NTRするなら、お姉ちゃんより私の方がいいですよ、先輩?

和泉鷹央

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第二章 そして一年が過ぎ‥‥‥

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「あのなあー」

 抱介は何考えてんだこいつ、とぼやいた。
 それから彼女のことがちょっとだけ心配になる。

「お前、今から高校生活始まるんだからさー。学校には来れるけど、教室に居づらくてどこか他の場所に逃げたいって言うなら、俺と同じようにしてもいいけどさ」
「けど、なんです?」

 答えはわかってますよ。
 彼女はそんな顔をした。

「友達とかクラスメイトの距離とか。そういうもの今から作らないと大変だぞ」
「あーウザいですねー。めちゃくちゃウザいですねー」
「おい、こら」
「お姉ちゃんが先輩をフッた理由、ちょっとだけわかるかも」
「ぐっ」

 思わず拳を固めそうになった。
 いかんいかんこいつの挑発に乗ったらこっちが悪者になってしまう。
 なんとかそう思いとどまった。

「季美のこととお前のことは何も関係ないじゃん‥‥‥」
「でも、約束しましたよね? お姉ちゃんを、するって、ね?」

 左頬の小さなほくろを見せつけるようにして、牧那は顔をよせてきた。

「あの約束、嘘だったんですか。本気じゃなかったんですか。負け犬のままでいいんですか」
「お前こそ面倒くさいよ、マジで」
「でも頑張ったら、本当にうちのこと、全部をあげますよ」
「……」
「それでもやる気が出ない?」

 グイグイと迫ってくる。
 こいつのことは本当に苦手だ。

「わかった、分かったから‥‥‥。とりあえず先に図書室にいって待っててくれ。許可証もらったらすぐにいくから」
「本当に? 約束できます? 先輩のこと、今ひとつ信用できないんですよねー」
 などと、牧那は亜麻色の髪を揺らしながらそんなことをほざいていた。
「約束するって。他に行く場所もないからなー。でもお前の相手をするかどうかはまた別問題」
「けちー」

 まあいっか、とつぶやき、牧那はくるりと踵を返す。

「早く行けよ。二人でいるところを見られたら変な噂がたつぞ」
「それで先輩がやる気になってくれるなら、うちは何も問題ありませんけど。まあ、いってます。じゃ」

 言いたいことを言うだけ言って、牧那はてけてけと早足で駆けだし、あっという間に廊下の角を曲がって消えてしまった。

「……いつから俺は、あいつに人生をトレードされるようになったんだろう」

 なんとなく絶望感に打ちひしがれて、そんなことを口にしてしまう。
 あいつもあっという間にいなくなるんだろうな。
 そんな悲しい想いも噴き出して来た。

 少なくとも季美と長い時間を過ごしたあの図書室。
 一年の最初から夏の始まりまで。
 二人だけの楽しい時間はそこにあったはずなのに。
 別れてしまったら何もかも泡のように溶けて消えてしまった。
 もう一度あんなかなしみを味わうなら、だれとも親しくなりたくない。

「とりあえず許可証、もらいにいくか」

 誰にいうとでもなくそう呟くと、抱介は予定通り職員室を目指して歩き出した。
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