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第九話
しおりを挟む中身は‥‥‥多分、あの子の身の回りの品々?
いやそれだとすると追い出すことが前提となるし‥‥‥あれ?
と、わたしと姉が首を傾げると、母は言った。
「私の若い頃に嫁いできた際の、衣類をまとめております。それくらいなら、粗大ごみに出したとでも思えば、損をした気になりませんから。さ、御二人とも、お帰りはあちらですよ」
「いや、ちょっと待ってくれ! 子爵婦人、これでは僕は家に戻れない。せめて持参金をっ――」
「待って、お母様!? なんてひどい仕打ちをなさるの! それでも母親? 娘の結婚っ‥‥‥」
聞こえて来たのはそこまでだ。
家人たち、特に父親の部下として邸宅の守りに付いている騎士たちが、今夜は数多く食堂にいたのも気になってはいたけれど。
てっきり、身分の高い人物が来るからその警護の人数を増やしたのかと思ったら違った‥‥‥。
「追い返す、ため。でしたの‥‥‥」
「あら、言わなかったかしら?」
「何も聞いてないわよ! 心臓に悪いことをさせないで、お母様!」
わたしは呆れやら、安堵やら妹から受けた仕打ちの惨さやらで、もういろいろと駄目になってしまい、食卓に倒れ込みそうになっていた。
姉はこうするならすると事前に話してくれるべきだと母に詰め寄り、「そんなことをしたら、短気なお前では芝居ができないでしょう?」、と言い返されて黙ってしまう。
追い出されたエマのことなんて、いまは頭の中になく。
ただ、裏切られたどうしようという地獄の業火のようなものが、心の中を巡り巡っていた。
そんなわたしの炎を、母の呑気な一言が鎮火させる。
「ああ、それからねえ、ジゼル」
「……なあに、お母様。いきなり婚約破棄されて、妹に婚約者を寝取られたかもしれない哀れな娘に何になにか御用?」
「それだけ言い返せるなら、まだまだ大丈夫。あなたも本気じゃなかったってことよ」
「そんな酷い。傷口に塩を塗り込まないで‥‥‥」
わたしの目の前に、侍女がお盆に乗せた手紙が一枚。
中を改めると、お父様のしたためたものだった。
「戦争が一段落して、あなたのユーゴが手柄を挙げ、昇進で王都に勤続になるそうよ」
それを見て、わたしの心はざわめく。
良い方に‥‥‥ざわめいた。
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