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第一章
魅了
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「そうなのか。保険がつくのはありがたいもんだな。故郷にいた時の軍人保険はまだ生きているから」
「あら、そうなんだ。退役してもくれるのも大したものね。ないところもあるから」
「まあ、兵士は所詮、使い捨てってのは王様たちの感覚だからな。それで、俺に見合ったものはあるのかな?」
うーん、と彼女――左胸のフリルがふんだんにあしらわれたワンピースの胸ポケットには、透明なプレートにその名前が彫られていた。
ニィ・グエン。多分、それが彼女の名前だ。
ニィが名前で、グエンが家名なのか。それともまとめて名前なのかはいまは判別がつかなった。
「そうねえ。元同盟国の兵士だったって証明書もあるし、竜騎兵だし、ようするに騎士様よね?」
「? まあ、そうともいうかもな」
「なら、男爵位よりは下の貴族様ってこと?」
「それはないよ。騎士は騎士、銃士は銃士。俺は単なる軍人だ」
「そう、貴族様にはあまりというか、登録は遠慮いただいているのよね」
「それは――何故?」
「ここは報われない民のためにある組織だから。貴族籍のある方には、国ごとに尽くして頂かなくちゃ」
「なるほどな……だが、亡命貴族とか。家名断絶したのとかは?」
「その場合は帝国に行ってもらわなくちゃ。貴族籍を手放すならうちは大歓迎だけど。家名断絶したら平民だから問題ないでしょ? 基本的に犯罪者はNGなの。犯罪を犯したやつは必ず再犯するから。ただし、あれかな。冤罪だと神により証明されれば話は別。うちで引き取ることも多いわね。引き渡したら、ほぼ殺されるもの」
「優しいんだな。没落貴族とかもいるっていうのに」
「没落貴族ってみんな間違えてるのよねえ。土地財産手放しても貴族籍あればまだ貴族だから。うちには無用ね。で、貴方の試験だけど。筆記は終わった?」
言葉を交わしながらする筆記試験なんて聞いたこともないんだが。
困った顔を見せ、ラッセルはそれでも一般常識や先ほど交わした会話の中にちりばめれたヒントを元に、設問の空白を埋めることができた。
「これでいいのか? 正解しているかどうかは謎だが」
「確認するわ」
そして数分後。
満点に近い点数でラッセルは筆記試験をパスすることができた。
ついでに知りたかったアンナローズのギルド入りが可能かどうかの答えもある程度は引き出せた――そう思い、ニィ・グエンに満点の笑顔でありがとうと告げてやる。
不思議なことに、彼が改めて彼女に最初に会ったときの様にウインクをすると――ニィ・グエンは眠たそうなねぼけまなこから、まともな顔つきに戻り、ラッセルを送り出していた。
「あら、そうなんだ。退役してもくれるのも大したものね。ないところもあるから」
「まあ、兵士は所詮、使い捨てってのは王様たちの感覚だからな。それで、俺に見合ったものはあるのかな?」
うーん、と彼女――左胸のフリルがふんだんにあしらわれたワンピースの胸ポケットには、透明なプレートにその名前が彫られていた。
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「そうねえ。元同盟国の兵士だったって証明書もあるし、竜騎兵だし、ようするに騎士様よね?」
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「優しいんだな。没落貴族とかもいるっていうのに」
「没落貴族ってみんな間違えてるのよねえ。土地財産手放しても貴族籍あればまだ貴族だから。うちには無用ね。で、貴方の試験だけど。筆記は終わった?」
言葉を交わしながらする筆記試験なんて聞いたこともないんだが。
困った顔を見せ、ラッセルはそれでも一般常識や先ほど交わした会話の中にちりばめれたヒントを元に、設問の空白を埋めることができた。
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「確認するわ」
そして数分後。
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不思議なことに、彼が改めて彼女に最初に会ったときの様にウインクをすると――ニィ・グエンは眠たそうなねぼけまなこから、まともな顔つきに戻り、ラッセルを送り出していた。
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