残念ですが、殿下。浮気ばかりするあなたには愛想が尽き果てました。これにて絶縁させて頂きます!~婚約破棄&国外追放?お好きにどうぞ~

和泉鷹央

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第二章

初回

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 部屋の中にくぐもった声が響いた。
 それはまだ幼い少女のようでもあり、大人の妖艶さをまとった淑女のようでもある。
 恥ずかしさと初めてのそれを我慢し、声を押し殺しながらアンナローズは小さく幾つかの悲鳴を上げていた。

「っ……いたっ、痛い……」
「我慢しろよ、これでも加減しようにも分からないんだ」
「だからっ、もう少し手前からしてくれたら楽なのに……」
「手前ってどっちだよ、上か、下か?」
「それくらい分からないの!? ラッセルの馬鹿……きっつ……い」

 少女はラッセルの視線の上で腰を不器用に落としながら、涙目でこちらを肩越しに振り向きにらんでくる。
 そうは言われても俺だってきちんとやろうとしているのに。
 
「それくらいと言われてもな、おい動くなよ。きちんと背を伸ばせばまだいけるだろう?」
「無理言わないでよ! これでもギリギリ我慢してるんだから。ラッセルが立てばいいじゃないの!」
「俺が座らろうが立とうが、入るものは変わらんよ。もう少し力を抜いたらどうだ? ああ、違うな。この場合は力んだ方がいいのか……」

 どっちなのかはっきりして欲しいとアンナローズは蚊の鳴くような声でラッセルにそっとささやく。
 もうこれ以上は無理で、入るものも入らないわ、と。
 しかし、今更抜くわけにもいかず、緩めるだけならどうにかできそうだが……。

「どうする? 一度、抜いてから考えるか? お前が無理しなくてもいいだろう?」
「貴方が頑張ったってどうにかなるものでもないでしょ!? 私がやりたいの、きちんとしてよ!」
「いやしかし、そうは言ってもなあアンナローズ。自分の目元に手をやってみろ? 涙がにじんでるぞ? 相当苦しいんじゃないのか?」
「いっ、嫌よ! ここまでやって最後までしないなんて絶対に嫌! もっと力を込めなさいよ、使えないんだからもうっ―っ!!」
「だから、こっちを向くなって、おい、痛いからって俺を叩くな!」

 なんの喜劇だよ。
 ラッセルは横目でちらりと壁際にある姿見に映る主人を見て、その苦悩する様に呆れてものが言えない。
 そりゃあ王太子妃補になるくらいの器だ。
 肉体美も素晴らしければ、涙を見せるその苦しそうな悲痛の表情にだってそそられるものはある。
 ただし――これが、そういう恋だの愛だのを語る場、ならの話だ。

「うーっ! なんで入らないのよっ! こんなにひっこめてるのに!!」
「いやだからさー、アンナローズ。コルセットといえども、元の幅があってだなあ。皮ひもを全部解いて締め付けてはみたが、その……な?」
「言わないで! 聞きたくないわ!!」

 ま、もう少し寄せたり上げたりすればどうにでも胸は作れるんだろうが。
 さすがに王国時代のドレスの腰回りが通らないというのは――おかしなはなしだ。
 つまり、彼女はこの帝国にやってきてからというもの、甘い物だの辛い物を食べ歩きすぎてサイズが――そう。
 過去の衣類が少しばかり窮屈になるくらいには、太ったということだろう。
 それをコルセットで締め上げてどうにかしようというのだから、それはもう……涙ぐましい努力が必要とされるわけだと、ラッセルは呆れていた。
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