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第二章 そして一年が過ぎ‥‥‥
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「これなんですよ」
「えっと‥‥‥」
文庫本。
一冊が普通のそれより倍の厚さがあるような、鈍器のような分厚さだ。
その二巻を取り出して、牧那は抱介に表紙を見せた。
題名は、「エルムド帝国年代史」。
どう見たってライトノベルの題名じゃない。
戦記モノ?
それにしても、題名からして堅くて読み進めるだけでも苦労しそうだ。
眠気を誘い込むことは間違いない、鈍器だった。
「……これを読むのか?」
ペラペラと二巻のページをめくってみた。
中は女性の一人称で、意外と読みやすい。
語りかけるような口ぶりで、キャラクターたちも、珍しい名前で覚えやすく設定されている。
「そうですよ。かなり昔の作品ですけど、私は好きなんです」
今から一巻を読むというのに、何をして好きだって言えるんだ?
その疑問は、すぐに消え去った。
「中学生の頃からこの作者の他の作品が大好きだったんです」
「へえー」
「お姉ちゃんが、教えてくれたんですよ。先輩知らないんですか?」
元彼なのに?
親の目を盗んで部屋の中であんなことをしていたのに?
そう言われたら馬鹿にされているようで、面白くない。
作者の名前は、音羽一人。
おとはね、かと思ったら、おとは、らしい。
この人名に、抱介は心当たりがあった。
四年ぐらい前に刊行され、昨年アニメ化されて、今年の夏には映画が公開されるという、有名作の著者だ。
奥付を確認する。
最初の出版年度は平成時代。
もう、十年以上前だ。
自分が生まれた頃と変わらない。
そう思うとどこか懐かしい感じがして親しみが湧いた。
「それの一巻、あまり出回ってないんです。ネットとかで買おうとしてもプレミアがついていて買えなくて。出版社が倒産して、新しく続刊が出ることもないんだとか」
「よく知ってるな」
「調べたんです。他の作品で好きになったから、全部続いてるんですよこの作者さん作品。同じ世界で、これの一巻がその最初。ターニングポイントらしいんですよ。それを知らないと、後に出た作品のいろんなストーリーの分岐点が、本当の意味で楽しめないんだとか。だから探してるんです」
「この高校の図書室にはあるって?」
「市村先生。あの司書の人に、調べて貰ったから」
市村。そういえば、押印してもらった名前もそうだったっけ。
一年間ここに通っていながら、毎日顔をあわせているのに、初めてあの人の名前を間接的に知った。
そのことにちょっとした驚きを覚えて、それから、なんとなく手伝ってやってもいいかな。そんな気分になる。
ライトノベルの棚は、抱介の身長より高く、横にも長い。
それだけで数千冊くらいありそうなイメージだ。
「題名は分かりましたね? じゃあ、うちはこっちの左側から探していくので、先輩は後ろ棚を探していただけませんか」
「おっ、おう‥‥‥」
いきなり、指示された。
この中から探すのはそもそも時間がかかりそうだ。
最も、そんなに数は多くはないのだろうけれど。
抱介も高校生だから、インターネットで有名になった噂になった作品や、アニメになった作品、マンガ化された作品なんかはよく読むことがある。
しかしこの、牧那が読みたいという、題名は知らない。
ただ、有名シリーズの原点でそれを読んだら、その後に刊行された作品の秘密がたくさんわかると聞けば、胸アツなものがある。
男の子はみんな、宝探しが大好きだ。
「あ、ッと‥‥‥その前に。せーんぱいっ」
何か思い出したかのように、牧那がもってきた脚立をそばに置くと、その上に立って抱介の顔をがっしりと掴んだ。
「手伝ってくれる、ご褒美。前払いですよっ!」
と、はじけるような笑顔で‥‥‥彼女は、襲い掛かってきた。
「えっと‥‥‥」
文庫本。
一冊が普通のそれより倍の厚さがあるような、鈍器のような分厚さだ。
その二巻を取り出して、牧那は抱介に表紙を見せた。
題名は、「エルムド帝国年代史」。
どう見たってライトノベルの題名じゃない。
戦記モノ?
それにしても、題名からして堅くて読み進めるだけでも苦労しそうだ。
眠気を誘い込むことは間違いない、鈍器だった。
「……これを読むのか?」
ペラペラと二巻のページをめくってみた。
中は女性の一人称で、意外と読みやすい。
語りかけるような口ぶりで、キャラクターたちも、珍しい名前で覚えやすく設定されている。
「そうですよ。かなり昔の作品ですけど、私は好きなんです」
今から一巻を読むというのに、何をして好きだって言えるんだ?
その疑問は、すぐに消え去った。
「中学生の頃からこの作者の他の作品が大好きだったんです」
「へえー」
「お姉ちゃんが、教えてくれたんですよ。先輩知らないんですか?」
元彼なのに?
親の目を盗んで部屋の中であんなことをしていたのに?
そう言われたら馬鹿にされているようで、面白くない。
作者の名前は、音羽一人。
おとはね、かと思ったら、おとは、らしい。
この人名に、抱介は心当たりがあった。
四年ぐらい前に刊行され、昨年アニメ化されて、今年の夏には映画が公開されるという、有名作の著者だ。
奥付を確認する。
最初の出版年度は平成時代。
もう、十年以上前だ。
自分が生まれた頃と変わらない。
そう思うとどこか懐かしい感じがして親しみが湧いた。
「それの一巻、あまり出回ってないんです。ネットとかで買おうとしてもプレミアがついていて買えなくて。出版社が倒産して、新しく続刊が出ることもないんだとか」
「よく知ってるな」
「調べたんです。他の作品で好きになったから、全部続いてるんですよこの作者さん作品。同じ世界で、これの一巻がその最初。ターニングポイントらしいんですよ。それを知らないと、後に出た作品のいろんなストーリーの分岐点が、本当の意味で楽しめないんだとか。だから探してるんです」
「この高校の図書室にはあるって?」
「市村先生。あの司書の人に、調べて貰ったから」
市村。そういえば、押印してもらった名前もそうだったっけ。
一年間ここに通っていながら、毎日顔をあわせているのに、初めてあの人の名前を間接的に知った。
そのことにちょっとした驚きを覚えて、それから、なんとなく手伝ってやってもいいかな。そんな気分になる。
ライトノベルの棚は、抱介の身長より高く、横にも長い。
それだけで数千冊くらいありそうなイメージだ。
「題名は分かりましたね? じゃあ、うちはこっちの左側から探していくので、先輩は後ろ棚を探していただけませんか」
「おっ、おう‥‥‥」
いきなり、指示された。
この中から探すのはそもそも時間がかかりそうだ。
最も、そんなに数は多くはないのだろうけれど。
抱介も高校生だから、インターネットで有名になった噂になった作品や、アニメになった作品、マンガ化された作品なんかはよく読むことがある。
しかしこの、牧那が読みたいという、題名は知らない。
ただ、有名シリーズの原点でそれを読んだら、その後に刊行された作品の秘密がたくさんわかると聞けば、胸アツなものがある。
男の子はみんな、宝探しが大好きだ。
「あ、ッと‥‥‥その前に。せーんぱいっ」
何か思い出したかのように、牧那がもってきた脚立をそばに置くと、その上に立って抱介の顔をがっしりと掴んだ。
「手伝ってくれる、ご褒美。前払いですよっ!」
と、はじけるような笑顔で‥‥‥彼女は、襲い掛かってきた。
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