残念ですが、殿下。浮気ばかりするあなたには愛想が尽き果てました。これにて絶縁させて頂きます!~婚約破棄&国外追放?お好きにどうぞ~

和泉鷹央

文字の大きさ
上 下
31 / 32
第三章

平民へ

しおりを挟む
 ねえ、とアンナローズは顔を上げて問いかけるようにラッセルを見る。
 理解はできるけど、納得はできない。
 まだそんな顔をしていた。

「ラッセル……?」
「なんだい、お嬢様? 不安か?」
「不安はあるわよ」
「へえ」

 素直になったもんだな。
 まあ、そうそう性格なんて変わりはしない。
 彼女も俺もそうだ。
 どこまで寄り添ってやれるか、ラッセルはこの旅が始まってからずっと心に抱いてきた彼なりの不安を、そっとに心にしまい込むとアンナローズに微笑んでやる。
 俺が不安を見せてはいけないのだ。
 必ず守ると、そう誓ったのだから。

「何よ?」
「いや、素直になったもんだな、とね」
「……この格好でいいのかしら? 試験……」
「そうだな。……俺はいいと思うが、実技がある」
「実技?」
「試験って何をするものなの?」

 アンナローズの頭にあったのは王宮や学院で何度となく受けてきたような、数学や古代の詩や歌の暗唱だし、あとは魔法による城の籠城戦の方法だ。
 王国のような周囲を大国に囲まれた土地では、多くの上級貴族は辺境の守備や管理運営を代々任されることが多い。伯爵位以下の子弟子女に混じり、アンナローズも籠城戦だの弓矢だの、領地の経営だのそんなことも教えられたものだ。
 それよりも厳しいなら受からないかもしれない。
 そんな心配が心を不安で覆っていた。

「試験か、とても嫌なものだったな」
「嫌なもの? 銃士だった貴方でも難しいものだったの? 文字も読め、数学も出来て、戦いや魔法にも明るいあなたでも?」
「まあ――そう、だな。この地方独特の礼儀作法などもあったし、知らない言葉もでた。そうそう、飛空艇の操舵なんてとても辛いものだったな」
「飛空艇!?」
「そう――飛空艇。空に上がるのが怖い俺にはとてもとても恐ろしいものだった。教官がとても厳しい人でな、あの空中で三回転されられて遊ばれた日には死ぬかと思ったよ」
「そんなっ……なんて可哀想なラッセル。だから、あの時あんなにつらそうな顔をして戻って来たのね……」

 馬には乗れても、馬車の扱いすら知らないのにそんなものまでしないといけないの?
 アンナローズの顔は更に不安でおおわれてしまう。
 ラッセルはすまない、言えなかったんだ。
 そう言い、とてもつらそうな顔を――いや、したたかな演技を続けることにした。

「ああ……大変だったよ、アンナローズ。お嬢様のために頑張らなきゃいけないって自分を鼓舞したんだ。誉めてほしいくらいだが、それは言うべき相手じゃないしな。俺はアンナローズを家族だと思っているが、君からすればそうじゃない……俺は単なる使用人の一人にすぎないからな」
「え? ちょっと待って? そんなことは思ってないわよ。貴方だって大事な家族の一員だってそう――」
「そう? 思っていないだろ?」
「違うわよ、ちゃんと思ってます!」
「でも、俺を見捨てて行こうとしたよな? 自分だけで生きていく、そう勝手に決めてさ?」
「だってあの時は……違うの、そんなこと思って言ったんじゃないの!」
「じゃあ、何を思って言ったんだ?」
「だって、だって! 私だってちゃんと生きていけるって! あんな役立たずな王太子なんていなくたって、身分なんかなくても生きていけるって! そう――証明したかった……」
「ふうん。ならどうするんだ?」
「……ギルドの試験に行きます……厳しくても頑張って来るから……」
「そうだな? 頑張れよ?」
「うん……」

 いいぞ、その素直さはお前のいいところだ。
 そして騙されやすい一面だけはなんとかしなきゃいけないが、いまは利用させてもらおう。
 ささやかな報復の為に、嫌がらせのために。
 そうほくそ笑むラッセルの本心などアンナローズはつゆ知らず――この後、試験に赴いたギルドで飛空艇の操縦なんてないと知るまで、ラッセルのために頑張らなきゃ! と気を張っていたのだった……。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

処理中です...