NTRするなら、お姉ちゃんより私の方がいいですよ、先輩?

和泉鷹央

文字の大きさ
上 下
34 / 66
第三章 姉妹の確執

30

しおりを挟む

 牧那は男性の怒りというものに、晒された経験があまりないらしい。
 きゃっと呻いて、全身を縮めてしまった。

「あ……すまん。ごめんもらうよ、な? 食べるからさ」
「うっ、はい‥‥‥先輩怖い」
「悪かったって。そんな気はなかったんだよ、悪かったから」

 こちらを見てくる少女の目の端に何かが怒っていたような気がして、すっと心から冷たくて嫌なものが消えた。
 俺のせいじゃないとか、そんな言い訳を感じたわけじゃない。
 泣かせてしまったことへの反省が、今は自分の感情を出すべきじゃないと理性を窘めた結果だった。

「怖い男性は嫌いなんです」
「そうか。悪かったな」

 もう四回ほど謝罪をした気がする。 
 食べるように促されて、牧那はようやく箸を進めた。

 それからしばらく二人の座る食卓は静かだった。
 牧那は食事中に喋らないのに躾けられているのか、黙々と無言のままにかつ丼を処理していた。
 ご飯よりも冷めやすいうどんの方を優先したのが、悪かったのかもしれない。

 その前にサラダも食していたけれど。
 自分が提供したかつ丼に抱介が取り掛かるまで、ずっと牧那は終始無言だった。
 彼が自分の注文した料理を片付け、ようやくそれに取り掛かった時には、相手はさっさと食事を終えてしまっていた。

 じいっと見つめられる居心地の悪さ。
 涙を流させてしまった罪悪感が胸の中からどうにも出て行かない。

「そんなに見るなよ。俺が悪かったからさ」
「別にそんなこと考えていません」
「どんなこと考えてんだ」
「先輩が食べてる姿はとてもかわいいなって。そう思ってます」
「……」

 それが本心なのかそれとも裏側にはとんでもない何かがまだ潜んでいるのか。
 朝早くにゲリラ的に行われた唇の奪い合い。
 そこから始まった自分達のよくわからない馴れ合いにも感じられる、この関係性。
 意味もなく、当たり前のようにそばにいながら、実は何も知らないと距離感。
 これらはどういう風に処理すればいいのか。
 残念ながら、抱介はその方法を知っていた。

 今、この食堂にいる誰よりも。
 多分、一番詳しくて最も迅速で、最も効果が高く、相手との関係性を断ち切ることができる方法を。
 抱介は良く知っていた。

 牧那の姉、季美もこんな感じで自分に接してくることが多かったからだ。

「理不尽の権化」
「は?」
「あいつはいつも俺に対してそうだった」
「ああ……」

 あいつは誰かを彼女は察したらしい。
 その顔がちょっと曇ってしまう。

「いますよあそこに、理不尽の権化」

 そこ、と季美がいるであろう方向を牧那は顎で示した。
 それは抱介の真後ろに当たる場所で、前を向いている限りは、季美を顔を合わすことはない。

「そいつが出て行ってから俺も出て行くかな」
「さーそれはどうですかねー? 来てるし」

 と、無理なんじゃない? みたいなニュアンスを含みつつ発した言葉の中には、奇妙な棘がある。
 近づいてきたもの尺貫くような、そんな勢いのある棘だ。
 それも相手からじゃなくて、自分からミサイルみたいに噴出されそうな、棘だった。

「は? 来てる?」

 その問いかけに、牧那は静かに頷いた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

処理中です...