NTRするなら、お姉ちゃんより私の方がいいですよ、先輩?

和泉鷹央

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第一部 プロローグ

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「おはよございます。先輩」
「あ、ああ」
「どうかしましたか?」
「いや、何でもない」

 小さな形の良い頭が揺れた。
 左後ろで緩く結んだ髪色は、落ち着いた亜麻色。
 ブラウンとまではいかないが、いい感じに染まっていて、制服の着こなしもどことなく、ゆるっとしている。
 胸元あたりまで伸びた髪先には軽くシャギーが入っていて、全体的にボリュームのある髪型だった。
 前髪は目元まであり、その奥には杏型の大きな瞳が、収まっている。
 好奇心をたたえた瞳だ。
 なぜかブルーグレーっぽいカラコンをつけていて、見つめていると意識が吸い込まれそうになるから、そっと視線をずらした。
 すっと抜けた鼻梁と、つけまつげをしなくてもいいほどの、長さをほこる二重。
 目元には左側だけに小さなほくろがあって、切れ長、と評するのだろうか。
 垂れ目なくせに、どこか冷たい印象を与える。

「風見‥‥‥先輩、ですよね?」
「え?」

 その冷たい印象がどこから来ているのか理解した。
 唇だ。
 薄くて、リップもとくに縫っていないだろう唇は、細くて常にきゅっと引き締まっていて、頬が緩むことがない。
 喋るとき以外は。

「そうだけど」
「やっぱり」
 
 胸のネームプレートを見れば、それくらいは分かるな。
 抱介は一瞬慌てて、それから思い直した。
 無意味な心の衝動だったと思っていたら、爆弾が降ってきた。

「NTRるゲームしません?」
「はあ?」

 抱介の目の前が真っ暗になった。
 心理的な表現じゃなくて、目の前に新入生のスマホが。
 その真っ黒な画面が突き付けられたからだ。
 長方形の闇の向こうに、ブラウスとブレザーを身にまとった新入生の顔から下が見て取れた。
 ぐいっと右腕を突き上げて、こっちに更にそれを押しつけようとする。
 小柄なくせに、相応しくない胸が、ちょっとだけ揺らいだ。
 薄いパステルブルーの下着が、白の向こうに押し出されていた。

「なに、が‥‥‥言いたい?」
「これ、先輩ですよね?」

 途端、画面がタップされる。
 暗黒の世界に、カラーで男女の姿が写っていた。
 あまり他人には見せたくない、彼女の部屋での一風景が‥‥‥そこには切り取られて保存されている。

「これ先輩と私のお姉ちゃん‥‥‥ですよね?」

 お姉ちゃん?
 これが?
 俺の‥‥‥一年前に俺からNTRされていった、あの‥‥‥槍塚季美やりつかきみが……お姉ちゃん?

「おい。なんだよ、これ。お姉ちゃんってお前‥‥‥季美の妹? 隠し撮りしたのか、俺たちの‥‥‥」
「ええ、そうです。やりました。うちが、やりましたよ」
「なんだよ、お前。どういう意味だ、これ」
「うち、知ってるんですよ。先輩がお姉ちゃんをNTRされ……」
「わわわわっーお前、何言ってんだよ!」

 抱介の悲鳴が一瞬、小さくだが図書室にこだました。
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