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第四章 故郷の英雄
第44話 殿下の贈り物(売り払ってしまえ)
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「荷馬車? どんな?」
「いやあ、それが‥‥‥何といいますか。聖女様に献上するために諸侯から贈られた品の多くを載せたものでして。貴重品ですから、それなりに警備を厳重にしていたところを、逆に大人数でやられました。面目ない」
「死人がでなかっただけ、ましですわ。ご苦労様」
ねぎらいの言葉をかけ、数人をこの場に残るように言い、後は持ち場に戻らせる。聖女は台神官をにらみつけて言った。
「お当様? 思わぬところで犠牲者がでたみたい。獣人たちですって、それも移動しながら消えたそうよ。魔導師の仕業とみていいと思いますけど。宝珠が荷馬車の中に無いって知ったら、またやってきそうね」
うーん、と大神官は頭を悩ませる。
城塞都市ラクールは女神教の土地なのだ。
いわば、王国の中にある、治外法権のような場所なのだ。
そこで、女神教の象徴である聖女に刃を向けるのは、どうにも賢くない。
教皇たちはまだ内部の人間だし、彼らだって聖女を脅しはしても、殺そうとはしない。持ち物だって奪おうとはしない。それは不敬に当たるからだ。
「あいつらにとって、信仰心などないのかなあ」
と、大神官がぽつりとそんなことを口にする。
獣人の間にも広く女神教は浸透している。特に、冬の大地に春の温かさを持ってきた大神官などは、王都を歩くたびに深い敬愛を示されてきた。
「あるわよ。ただ、フレンヌが従えている獣人の派閥と、普通の一般の彼らとちょっと違うから」
「違う? どういうことだ」
「……ほら、お父様。随分、昔だけれど。フレンヌがガスモン師の養女になって、大量の獣人たちが奴隷から解放されたことがあったでしょう?」
「……あの、実験から解放された件、か」
確かに、と大神官は頷いた。
あの事件で救われた獣人は百を超える。その忠誠心‥‥‥主に王太子に向けられたものだが、間にフレンヌがいることは想像にかたくない。
「宮廷魔導師長はあくまでお飾りというか。自分が権力を狙っているようで、実は義理の娘に利用されていると気づいていないだけ、というところか」
どちらにせよ、無抵抗な信徒たちにまで、疑惑の眼差しが向けられていき、今度は彼らにまで宝珠探しの名目で傷つけられたのでは、ここまでつき従ってくれた想いを裏切ることになる。
「あの若造と話を付けるか」
「今度は何を言いだすの、お父様。盗むとか、話を付けるとか」
「いいから付いてこい。道すがら話してやる」
そう言うと大神官は勢いよく立ち上がる。
タイミングよく入り口が開き、先ほど注文した料理が、数人の手によって運ばれてくるところだった。
「あー……いや、いい。お前たちはそこで待て」
戦いに疲れた騎士たちにそう命じると、大神官は最後に運ばれてきた皿が、部屋に入る前にそれだけを小脇に抱えて歩き出した。
「行儀が悪い」
「うるさい。俺の食事だ。やらんぞ」
「要りません! それで、計画は?」
魚の香草焼きを一切れ掴むと、それを口に放り込んで、大神官は食べながら話を始めた。
「南の分神殿を迂回して、一気に、国境沿いの神殿に行く」
「意地汚い‥‥‥それで」
「パルテスには連絡しておく。先遣隊をそれから送り、安全が確保できれば」
と、その手を指揮棒のようにして振りながら続けた。
「信徒をここの転送装置でどんどん、あちらに送りこむ。南の分神殿は無視だ。魔導ネットワークに介入されないように、私とお前の上位認識コードを利用する。最重要機密として、転送装置を運用するんだ。王都からもどこからも勝手に操作はできない。そういうように組んである」
「組んであるって‥‥‥まるでこうなることを予期したかのような、そんな言い方ね」
大神官は手羽先に食らいついていた。
「どこだってやる。王族だってそれくらいしている。国が崩壊した時、組織が滅亡しそうな時、にげだすのはいつだって上の人間だ。そのための準備さ、それでエミリー」
「あ、はい。大神官様」
「侍女長にしてやる。いや、聖女の補佐官でもいい。大神官と聖女がいない時には全権を担う存在だ。あーいや、もう一人。そうだな、神殿騎士から選ぼう。とにかく、お前ともうひとりで抑え込め」
意味は分かるな、とジョセフはエミリーを見据えた。
「いやあ、それが‥‥‥何といいますか。聖女様に献上するために諸侯から贈られた品の多くを載せたものでして。貴重品ですから、それなりに警備を厳重にしていたところを、逆に大人数でやられました。面目ない」
「死人がでなかっただけ、ましですわ。ご苦労様」
ねぎらいの言葉をかけ、数人をこの場に残るように言い、後は持ち場に戻らせる。聖女は台神官をにらみつけて言った。
「お当様? 思わぬところで犠牲者がでたみたい。獣人たちですって、それも移動しながら消えたそうよ。魔導師の仕業とみていいと思いますけど。宝珠が荷馬車の中に無いって知ったら、またやってきそうね」
うーん、と大神官は頭を悩ませる。
城塞都市ラクールは女神教の土地なのだ。
いわば、王国の中にある、治外法権のような場所なのだ。
そこで、女神教の象徴である聖女に刃を向けるのは、どうにも賢くない。
教皇たちはまだ内部の人間だし、彼らだって聖女を脅しはしても、殺そうとはしない。持ち物だって奪おうとはしない。それは不敬に当たるからだ。
「あいつらにとって、信仰心などないのかなあ」
と、大神官がぽつりとそんなことを口にする。
獣人の間にも広く女神教は浸透している。特に、冬の大地に春の温かさを持ってきた大神官などは、王都を歩くたびに深い敬愛を示されてきた。
「あるわよ。ただ、フレンヌが従えている獣人の派閥と、普通の一般の彼らとちょっと違うから」
「違う? どういうことだ」
「……ほら、お父様。随分、昔だけれど。フレンヌがガスモン師の養女になって、大量の獣人たちが奴隷から解放されたことがあったでしょう?」
「……あの、実験から解放された件、か」
確かに、と大神官は頷いた。
あの事件で救われた獣人は百を超える。その忠誠心‥‥‥主に王太子に向けられたものだが、間にフレンヌがいることは想像にかたくない。
「宮廷魔導師長はあくまでお飾りというか。自分が権力を狙っているようで、実は義理の娘に利用されていると気づいていないだけ、というところか」
どちらにせよ、無抵抗な信徒たちにまで、疑惑の眼差しが向けられていき、今度は彼らにまで宝珠探しの名目で傷つけられたのでは、ここまでつき従ってくれた想いを裏切ることになる。
「あの若造と話を付けるか」
「今度は何を言いだすの、お父様。盗むとか、話を付けるとか」
「いいから付いてこい。道すがら話してやる」
そう言うと大神官は勢いよく立ち上がる。
タイミングよく入り口が開き、先ほど注文した料理が、数人の手によって運ばれてくるところだった。
「あー……いや、いい。お前たちはそこで待て」
戦いに疲れた騎士たちにそう命じると、大神官は最後に運ばれてきた皿が、部屋に入る前にそれだけを小脇に抱えて歩き出した。
「行儀が悪い」
「うるさい。俺の食事だ。やらんぞ」
「要りません! それで、計画は?」
魚の香草焼きを一切れ掴むと、それを口に放り込んで、大神官は食べながら話を始めた。
「南の分神殿を迂回して、一気に、国境沿いの神殿に行く」
「意地汚い‥‥‥それで」
「パルテスには連絡しておく。先遣隊をそれから送り、安全が確保できれば」
と、その手を指揮棒のようにして振りながら続けた。
「信徒をここの転送装置でどんどん、あちらに送りこむ。南の分神殿は無視だ。魔導ネットワークに介入されないように、私とお前の上位認識コードを利用する。最重要機密として、転送装置を運用するんだ。王都からもどこからも勝手に操作はできない。そういうように組んである」
「組んであるって‥‥‥まるでこうなることを予期したかのような、そんな言い方ね」
大神官は手羽先に食らいついていた。
「どこだってやる。王族だってそれくらいしている。国が崩壊した時、組織が滅亡しそうな時、にげだすのはいつだって上の人間だ。そのための準備さ、それでエミリー」
「あ、はい。大神官様」
「侍女長にしてやる。いや、聖女の補佐官でもいい。大神官と聖女がいない時には全権を担う存在だ。あーいや、もう一人。そうだな、神殿騎士から選ぼう。とにかく、お前ともうひとりで抑え込め」
意味は分かるな、とジョセフはエミリーを見据えた。
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