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第三話
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「でも、私は彼になびかなかった」
「もう‥‥‥フォローにもなってないわよ! ジゼルが報告があるって言うからこの席を設けたのに!」
姉はそう母をしかってくれた。
妹はやれやれ、とまた首を振り、シュラスが手づから小皿に取ってくれた料理を、口に運ぶ。
彼は上に兄上様が御二人、下に弟と妹が一人。
合計、五人兄妹と聞いていたから、このときは年下の扱いも上手いのだな、としか思わなかった。
「もちろん、分かっていますよ。ほら、ロージ。お前こそ、席を中腰に立たないの。このお話にはちゃんとした教訓があるのです」
「……だって、ジゼル。きちんと聞いておいた方がいいかもよ」
姉がつき合いきれないと母を見てから、わたしに話題を振った。
そこでこちらに振らないで、と心で叫びたかったが仕方がない。
最後は、ホストとホステスに、会話は戻ってくるものだ。
今夜の主人公はわたしと彼で、家族たちはその報告を聞くために集まってくれた、お客様。
もてなしをしなければならないのは、わたしたちの方だった。
「お母様、その話題はちょっと」
「まあ、いいじゃないか。ジゼル。お母上も、教訓があると言われている。聞いてみて悪いことはない気がするよ」
母に向けた戸惑いの手を、彼はそっと包み込むようにして、そう言ってくれた。
シュラスがそう許可を出すなら、わたしに拒否権はない。
「そう、ね。ではお母様。教えてください。その教訓を」
「あら知りたいの? いま嫌そうな顔をしていなかった」
「そんな意地悪を言わないで‥‥‥」
お酒が入った母はしたたかに酔っていた。
それは礼節を崩すほどではなかったけれど、どことなくこの婚約に反対しているようにも。
そとでいて、なにか試練を与えるようにしているかのようにも見えてしまう。
母は侍女にグラスを向ける。新しくワインを注がせると、その香りを楽しむようにして一口含んだ。
そして、シュラスをじっと見つめる。
「お父様に、お話したの。その水兵のことを。そうしたらどうなったと思う?」
「……無神経すぎて、知りたくもないわよ。お母様、もう黙ってくださいな」
「本当、お姉様の言うとおりだわ」
「私もロージお姉様に賛成」
わたしたち姉妹は三者三様にそう言ったが、彼はそうでもなかったらしい。
興味を注がれたらしく、「それで、どうなりましたか」と聞きいっていた。
どうやら、紳士のたしなみ、というやつを知りたくなったのかも、とロージお姉様はあとからぼやいていた。
わたしは、この子爵家は家族そろってなんて非常識なんだろうと、疑われはしないかと思い心が休まらなかった。
「もう‥‥‥フォローにもなってないわよ! ジゼルが報告があるって言うからこの席を設けたのに!」
姉はそう母をしかってくれた。
妹はやれやれ、とまた首を振り、シュラスが手づから小皿に取ってくれた料理を、口に運ぶ。
彼は上に兄上様が御二人、下に弟と妹が一人。
合計、五人兄妹と聞いていたから、このときは年下の扱いも上手いのだな、としか思わなかった。
「もちろん、分かっていますよ。ほら、ロージ。お前こそ、席を中腰に立たないの。このお話にはちゃんとした教訓があるのです」
「……だって、ジゼル。きちんと聞いておいた方がいいかもよ」
姉がつき合いきれないと母を見てから、わたしに話題を振った。
そこでこちらに振らないで、と心で叫びたかったが仕方がない。
最後は、ホストとホステスに、会話は戻ってくるものだ。
今夜の主人公はわたしと彼で、家族たちはその報告を聞くために集まってくれた、お客様。
もてなしをしなければならないのは、わたしたちの方だった。
「お母様、その話題はちょっと」
「まあ、いいじゃないか。ジゼル。お母上も、教訓があると言われている。聞いてみて悪いことはない気がするよ」
母に向けた戸惑いの手を、彼はそっと包み込むようにして、そう言ってくれた。
シュラスがそう許可を出すなら、わたしに拒否権はない。
「そう、ね。ではお母様。教えてください。その教訓を」
「あら知りたいの? いま嫌そうな顔をしていなかった」
「そんな意地悪を言わないで‥‥‥」
お酒が入った母はしたたかに酔っていた。
それは礼節を崩すほどではなかったけれど、どことなくこの婚約に反対しているようにも。
そとでいて、なにか試練を与えるようにしているかのようにも見えてしまう。
母は侍女にグラスを向ける。新しくワインを注がせると、その香りを楽しむようにして一口含んだ。
そして、シュラスをじっと見つめる。
「お父様に、お話したの。その水兵のことを。そうしたらどうなったと思う?」
「……無神経すぎて、知りたくもないわよ。お母様、もう黙ってくださいな」
「本当、お姉様の言うとおりだわ」
「私もロージお姉様に賛成」
わたしたち姉妹は三者三様にそう言ったが、彼はそうでもなかったらしい。
興味を注がれたらしく、「それで、どうなりましたか」と聞きいっていた。
どうやら、紳士のたしなみ、というやつを知りたくなったのかも、とロージお姉様はあとからぼやいていた。
わたしは、この子爵家は家族そろってなんて非常識なんだろうと、疑われはしないかと思い心が休まらなかった。
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