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忌み子と奇跡の魔法

姉の決意

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「家臣ができましたら、土地が必要になります」
「それはそうかもしれないわね。それとこれがどうつながるというの?」
「――ですからっ! 家を出るお姉さまの領地なら、私が受け継いで家臣たちに与えるのも普通かと」
「あのねえ、サンドラ。常識を欠いた発言はいい加減にしなさいッ。何でもかんでも欲しがれば貰えるのが当たり前なんて考えないで!」
「……お姉さま、それは当たり前です」
「何ですって!?」
「お姉さまがいなくなれば、家督を継ぐのはこのサンドラです。出来がいい家臣や領地を私がいただいてなにが悪いのですか」
「あなたって子は……ッ。家督を継ぐのは、正しくはあなたの旦那様になられる方なのよ」
「いえ――、私は婿を取る気はありません。お姉さまがいなくなったら出来ない、馬の世話も家臣の管理も、領地の経営も……」

 ね? とサンドラは頬をにんまりと緩めて嬉しそうに目を見開く。
 無能な姉にかわって有能な自分がそれをするのだから、さっさと寄越しなさい。
 そこには、そんな瞳の色があった。
 オリビアは堪り兼ねて、ついつい声を荒げてしまう。

「――できるはずがないでしょう! あなたなんかにできるはずがないわ。わがままで自分勝手に生きてきた、そんなあなたにはねッ!」
「私ができるかできないかは関係ありません。私は家臣たちに命じて、お父様とお母様がそれを補佐してくださいますし、それに――」
「それに、何ですか」
「それに、私にはお姉さまよりももっと、幸せになる権利があるのですから」
「あなた……」

 ここまではっきりとものを言う妹なんて、これまで見たことがなかった。
 欲望の限りを知らない幼さは――とんでもない怪物を生み出してしまったのかもしれない。

「下さらないのですか? なら、お父様にお願いするだけですわ」
「そこまで言うなら、お父様に相談していらっしゃい。まだあなたには早いと言われるに違いないわ――」

 この時、オリビアは本当にそう思っていた。
 サンドラは両親が甘やかし過ぎたせいで、限度と言うものを知らないのだ。
 最近、サンドラの欲しがりは度を越している……。
 しかし――父親が出した許可は……妹にオリビアの領地を譲れというものだった。
 譲らなければならないのだろうか? 祖母とのゆかりの地なのに?
 返事に迷い、父の伯爵には返事を数日、待ってもらうことにした。
 このままではいけない。
 自分の大事なものたちが――何もかも、あの子に奪われてしまう。
 オリビアはようやく、妹の甘えを正す決意をする。

「サンドラ、ちょっといらっしゃい」
「……? はい、お姉さま」

 サンドラは訪れていた宮廷魔導師と戯れていた。
 宮廷魔導師のライオットはまだ若い二十代。癖のある赤毛に、人懐っこい黒の瞳が印象的な、無口の大柄な青年。
 王子ジョシュアと共に来ることもあれば、彼だけで訪ねてくることもある。
 オリビアの禁忌の魔法を封じる結界の維持と管理が、彼の主な仕事だった。
 
 いつもとは違う、姉の毅然とした態度を見て、妹は違和感を感じたのだろう。
 サンドラはライオットの作業にあれこれと質問し、無邪気な笑顔を見せていた状態から、昔の引っ込み思案な彼女に戻ったかのように、静かで清楚で可憐な令嬢を演じるかのごとく近寄って来た。

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