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第二章 そして一年が過ぎ‥‥‥
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「――ッ‥‥‥っ!」
瞳が大きく見開かれ、声にならない声が喉の奥で暴れているのを、密着している部分を通して抱介は理解する。
三十秒を越えるころになって、ようやく牧那の全身に力が入らなくなってきた。
そろそろ許してやろうかな?
そんな甘い考えが、油断を産んだ。
抱介が牧那の両腕を拘束している左手の力を緩める素振りを見せたら、彼女の広いオデコが猛突進‥‥‥いや、玉砕覚悟の特攻に近い。
そんな勢いで、抱介の額に接触する。
ボコンッ。
肉と肉。骨と骨がぶつかり合う鈍い音が、脳裏に響いた。
「くあっ‥‥‥ッ?」
「ひぐっ」
お互い変な声を出して、それぞれの唇が離れた。
「おえっ、げほほ、げほっ――ヒイッ‥‥‥」
多分さっきの鈍い音は彼女の頭の中にも響いたはずだ。
一方的な劣勢に追いやられていた少女は、付近に充満する酸素を貪るようにして、荒い息を繰り返す。
数回大きく息を吸い、吐きだした後に、それでも床に倒れ込む音しなかった牧那は、まだまだ余力を蓄えていたとしか思えない。
「せっ、センパイ‥‥‥牧のこと。そんなに愛してくれるんですね‥‥‥」
その言葉はなんだか人生の終わりを告げる死神のような重苦しさと、聞く者にとっては恐怖が入り混じっているものだった。
「俺は、お前なんか愛していない。そう言っただろう‥‥‥いって‥‥‥」
「何ですか男の人がだらしない。その程度の怪我で、泣き言を言わないでください!」
とは言いながらも、お互いに片目を閉じ互いの額に残る鈍痛に顔をしかめながら、の言い合いだ。
体裁もなにもあったものではなかった。
抱介がどうにか痛みを我慢して、こいつ、と文句を発しようとしたときだ。
「あ……これ」
「は?」
「これ、一巻ですっ!」
自分の右側面。
抱介の顔のすぐ側にあった探していた書籍の背表紙を見つけて、牧那は悦び勇み、それを手に取る。
出鼻をくじかれてぶすっとした顔にならざるを得ない抱介に、牧那はさっきと同じ体勢で嬉しそうに言った。
「やっぱり先輩は、牧の天使なんですね! いつも、うちに宝物を届けてくれるんだから」
いつも? 宝物?
その時、彼女の言葉の意味をよく理解できないまま、抱介はこのことをうやむやにして、自分たちの荷物を置いてある机に戻った。
嬉しそうな牧那と、不機嫌な抱介。
この奇妙な組み合わせが一つの机の上で実習をしているところを、相変わらず書架の整頓をしていて、図書室の物音には無縁だった司書さんは戻ってきてから、不思議な顔をしてみていたのだった。
瞳が大きく見開かれ、声にならない声が喉の奥で暴れているのを、密着している部分を通して抱介は理解する。
三十秒を越えるころになって、ようやく牧那の全身に力が入らなくなってきた。
そろそろ許してやろうかな?
そんな甘い考えが、油断を産んだ。
抱介が牧那の両腕を拘束している左手の力を緩める素振りを見せたら、彼女の広いオデコが猛突進‥‥‥いや、玉砕覚悟の特攻に近い。
そんな勢いで、抱介の額に接触する。
ボコンッ。
肉と肉。骨と骨がぶつかり合う鈍い音が、脳裏に響いた。
「くあっ‥‥‥ッ?」
「ひぐっ」
お互い変な声を出して、それぞれの唇が離れた。
「おえっ、げほほ、げほっ――ヒイッ‥‥‥」
多分さっきの鈍い音は彼女の頭の中にも響いたはずだ。
一方的な劣勢に追いやられていた少女は、付近に充満する酸素を貪るようにして、荒い息を繰り返す。
数回大きく息を吸い、吐きだした後に、それでも床に倒れ込む音しなかった牧那は、まだまだ余力を蓄えていたとしか思えない。
「せっ、センパイ‥‥‥牧のこと。そんなに愛してくれるんですね‥‥‥」
その言葉はなんだか人生の終わりを告げる死神のような重苦しさと、聞く者にとっては恐怖が入り混じっているものだった。
「俺は、お前なんか愛していない。そう言っただろう‥‥‥いって‥‥‥」
「何ですか男の人がだらしない。その程度の怪我で、泣き言を言わないでください!」
とは言いながらも、お互いに片目を閉じ互いの額に残る鈍痛に顔をしかめながら、の言い合いだ。
体裁もなにもあったものではなかった。
抱介がどうにか痛みを我慢して、こいつ、と文句を発しようとしたときだ。
「あ……これ」
「は?」
「これ、一巻ですっ!」
自分の右側面。
抱介の顔のすぐ側にあった探していた書籍の背表紙を見つけて、牧那は悦び勇み、それを手に取る。
出鼻をくじかれてぶすっとした顔にならざるを得ない抱介に、牧那はさっきと同じ体勢で嬉しそうに言った。
「やっぱり先輩は、牧の天使なんですね! いつも、うちに宝物を届けてくれるんだから」
いつも? 宝物?
その時、彼女の言葉の意味をよく理解できないまま、抱介はこのことをうやむやにして、自分たちの荷物を置いてある机に戻った。
嬉しそうな牧那と、不機嫌な抱介。
この奇妙な組み合わせが一つの机の上で実習をしているところを、相変わらず書架の整頓をしていて、図書室の物音には無縁だった司書さんは戻ってきてから、不思議な顔をしてみていたのだった。
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