類しかいない。
腹を立てるだけ無意味な行動に思えたからだ。
「馬鹿な奴だなー‥‥‥」
「あれ? 怒らないんですか」
「……怒る? 相手にするだけ時間の無駄だろ。もう終わった関係だし、な」
「そう」
向こうの恋人たちのじゃれあいに興味が持てず、抱介はさっさと牧那の方に顔を向けた。
そこにあったのは、なぜか優しい笑顔。
姉との攻防で苛立っているはずの牧那が安堵した微笑みを浮かべている理由が、抱介にはまだわからなかった。
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