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第一章
就活
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「まずやるべきことは何でもいい。社会に適応することです」
「てきおう? 何をどうしろと言うの?」
「簡単ですよお嬢様。ああ、いやこれからかな」
「これから??」
身分に適した生活をするべきですね。
ラッセルはそう提案したかったがいや待てよとふと思い、それを口に出すのを止めた。
アンナローズは王国でも数少ない才媛だった。王太子妃補の最上位にいたのだから、その才能は疑いの余地がない。しかしその教育はあくまで王太子妃補としての教育であり、実社会に即したものは知らないのが当たり前だということを、ラッセルは忘れていた。
「お嬢様。確認ですがね」
「何かしら?」
「王国に戻るおつもりはどうですか、ありますか? 今後、もし御赦免がでた場合の話ですが。いや、俺たち家臣としては復帰されるように働きかけるのが使命なんですがね」
「いきなり突っ込んだ話をするのねラッセルは。そうね……戻りたいといえば戻りたい。また殿下と共に過ごすのはい嫌かな。他の女性をたくさん愛したいならそうされたらいいと思うの。でも、王家と侯爵家が数百年も交わした約束を守って来たのに、国王陛下になる前に破棄しようした考えのなさを見ると……未来は暗いから」
「それは殿下の御意思ですからね。裁けるのは陛下くらいでしょうし、家臣の俺たちが下手な意見は言えないものです」
「それは分かっているけど……」
いいですか、とラッセルは右手のナイフを指揮棒のようにして軽く振りながら意見を言い淀んでいるアンナローズにしっかりしてくださいといった熱い視線を注いでいた。
「侯爵閣下はお嬢様の復帰に向けて、根回しに全力を傾けることでしょうね。ですが時間がかかります、何よりまずは陛下と殿下の怒りを解かなければならない。その意味では、死ぬまで王国の土を踏めないかもしれません。もちろん、このラズを支配する西の大陸の覇者、エルムド帝国に亡命するという手もありますが――まあ、帝国に亡命する手はずはもう整っていますけどね。ただ、理解できますよね?」
「……王国と帝国の同盟に亀裂が入るような事態にもなりかねない、そういうことよね?」
「御名答。その通りです。何せ、王国の殿下に対して反逆罪を適用されてもおかしくない言動をされましたからねー。いつ引き渡せと王国が帝国に要求して来てもおかしくないわけだ」
「ラッセルは私をいじめたくて仕方がないのね……ひどい人」
「この事件が起きなければ、今頃は恋人に結婚を申し込んでいたはずなんですよ、お嬢様」
「……ごめんなさい」
「嘘です」
「はああっ!? 何がしたいのよ、貴方は!!?」
「高所恐怖症だって訴えてもその心情を汲んでくれない冷たい主に意地悪しているだけですよ。さて、本題です。世界には六大陸あるわけですが、どこにもあって同じ母体が運営している組織が二つありますが。ご存知でしょうか?」
二大組織のこと?
どこの国にも属さない、古くから世界中で活動するあれらは――国の支配者層からすれば疎ましいこともあるし、影の協力者として手を組むこともある。
「青い月の女神フォンテーヌ様を信仰するフォンテーヌ教会とその運営母体である紋様省。それと――総合ギルドっだったかしら? 魔族や竜族といった強大な勢力に対抗するために、三世紀前に各大陸の著名冒険者たちが立ち上げたあれ?」
「そうですね。ではそのどちらかに所属すればどうなりますかね?」
「ああ……そういうことね。でも教会に所属すればもう一般社会には戻れない。するなら――総合ギルド?」
「ええ。そういうことです。でも所属するのは冒険者ではない方。運営側の方ですかね」
へえ。
そんな手があったなんて。
アンナローズは未来が少しだけ明るくなった気がしていた。
「てきおう? 何をどうしろと言うの?」
「簡単ですよお嬢様。ああ、いやこれからかな」
「これから??」
身分に適した生活をするべきですね。
ラッセルはそう提案したかったがいや待てよとふと思い、それを口に出すのを止めた。
アンナローズは王国でも数少ない才媛だった。王太子妃補の最上位にいたのだから、その才能は疑いの余地がない。しかしその教育はあくまで王太子妃補としての教育であり、実社会に即したものは知らないのが当たり前だということを、ラッセルは忘れていた。
「お嬢様。確認ですがね」
「何かしら?」
「王国に戻るおつもりはどうですか、ありますか? 今後、もし御赦免がでた場合の話ですが。いや、俺たち家臣としては復帰されるように働きかけるのが使命なんですがね」
「いきなり突っ込んだ話をするのねラッセルは。そうね……戻りたいといえば戻りたい。また殿下と共に過ごすのはい嫌かな。他の女性をたくさん愛したいならそうされたらいいと思うの。でも、王家と侯爵家が数百年も交わした約束を守って来たのに、国王陛下になる前に破棄しようした考えのなさを見ると……未来は暗いから」
「それは殿下の御意思ですからね。裁けるのは陛下くらいでしょうし、家臣の俺たちが下手な意見は言えないものです」
「それは分かっているけど……」
いいですか、とラッセルは右手のナイフを指揮棒のようにして軽く振りながら意見を言い淀んでいるアンナローズにしっかりしてくださいといった熱い視線を注いでいた。
「侯爵閣下はお嬢様の復帰に向けて、根回しに全力を傾けることでしょうね。ですが時間がかかります、何よりまずは陛下と殿下の怒りを解かなければならない。その意味では、死ぬまで王国の土を踏めないかもしれません。もちろん、このラズを支配する西の大陸の覇者、エルムド帝国に亡命するという手もありますが――まあ、帝国に亡命する手はずはもう整っていますけどね。ただ、理解できますよね?」
「……王国と帝国の同盟に亀裂が入るような事態にもなりかねない、そういうことよね?」
「御名答。その通りです。何せ、王国の殿下に対して反逆罪を適用されてもおかしくない言動をされましたからねー。いつ引き渡せと王国が帝国に要求して来てもおかしくないわけだ」
「ラッセルは私をいじめたくて仕方がないのね……ひどい人」
「この事件が起きなければ、今頃は恋人に結婚を申し込んでいたはずなんですよ、お嬢様」
「……ごめんなさい」
「嘘です」
「はああっ!? 何がしたいのよ、貴方は!!?」
「高所恐怖症だって訴えてもその心情を汲んでくれない冷たい主に意地悪しているだけですよ。さて、本題です。世界には六大陸あるわけですが、どこにもあって同じ母体が運営している組織が二つありますが。ご存知でしょうか?」
二大組織のこと?
どこの国にも属さない、古くから世界中で活動するあれらは――国の支配者層からすれば疎ましいこともあるし、影の協力者として手を組むこともある。
「青い月の女神フォンテーヌ様を信仰するフォンテーヌ教会とその運営母体である紋様省。それと――総合ギルドっだったかしら? 魔族や竜族といった強大な勢力に対抗するために、三世紀前に各大陸の著名冒険者たちが立ち上げたあれ?」
「そうですね。ではそのどちらかに所属すればどうなりますかね?」
「ああ……そういうことね。でも教会に所属すればもう一般社会には戻れない。するなら――総合ギルド?」
「ええ。そういうことです。でも所属するのは冒険者ではない方。運営側の方ですかね」
へえ。
そんな手があったなんて。
アンナローズは未来が少しだけ明るくなった気がしていた。
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