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忌み子と奇跡の魔法

伯爵家のその後は――

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 騒ぎを聞きつけて家人たちが集まり、オリビアの秘められていた魔法が行使されたことを人々は知る。
 サンドラは意識を失い、まるで綺麗な人形であるかのように身動き一つしなかった。
 伯爵はオリビアを拘束し、国王に婚約の破棄を申し出る。
 起こってはならないことが起こってしまった。
 よみがえった悪魔は再び封じられなければならない。
 オリビアを殺すべきかそれともどこかに追放するべきか、屋敷の中には置いておけない。
 そう考えた伯爵は、あれ以来ずっと滞在している宮廷魔導士に相談を持ちかけた。

「どうだろう。我が娘を妻にもらってやってはくれないか。そうすればあれの呪いはこれから先もまた新たに災いを生み出すことはないかもしれない」
「つまり自分では面倒を見切れないから、言霊魔法を封じることをできる自分に押し付けてしまえ、と。そういうことですか」
「……受けるのか、受けないのか。どっちなんだ!」

 あからさまに透けて見える本心を言い当てられて、伯爵は言いよどんでしまう。
 彼は、父親という義務を放棄して、叶うことならばこれから先もずっと問題起こすであろう娘を、さっさとどこかに片付けてしまいたかったのだ。
 こんな家にいてはオリビア様も救われない……。

「幸いなことに国王陛下からも、魔女の監視をするようにと申し付けられております。夫婦という形になるならば色々な遠慮は無用になるかもしれませんな。しかし、自分の妻にした場合は伯爵家との縁は切らせていただく。それが条件です」
「いいだろう……。だがそれでは与えようと思っていた辺境の領地を渡すことができないではないか」
「辺境の領地? 今回の問題は妹のサンドラ様が身の丈を超えた願いをしたことが、原因ではないのですか? 辺境の領地は譲れないと、オリビア様は断られたとか。それなのに伯爵様が、オリビア様の意向を無視したために――サンドラ様と口論になったと聞いておりますが?」
「そっ、それは――っ! 王家の嫁になればより多くのものが手に入るではないか。何より、辺境の土地はわが伯爵家の国境を守る砦がある場所なのだ。あの場所を失えば、我が家の国内での立場が危うくなる――ッ」

 つまり国境警備をするためにあの土地は必要で、その重要な任務を持つ土地の権利を王家に嫁ぐ娘に与えたら、権利はそのまま王家のものとなり、伯爵家の威信は地に堕ちる……。
 そういうことかなんとくだらない。
 宮廷魔導師は話の裏側にあった真実を知ると、あまりにもバカバカしくて一笑に付した。
 国王陛下は予測できない危険がある言霊魔法を使ってでも、この国を豊かにしようと考えていた。
 オリビアを王族に迎えたら言霊魔法の利用方法をめぐって様々な問題が起こるだろう。そんな中に、辺境のたったひとつの国境警備の問題など、引き受けたがるはずがない。

「伯爵殿、物事を正しく知ることができないということは、あまりにも愚かなことですな」
「なんだとっ!?」
「いやいや失礼。それでは本日、只今をもってオリビア様は自分のこの手で、王都の我が屋敷へとお連れいたします。彼女のことを慕ってくれている侍女の方々とともに」
「……勝手にしろ。それと、サンドラの方はどうなる? あれはここ最近明るかったのに、また昔のように引きこもりがちなじめじめとした暗い性格になってしまった」
「さあそれは分かりませんね。それは本来のサンドラ様なのではありませんか? 殿下からの婚約という奇跡を受けたその日から破綻したあの日まで、この家には神の祝福がもたらされていたのかもしれませんね」
「それはどういう意味だ?」
「あなたには……いいえ、伯爵家にはもう関係がないことですよ。それでは失礼」

 意味ありげなそんな台詞を残し、宮廷魔導師はオリビアを連れて王都にある自分の屋敷へと戻ってしまった。
 サンドラは伯爵が言うとおり、以前のままの彼女に戻ってしまい、外見だけは国内でも有数の美しさを保つが、人見知りと引っ込み思案と、姉を追い込んでしまったという自責の念を抱えてそれから後も結婚することはなかったという。
 伯爵は辺境の領地に避暑に訪れた際、突如として戦争を仕掛けてきた隣国の兵士たちに囚われてしまったらしい。
 伯爵家の人々はオリビアを失ったあと、不幸に次ぐ不幸に見舞われて散々な目にあったということだった。

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