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第四章 故郷の英雄

第42話 最高の悪役(悪の根はなかなか絶えません)

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「命令を発してしまったからには、仕方ない。新たにそれが間違いだったという内容を書簡にして送ることにしよう」

 良かった、とその決断を聞いてフレンヌは安堵する。
 父親にまで咎めが行かなくてよかった。でも、聖女には戻ってきて欲しくない。ルディは私だけも男性だから――そこを譲るつもりはないようだった。

「聖女様たちは‥‥‥その、民衆を惑わせた罪は‥‥‥どう、なさいますか」
「何? そんなものあるはずがないだろう。僕が行かせて構わないと、そう言ったのだ。どこに罪がある」
「ですが、父はそんなことを知らず‥‥‥」
「まるでこれからの決めごとには、すべてガスモンを通せ、そんなようにも聞こえるな」
「あ……っ。いえ、それはその」

 慌てて取り繕おうとしたフレンヌに、ルディは冷たい視線を向けた。それはあの時、カトリーナに出て行けと通告した時のそれによく似ていた。
 ひゅっ、とフレンヌの喉が鳴る。自分も追放される、と思ってしまうほどに、それは恐ろしいものだった。

「結婚したら、岳父になる。だが、政治的な実権を与えるつもりはない。そう言っておけ。しかし、五千枚か」
「はい、かしこまりました。殿下」

 フレンヌがうなだれて挨拶もそこそこに部屋を辞そうとする。

「おい待て。まだ話がある」

 回収できないときにはガスモンに責任を問い、表舞台から降りてもらうもの悪くない。ルディはそう心の中で、多分、無理であろう回収の結末を待つことに方針を決めた。

 それはつまり、出国税を取り立てるということで――事態はカトリーナが予見したように、聖女たちにとって最悪の方向に向かって動き出していた。

「話、ですか。結界についてなら」
「違うそうじゃない。あれから、あいつを追い出してから三週間もたつ。国全体の動きはどうなっている? 気候は、土地の状態は? その辺りの報告など、何も受けていない。ただ上手く行きそうです、の一言しかあがってこない。お前からも、ガスモンからも、だ」
「そうです、か。てっきり、父から詳細な報告が上がっているものかと‥‥‥」

 と、フレンヌは語尾を濁した。報告できることなど、少ししかない。良いことなんてほとんどない。あるのは悪いことばかりだ。でも、結果がはっきりと出ているわけでもない。
 それを王太子の耳に入れるのは、まだ早い気もしていた。

「ガスモンははっきりとは言わない。だが、空が青さを増していることくらい、僕にでも分かることだ」
「え……」
「ここよりも北の帝国の空はより青い。つまり、寒さが澄んだ空気を集めるのか、その辺りは分からないが‥‥‥古老に問えば過去、寒い時期の王国も同じように今よりも空は澄んでいたと聞いた。そして、それに戻りつつある、とも言われた。僕はそれは間違っていないと思う。お前はどうだ、フレンヌ」

 その古老が誰かは分からないけれど、多分、言っていることは間違っていない。フレンヌの結界に関する知識はそう告げていた。王太子は彼女の沈黙を肯定と受け止めたらしい。

「……税金が払えなければ、不法出国だ。扇動者たちにもそれなりに罪をあがなってもらわないといけなくなる。本意じゃない。だが、あれがいなければ結界が元のように機能しないのなら……」

 ルディは何かを決断し、フレンヌに強い意志の瞳を向けた。

「宝珠探し、そちらを先にするべきだな。地下にでも、誰かに見えない場所に今度は安置するとしよう。見つかればの話だが」
「しかし、その制御は?」
「いるじゃないか、扇動者たちが。地下の牢はこれまでのように快適ではないかもしれないが、国の為だ。仕方ないだろう?」
「ええ、殿下。その通りですね」

 その言葉の意味を正しく理解して、フレンヌはあくどい笑みを浮かべた。
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