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そして、冬の寒さも強くなったある昼過がりの午後。
学院の広間で、私達は再会する。
アンソニーは片手をイブ王女の腰に添えて、紳士然として腕を絡め歩いていた。
私達が出会ったそれは単なる偶然に過ぎなかったのだけれど――この頃になれば、もうアンソニーは我が家を訪れることはなかったから、すでにその約束も終わったものだと。
父親同士が話をつけたものだとばかり思っていた。
あちらは単なる公子から奇跡の様な偶然で次期王太子となった元婚約者と――陛下の肝いりでその婚約者になった王女様。
こちらは身分の低い下級貴族からようやく伯爵令嬢になれた、単なる女。
その差は歴然としてた。
「待ってくれないか、ロゼッタ」
「……え?」
道を譲り、その横を一礼して通り抜けようとした私を彼は呼び止める。
振り返ると、大切な存在を奪わないで! そう目で語り掛ける王女の姿があった。
「話が……あるんだ。まだ、あの約束は――」
「公子? いいえ、殿下。それはもう殿下の御心のままに成されて宜しいかと」
今更なに? まだ、愛しているとでも? その申し出を受けた時、本当に私には、我が伯爵家に幸福が待っているとでも?
彼の悪い癖が出ようとしていた。
返事によっては王女の顔つきが冷酷なものに変化する。
彼女の顔をチラリと伺ったとき、それは理解できた。
「何? 御心のままに、とは何を言って……」
「約束は公子と伯爵令嬢とのものでございますから。殿下には――ご理解を」
「そうか……」
「はい、殿下」
良かった。
王女様の笑みに余裕とアンソニーに対する微笑みと、私に対する優越感が見て取れる。
これで――伯爵家は安泰だ。
私はそう思った。
「では、……スィーリア伯爵令嬢ロゼッタ」
「はい、殿下」
「公子だった僕との……婚約破棄を命じる」
これを言えという、王女様の指示だったのもしれない。
彼女はうねるような金髪の奥に青い炎を讃えた瞳でこちらを冷たくにらみつけてくる。
きちんと受けなければ、私の未来も危うい。
じゃあ……返事をして差し上げます、アンソニー。
貴方への思いを込めて。
「はい、殿下。貴方は私にとって世界で最も大事な男性です。さようなら、アンソニー」
「えっ……」
「なっ!?」
アンソニーとイブ王女のくぐもった声がその場に響いた。
冬の冷えた空気が恐ろしいまでに嫉妬の炎を冷やしてくれる。
「では、王太子殿下、王女殿下。どうぞ、末永くお幸せに」
私は一礼すると、どす黒い闇色の炎を背中に背負った王女の隣をすり抜けた。
どれほど地位や権威をかざしても、奪い取れないものがこの世にはあると思い知ればいいのだ。
こうして、私の初めての恋は終わりを告げたのだった。
学院の広間で、私達は再会する。
アンソニーは片手をイブ王女の腰に添えて、紳士然として腕を絡め歩いていた。
私達が出会ったそれは単なる偶然に過ぎなかったのだけれど――この頃になれば、もうアンソニーは我が家を訪れることはなかったから、すでにその約束も終わったものだと。
父親同士が話をつけたものだとばかり思っていた。
あちらは単なる公子から奇跡の様な偶然で次期王太子となった元婚約者と――陛下の肝いりでその婚約者になった王女様。
こちらは身分の低い下級貴族からようやく伯爵令嬢になれた、単なる女。
その差は歴然としてた。
「待ってくれないか、ロゼッタ」
「……え?」
道を譲り、その横を一礼して通り抜けようとした私を彼は呼び止める。
振り返ると、大切な存在を奪わないで! そう目で語り掛ける王女の姿があった。
「話が……あるんだ。まだ、あの約束は――」
「公子? いいえ、殿下。それはもう殿下の御心のままに成されて宜しいかと」
今更なに? まだ、愛しているとでも? その申し出を受けた時、本当に私には、我が伯爵家に幸福が待っているとでも?
彼の悪い癖が出ようとしていた。
返事によっては王女の顔つきが冷酷なものに変化する。
彼女の顔をチラリと伺ったとき、それは理解できた。
「何? 御心のままに、とは何を言って……」
「約束は公子と伯爵令嬢とのものでございますから。殿下には――ご理解を」
「そうか……」
「はい、殿下」
良かった。
王女様の笑みに余裕とアンソニーに対する微笑みと、私に対する優越感が見て取れる。
これで――伯爵家は安泰だ。
私はそう思った。
「では、……スィーリア伯爵令嬢ロゼッタ」
「はい、殿下」
「公子だった僕との……婚約破棄を命じる」
これを言えという、王女様の指示だったのもしれない。
彼女はうねるような金髪の奥に青い炎を讃えた瞳でこちらを冷たくにらみつけてくる。
きちんと受けなければ、私の未来も危うい。
じゃあ……返事をして差し上げます、アンソニー。
貴方への思いを込めて。
「はい、殿下。貴方は私にとって世界で最も大事な男性です。さようなら、アンソニー」
「えっ……」
「なっ!?」
アンソニーとイブ王女のくぐもった声がその場に響いた。
冬の冷えた空気が恐ろしいまでに嫉妬の炎を冷やしてくれる。
「では、王太子殿下、王女殿下。どうぞ、末永くお幸せに」
私は一礼すると、どす黒い闇色の炎を背中に背負った王女の隣をすり抜けた。
どれほど地位や権威をかざしても、奪い取れないものがこの世にはあると思い知ればいいのだ。
こうして、私の初めての恋は終わりを告げたのだった。
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